僕はまだ言葉を持っていた。彼女よりも程良く言葉を選べるものだと自覚していた。

それを彼女の一言によって簡単にその矜持を折られる事が過去数回あった。それは彼女は知らなくて、僕だけがもやもやと抱え込んでしまっているだけなのだけれど、まったくもって不愉快だった。

だから僕にも理解できて彼女が落胆する現場を、顔を行動を僕はずっと眺めていた。それは過去に数え切れないほどにある。

セーラー服のスカートの裾を掴んで縋りよる三浦ハルを見下ろした時のあの快感は何だろう。

トンファーで殴るよりももっと高揚感が得られた。

過去に数え切れないと明記した。それ故数を重ね過ぎた為、今度は違う視点で三浦ハルを突いてみようと思うのだ。

 

 

 

「僕ね、本当は結構好きなんだよ群れって。」

「僕っていうのかっこいいと思いますけど、やっぱり私って言った方がかわいらしくて雲雀さん素敵です。」

「その群れの一部になるのは絶対嫌だけどね。男の群れは嫌いだよ。女の群れは好きなんだ。」

「あと集団行動を群れというのはやめてほしいです・・・まあ、群れているのは本当なのですが。」

「なんて言うのかな。あのギスギスした感じ?女の醜さ、自分の醜さを理解しつつも表面では美しい友情を謳歌してます。ってあの顔。胸糞悪い笑顔。」

「そんな言葉を使っちゃ駄目です。」

「会話の中の余計なひと言が、その時までにほがらかだった笑顔を凍りつかせるんだよ?ねえ見たことある?空気が一気に変わるんだ。そしてすぐに何事も無かったかのようにまた笑顔で偽善ごっこ。本当女っていうのは腹立つけどかわいいよ。」

「え、ハルもかわいいですか?ハル、一応雲雀さんの言う群れなのですが!」

「ううん。かわいくない。」

「ええー!?」

この会話でかわいいと言われたいのだろうか。本気で残念がっている三浦ハルは、僕の皮肉が何も伝わっていなかったらしい。

女の群れはちょっと本音を漏らすと一気に溶けかけの氷のように脆くひびが入る。それなのにその皹を見なかった振りをしてそのまま放置するんだから、なんて言うか浅はかというか、可哀そうだ。

「雲雀っていう苗字すごく素敵ですよね。小鳥さんと同じなんて。」

僕の前で一人、僕の眼を見て自然な笑顔でそう言ったこの子は群れの中に居る時はどんな存在なのだろうか。

あえて見てみたいとは思わないけれど、僕の前で笑っているこの子しか知らないからちょっと気になる。

「君は群れの中でどう生活してるの?」

「団体行動、の事ですか?」

わざと強調しながらハルはにっこりと笑う。

「そりゃあもちろん普通に生活していますよ?」

「その普通が何なのか聞いてるんだけど。」

普通とは何か。酷く論理的な事を頭の中で思い浮かべる。

普遍とは何か、普通とは何か。

誰もが僕に求める一般性とは何なのか、僕はもしかしたら無意識にこの子からそれを聞きだしたいだけなのかもしれない。

「おしゃべり・・・?」

「ふうん。」

「えっと・・・他は何でしょう・・・いえ、生活ですよね?そりゃあ睡眠と食事をして・・・」

「人間の生態系には興味無いよ。」

「人間だけじゃありません。この二つはどの生き物にも大切なものです。」

「あと性欲ね。」

「・・・そゆこと、言わないでください・・・」

「女の方が男よりも猥談してるけど、君はしないの?」

「っ・・・な、・・・」

カッ、と頬に火がついたように赤くなった。眉を吊り上げて、何を言いたいのか言葉は零れることなく口が開閉するだけ。

行き場の無い両手の拳はずっとソファーの上に押し付けるようにして耐えている。

そんな馬鹿な子を頬杖をつきながら見ている僕の視線に耐えられなくなったのか顔を背けた。

ああ、駄目だ。この流れだと二日ほど口を聞いてくれなくなってしまう。

「嘘だよ。冗談、怒らないでよ。」

「・・・・・」

「ねえ、一緒に出かけた時には何処に言ってるの?」

「・・・ケーキ屋さんとか・・・です。」

顔を背けたままぽそりと漏らした。

ああ、その背が愛しいよ。馬鹿以外の言葉が思いつかない。

彼女はいい意味で純情でドリーマーなのだ。ロマンティックを主食として、子供となんら変わらない少女アニメや漫画、少年漫画のご都合主義が大好物なのだ。

そんな偏った栄養価の高いものを食べていればこうなっても仕方ないかもしれない。

「ケーキ・・・か、うん。今度の日曜日行ってみようかな・・・ハル、一緒に行く?」

「ほ、本当ですか!?」

こうして簡単に操作できてしまう。今さっきまで背けていた顔が、ひまわりのような笑顔をこちらに向けている。

どんなケーキを食べようかと考えているハルの脳内にはそれだけなのだろう。今さっきまでの会話など何処かに吹っ飛んでしまって、今頭の中には甘いものしかない。

こうして僕のように彼女を操作する人間は、もしかしたらいるかもしれない。

それが女だとしたら、その女の醜さをこの子はいつかきっと気付くと気がくるだろう。だって、そんな事をする人間なんて腹黒いに決まってる。

それが女だとしたら、対象外だ。彼女は清らか故に防御壁がお堅い。女以外には隙を見せることは決してない。

 

「雲雀さんはミルフィーユはお好きですか?」

「さあ、どうだろう。食べた事がないから分からないや。」

 

つまりは、三浦ハルは僕のモノという事。

 

 

 

わけわかめ。

まあこの小説の説明は最後の一文だけで片付くと言う事ですね。

スランプ、そして性転換というお題故にクオリティが悪くなってしまいましたごめんなさい・・・!

 

リクエストどうもありがとうございましたーw

 

 

 

title 泣殻