「はひ、ツナさん。」

廊下で偶然出会って笑いかけられた。

にっこりと笑って手を振ると、あっちも笑って手を振ってきた。

ぱたぱたと足音を響かせて、こっちにやってくるハルは本当に何にも変わっていない。

「久しぶりですねー!元気でした?」

「うん。まぁ、リボーンによくしごかれてるけどね」

「ふふっ。リボーンちゃんは大人になってもツナさんの家庭教師なんですね」

「一生それが十字架となって俺の背中にのしかかるんだろうけどさー・・・辛いよ」

思わず零した愚痴を、いつも何処かで恐ろしい家庭教師が聞き耳を立てていたりするのだが、今はそんなのまったく頭から滑り落ちていた。

まだくすくすと笑っているハルが持っている書類に眼を落とす。

「それ・・・」

「あ・・・そうでした。これツナさんに出そうと思って」

丁度良かったですー。と差し出されて受け取った。

雲雀さんの字だった。

「珍しいな・・・雲雀さんが書いた書類って」

「そうでしょう?まったくしないものですから、もういい加減にしてください!って怒ったんですよー」

「・・・そうなんだ」

何だろう。すっごい変。

いや、雲雀さんとハルが喧嘩する図がおかしいとか、尻に敷かれる雲雀さんとかじゃなくてさ。

何だろう。

腕時計を見てあっと声を上げた。

「それじゃあ、ハルは帰りますね?」

「うん。雲雀さんに束縛されてあんまり来れないだろうけど、また来てよ」

「はひ・・・ツナさん、言うようになりましたねー」

「・・・・今の、雲雀さんには・・・」

一瞬にして冷や汗が浮かび出てきて、人差し指を立ててお願いする。

眼をぱちり、と開けて直ぐに花が咲いたような笑顔を見せて

「もちろんですよ!」

本当に安心できる笑顔だった。

大きく手を振って雲雀さんの下に帰っていくハル。姿が見えなくなり、手元にある書類を見つめる。

結婚、したんだよなぁ。

つーか。雲雀さんが恋愛なんて吃驚した。

いつの間にか、俺の前から消えていたハルは、いつの間にか当たり前のように雲雀さんの隣に立っていた。

其処は副風紀委員長の草壁さんかと思っていたけど、その人は後ろから二人を慈悲深く見守っていた。

女の位置と、男の位置はもちろん違うけど、其処には女の立ち位置は絶対に作らないって思ってたから。

隣に立って、幸せそうに微笑むハル。

そんなハルを静かに、でも優しく雲雀さんも幸せそうに微笑む。

凄いと思ったんだ。

純粋に、凄いって思った。

でも、それ以上の何かが俺の中にはあった。

何なんだろう。

何なんだろう。

分からない。教えて、誰か。

くしゃり、書類が歪んだ。

雲雀さんの字も歪んだ。

 

 

切なさの残響