ああ。と声を出すのか。

それともうわ。と声を出すのか。

どっちにしようかと悩む時間なんて無かった。

「ヒッ」

違う言葉が喉から飛び出てしまったので、もう遅い。

 

 

 

 

「やぁ。」

なんて、にっこり笑顔で言われると、鳥肌がどんどん侵食して頭皮までぞくぞく裏返る感覚。怖い。笑顔というものは安心感を覚えるものの筈なのに。

俺の笑顔は、与えられたらいいなー・・・。などと思いつつ、作り笑顔を見せる。

冷たい笑顔が一気に真顔に変わって俺に襲い掛かる。

「何がおかしいの。」

「えっ・・・いえ・・・」

びくっと反応して後ろの部屋にいる部下二人ともう一人に何か伝わらないかと考える。

早く脱出させて、此処に居ない事を雲雀さんに言いたいんだけど・・・

「沢田。いるんでしょ?証拠は掴んでるよ。」

「はい!すみません居ますー!」

土下座しそうな勢いでそう言って部屋に招き入れる。ずかずかと大股で歩く雲雀さんの後ろを慌てて俺も追いかける。

バンッと大仰に開いたドアの向こうには、仲良くお茶をしている山本と獄寺君とターゲットのハルが居た。

「ひっ!」

俺と同じような声を出して、カップの中にある紅茶が空中を軽く舞ったのを見た。

「雲雀!」

「お、結構早かったのなー」

「早いも何も、どうせ此処だと思ったからね。」

腕組みをして閉じていた眼を開けた。その眼光にハルが凍りつき、獄寺がその豪胆な態度に苛々し始める。

「テメェ!かってにずかずか入り込みやがって!」

「何言ってるの。此処は仕事場でしょ?ボスの部屋。守護者である僕が入って何が悪いの?」

「――っ!この野郎!」

「はひ!ストップです獄寺さん!紅茶がこぼれちゃいます!」

「心配するのはそっちなのかよハルー」

あはは。ひでーな。と笑いながら二人を止める気配の無い山本と、すぐさま勃発しそうな喧嘩にハラハラする俺とハル。

「あ、ハル、キッチンにクッキーあったろ?あれ持ってきてくんね?」

「あ、はい。・・・って、今はそれどころじゃないんですよ!山本さん!」

「あははー!わりーわりー。今のはちょっと冗談」

空気を読めない山本はそんな事をにっこりと爽やかな笑顔で言うものだから、俺は横にいる黒いオーラを出して、さらに殺気まで出している雲雀さんの顔を怖くて見ることが出来ない。

正面で向かい合ってにらみ合っていた獄寺君も少し顔色が悪い・・・

「や、山本・・・」

いろいろと思いを込めて名前を呼ぶと、ん?と何も分かってないような顔で返事をする。

「あー。そうだなー、そろそろ昼飯だな!」

違うーーー!!

分かったような声と表情でそう言い放つ山本。ラーメン食いてーな!と、俺も賛同する意見を出したけど今はNO

「えぇっと・・・恭弥さん・・・・」

言いにくそうに、話しにくそうにハルが一生懸命話しかける。喧嘩して飛び出して、今まで愚痴っていたのに。

俺達が危険だから、譲歩するんだ。

「ハル、大丈夫だから。」

いっつもハルが頑張ってるの知ってるし、昔からはりきりすぎる所もあるしね。

たまにはこういう無謀な事もした方がいいんじゃないかな。俺。と自分を説得する。だってそうしなきゃ更に不機嫌オーラが増した雲雀さんに向かっていけないし!

視線もあわせられないけど。

「はひ・・・ツナさん・・・」

見ては無いんだけど、微妙に十年前の時を彷彿とさせる声色だ。

両手を握って眼をキラキラさせて俺を見るハルの顔を思いだす。え、まさか。と思いながら、それを確認するのも怖くて。もう殺意の塊となった雲雀さんに、何ときめいてんだよハルーー!!と、あまりにも羨ましいような突っ込みをする。

いや、俺プレーボーイとかそういうんじゃなくてさ、純粋にやめてほしい。今この現状で。

「アホ女、テメェ何ときめいてんだよ!」

「はひ!」

いや、声出して言わなくても!

「へぇ・・・やっぱりそうなんだ。」

「納得しないでください!違います!断じて違います!」

「もういいよ、沢田。君達殺すから。」

もう噛みすら出さないくらい怒りの雲雀さん。

死ぬ気になってもこの人には勝てないから。と、涙を流して三人とも噛み殺された。

 

 

 

 

「ねぇハル。どうして勝手に出てきたの。」

「どうしてって・・・酷い!馬鹿!恭弥さんの馬鹿!思い出してください!」

「冷蔵庫にあったケーキを食べたくらいで家出なんてしないし・・・」

「それです!分かってるんじゃないですか!あれハルの手作りだったんです!折角自分で食べようと・・・」

「何言ってんの。だから食べたんだけど。」

「へ・・・?」

「君が作ったんだから食べたんだよ、じゃないと食べないよあんな甘いモノ。」

「――――」

 

 

 

ときめきは再び

 

至朗さんに密かに応援メッセージとして。(コソッ