どろどろと感情が寸止めも効かずに零れ落ちていく。
濁流の如く流れ出したその感情は止められず。
赤く濁る血の池を想像する。
だが、眼球にその血の池は見えない。
見えるのは、
「ボ、ス」
困惑した三浦ハル。うざったい女で、俺が今現在殺したい奴ナンバー1。
故に、自分の激情のまま、駆られるかのごとく首に手をかけ、胃に向かって拳を振り下ろしたのだが。
寸止めも効かない感情、それに反抗するかのごとく寸止めになった拳。
ぎりっ、と、己の歯と三浦ハルの首の軋む音。
人形の間接のが曲がるような音をたてつつ、三浦ハルのうめき声もバックコーラスとして参加。
「・・・くそ、が」
「・・・くる、し・・・」
苦しさの涙が目尻に一粒。
それを拭う優しさなど微塵も持ち合わせてなどいない。
持て余した怒りの燃費の悪さに手を離す。
はひ、と声を出して何度も呼吸を繰り返す。
その喉をかき裂きたい。その心臓を貫きたい。
殺人衝動だけが泉のようにわきあがり、沈んでいく様子は無い。
はっ、はっと息が整ってきた頃、ベッドから上半身を起こした三浦ハル。
虚勢を張っているようには見えないが、堂々とした、恐怖の色を見せないその顔がまた俺を憤慨させる。
「・・・ボス・・・」
「黙れ。」
「・・・・ハルは、」
「黙れ」
二度そう言うと無言になり、暗闇の中には小さな光など見えない。
空気の換気をしたこの部屋が湿気ているように感じる。
喉元に手を当てて、こちらをずっと見ている三浦ハル。
「・・・ハルは、いつか、ボスが」
殺そうとしてもまだ言葉を話すのか。この馬鹿女は。
あまりにも馬鹿なこの女の口を閉ざすのももう疲れた。
完璧に、銃で殺す。
懐からそれを取り出し、静かに、三浦ハルに見えないように銃口を向ける。
死ね。
「いつかボスが、怒りが愛に変わればいいなと、思うんです。」
と、
三浦ハルが言った。動きがまたストップしてしまい、引き金が引けなかった。
「怒りが、暴力が、何かを愛しむ何かになればな、と。」
ゆっくりと、緩慢な動きで捕らえた俺の手の甲。
銃を持っている俺の手に、乗せてきた女の手。
「そうすれば、きっとボスは幸せになる。」
薄幸なんですもん。ボスってば。
困ったように笑う表情に、情け無く手の力が緩む。
俺の愛銃が自分のベッドにぼすん、と落ち。俺も落ちた。
絶望と紙一重のソレに手を伸ばす、
貴方は母性を持ち続けますか