「あ、ヒル魔君。ほっぺに傷がついてるよ?」

「あ?」

手を当ててみるとすこししびれた痛みがあった

「まず顔洗って!ばんそうこうはるから」

「なめときゃ直るだろ。」

「だめ!ばい菌入るでしょ!だから洗ってきて!」

そういわれてしぶしぶ顔を洗いに行った

―そーいやどこでつけたんだっけなこの傷―

そんな考えをめぐらしていた。顔を冷たい水で洗うとぴりっと痛んだ。

そういえばあるものをとろうとしてパソコンから手を離さずに手を伸ばしたら頬にかすった。たいしたことないと感じたヒル魔はそのまま無視していた

―ああ、あのときか・・・―

まさか傷がいっていることには気づかなかったのだった


「あ、ヒル魔君。ちゃんと顔洗ってきたでしょうね?」

「ハイハイ、言ウトオリニ従イマシタヨ」

またパソコンに向かって座った

「もー!パソコンばっかりむかないで!こっちむいて!」

ぐいっと首を無理やり向けた。そしてばんそうこうを取り出してすばやく貼った

「もう、怪我しないでね」

心配そうに見てくるまもりにヒル魔は

「したくてするわけじゃねー」

「・・・・」

まもりは目をすわらせて見た。モップを掴んで部室を掃除を始めた。

―なによっ!心配してあげたんじゃないの!―

などと心の中で叫んでいた。

口にできないのが余計まもりをいらだてる。

ヒル魔は相変わらずの仏頂面でパソコンをカタカタとリズムよく打っていた。

まもりはただ黙って部室を掃除している。

二人は思った事。

早く誰か来てこの沈黙を破ってほしい。と

それを聞いたのかセナ達一年生がぞろぞろとやって来た。

「こんにちは〜!」

「まもりさんこんにちは!!」

などと皆それぞれの挨拶をして着替えるためにロッカーに入っていった。

まもりは一息つきパイプいすに座った

―・・・やだな、こんな終わり方―

いつもならまもりが何か言ってヒル魔がケケケと笑って終了するのだが今日はなんだかいらついていたのだ。

「ハァー。寝不足だわ・・・」

そう、昨日まもりは書類整理をしていたら宿題があったのを忘れて徹夜でしてしまったのだ。

寝たのは今日の日付の時だった。

そうこうしているうちに、皆が着替え終わってグラウンドに出て行った。

それを追いかけるようにまもりも出て行った。

今日も練習が終わり、皆それぞれ帰っていく

残ったのはヒル魔とまもりだけだった

「・・・・・・・」

「・・・・・・・」

どちらも何も言わずに自分の仕事を着々と続けていた。

―やだな、この空気・・・―

ペンを動かしながら胸のもやもやと戦っていた。

だが、それはヒル魔も同じだった。

その空気のまま8時を過ぎた

「おい、帰るぞ」

「あ、うん。」

しんと静まり返った部室でヒル魔がいきなり言い出したのでまもりは肩がびくりと動いた。

二人はただ黙って歩いていた。

いつもなら喧嘩でもしながら帰っていくのだが二人はどうしたらいいかわからなかった

ヒル魔はもううんざりしてきた。何故こうなってしまったのだろうかと。そもそものはじまりはほんの些細なことだろうと。

「おい」

「っ何?」

―・・・ウゼェ―

いつもなら微笑んで返してくれるのに今日は顔を引きつらせて笑っている。無理しているのがまるわかりだ

「変な顔してんじゃねぇよ」

「なっ!してません!」

ああ、これだ。

この会話によってすべてがもとどうりになっていく。なんて簡単なことに気づかずに一日を過ごしてきていたのだろう

「まったくもう!・・・・わぁ!」

まもりは夜空を見上げて思わず歓声を上げてしまった

「星だわ・・・」

真っ暗な世界の中にちかちかとけなげに光る星。

「ねぇ、ヒル魔君!星よ!しかも満月!すごいキレー」

「ハイハイ」

ヒル魔も見上げてみた。

「・・・・・・」

どちらもまた何も言わずにそこに立ったまま夜空を見上げてどれくらいの時間がたったのだろう。まもりが独り言のように呟いた。



「あのね、今日。私寝不足であんまり元気じゃなかったのよ。」

ずっと夜空を眺めたまま呟いた、ヒル魔も目線をそらさずにただ黙って聞いている

「・・・そろそろ帰ろっか」

「ああ」

帰るときはいつものように喧嘩をしながら楽しく帰ったのだった。


帰り道


嗚呼、最初からこうしていればよかったんだ。