ただただ楽になりたかった。くべられた薪が爆ぜる音がよく似合うような、凍てつくまだ見ぬ冬に恋焦がれる夏の季節の真っただ中。
寒さに震えて楽になりたかった。
灼熱の炎の中、息絶えるのはどうしてだか嫌だった。
「今、どこですか?」
「それより君、どうして髪の毛を切ったの?」
何も言っていなかった。知らせてはいなかった。違う誰かから情報をもらったのだろうか。
貴方、どうして自分の眼で確認しようとはしないのですか。
「そちらは寒いですか?」
「夏なんだから暑いに決まってるでしょ。」
「そうですか、暑い国にいるのですね、ならば南米でしょうか、もしかしてハワイですか?」
「ああ、仕事が入った。もう切るね。」
「―――ひば、」
これは優しさなのかもしれない。彼にとっては。
でもハルにとってはただの意地悪にしか感じないのですよ、と、通話が切れた携帯を睨みつけて異国の彼へ電波を送る。
きっと受け取ってはくれないだろうと思ってリダイヤルを押す。
彼は電話に出なかった。無機質な携帯の音にハルはただ涙を流すばかりでした。
いつも息をのみこんでいるばかりのハルでしたが、今度は彼に息を飲ませることが出来ました。
ハルはそれを望んだわけではなかったのですが、そうなってしまった事にまるで優越感に浸れずにいました。
「・・・今なんていったの?」
「別れて、ください。」
もう沢山だったのです。ハルは恐ろしく子供で、好きな人が傍に居てくれないとウサギのように寂しさで死んでしまうのです。
何も情報も愛情も与えられない今のこの状況は、恐ろしい拷問と同じくハルには苦痛以外の何者でもないのです。
こうして別れを切りだす事になってしまったのはとても悲しいです。
そして顔を見れずにこんな事を言ってしまう今はとても虚しいです。
「何言ってるの。」
「本気ですよ、ハルは」
「構ってほしいからってそんな事言わないでよ。」
「そんなおバカじゃないです。ハルは。」
そんなに構いたくないのなら、別れてください。
そう続けると雲雀さんは沈黙を開始しました。ハルは時間があります。仕事ばかりの雲雀さんとは違って、ハルはいつでも待って、待って、待ち続けて今この状況になっているのです。
彼はちゃんとそれを理解しているのでしょうか。
知りたいような知りたくないような。
「・・・ハル、」
そんな泣きそうな声で今更呼ばれても困ります!
雲雀さんはプライドが富士山よりもエベレストよりも高い人です。そんな彼にどれだけ今まで振りまわされてきた事か。
「ハル。」
「・・・駄目です・・・ハルは、傍に居てくれない人なんて・・・嫌いです。」
はっきりとこう言わなければいけなかった。彼にじゃなく、ハル自身に向かって言わないといけなかったのです。、
電話の向こう側が一体どこなのか分からないのです。海のさざめきも聞こえませんし、鳥のさえずりも聞こえません。女の人の声も聞こえないのでよかったです。
雲雀さんが沈黙しているので、向こうが一体何処なのか、音で調べますがやはり何も聞こえません。
何処かの静かな建物の中に、もしかしたらホテルかもしれません。
雲雀さんに足りないのは勇気なのです。
こんな事ツナさん達が聞いたらそれはない。と多いに否定されるかもしれませんが、雲雀さんはとても臆病な人です。
ハルがもしかしたら事件に巻き込まれてしまうかもと考えてしまう、ネガティブ思考の持ち主なのです。
そんな困難、愛の為ならハルは乗り越えられるのに、それを分かっていないのです。
女の子は常にロマンティックで形成されているのです。たとえどんなに血なまぐさい場面に居合わせたとしても、それが愛の為となれば頑張る事が出来るのに、その可能性をあの男の雲雀恭弥さんは知らないのです。
そんな優しさを知りながらも、ずっと雲雀さんを悪者にしているハルはもっとひどい女なのです。
だから、優しい雲雀さん。
ハルは貴方の手のひらだけでもう、充分だったのですよ。
「だから、今から一週間の間に、日本に、ハルに会いに来てくれるというのでしたら、別れません。」
決意の足りなかったハルはそう言ってしまいました。
そしてそれから2時間後、意地悪で史上最悪な雲雀恭弥さんの顔を拝んだ瞬間に思わず殴り飛ばしてしまったのです。
ずっと日本に、というか近くにいた雲雀さん(←
必殺わけわかめボンバー!
title 泣殻