腹立たしい。

沢田綱吉という人間は、まったくの餓鬼だった。青臭い恋愛劇を繰り広げていたり。

戦いもまるで駄目だった。強い時もあるが、根本的な精神力ではまるっきり相手にならない。

群れているあの二人は強い方に分類されるのだろうけど。でも弱い。

弱い奴に守られている奴なんて最低最悪だ。馬鹿だ。

それなのに三浦ハルはその馬鹿を好きだという。

馬鹿だ。

 

 

 

振られても尚、断られても尚、沢田綱吉に彼女を揺さぶらせる事が許せなかった。

これだけ僕を、彼女を悩ませておいて、更にかき乱して彼女の精神をおかしくしてしまうなんて馬鹿じゃないのかと思う。

だから馬鹿じゃなかったって事だけはよく分かった。

でも、ショックを受けたのは受けたらしく、ボーっとしている事が多くなった。

宿題に頭を悩ませていた目を落とす前、ふと視線を上にずらせばシャーペンを持ったまま何処かをボーっと見つめていたり。

その様子に眉を歪め、視線を元に戻して、ちらりと見てみるとソファーに横になっていたりとか。

その行動に驚いたり苛ついたりするのだが、元にもどれば直ぐに彼女の笑顔が見れるので、迷っている。

沢田綱吉をタコ殴りにするか、噛み殺すか。

ハルを身ながらそんなことを考えていると、ソファーに横になったハルがむくりと起き上がり、ふらふらとドアの外に出て行こうとしていた。

「何してるの?」

「・・・・・妖精を探しに」

「そう。病院行く?ケーキ食べる?」

「・・・・ケーキ・・・」

「うん。」

「・・・・・・・」

ハルは黙って首を縦に振って、またよろよろとソファーにボスッと座った。

ああ、恐ろしい。

何に対してかなんて分からないけど。とケーキを出しながら思う。

馬鹿だ。本当に。

何でこんな子を好きになってしまったんだろう。

いつの間にかケーキを冷蔵庫に占領されてしまっていた事に今やっと気が付いたが、それがどうしたという由々しき事態だ。

元気が無い。またソファーに寝転んで怠惰に口を開けて、腕も落ちてしまっている。

「ハル。」

「ふぁーい・・・」

介護しているのかと誰かが言いそうだな。

腕を引っ張ってもだらけて起き上がらない。腰にもう力が入っていないんだ。

立ち上がり、背中に手を添えて据わらせると、神々しい光を放っているように見えるんだ。と昔言っていたモンブランが視野に入ったらしい。

生気が眼に宿った。

「モンブランっ・・・・」

頬が赤くなり、ぱぁ!と笑顔が顔に宿る。

フォークを持ち、さっそく食べ始めた三浦ハル。

頬杖をついて、その顔をじっと見つめる。動物を見ているように。

 

「おいしい?」

「はい!とっても!」

「そう。」

 

頭にふと浮かんだ関係図。

・・・・いや、それはない。

妥当なその図形を頭の中で霧散させた。

 

 

 

女王様と下僕。