私は腰を下ろしたまま、ハルちゃんを静かに見上げた。

ハルちゃんはずっと私の視線を感じているんだろうことはわかるけれど、こちらを向こうとはしなかった。

「逃げないで、ほしいの。」

ああ、逃げていたのは私だけなのに。

ハルちゃんは下唇を震わせていた。それを噛みしめて我慢しているけれど、それでも私を見なかった。

視線を逸らしたままのハルちゃんの顔は完全に私と視線を交えたくないというのが分かるほどに違う場所を見ていた。

顔色は真っ青で、今にも泣き出しそうな顔をしていた。

肩まで切られた髪の先が震えていた。握りしめた拳も震えていた。

彼女の中に、いや、彼女とあの人の間に小さな火種が燻ればいいと思った。

それなのにこれは爆竹になったのかな。

手に簡単に持っているグラスの中にある液体のせいで、彼女達の中に私の隠してきた想いを吐露してしまった。頑丈に蓋を閉めたはずだったのに、どうしてあふれ出てしまったのだろうか。

「・・・逃げないで・・・嫌わないで・・・」

「・・・・・」

まるで私がハルちゃんに捨てられそうになっているような台詞を吐きだす。

ハルちゃんの眼に涙が溜まっていく。泣きたいのは私なのに。

ふと見た左手の薬指にある銀色の指輪が殺気を放っているように感じた。アレにもし口づけたら私は毒殺された事になるのだろうか、それとも自ら死んだ事になるのだろうか。

三浦ハルの目尻から涙がこぼれた。

私はその時やっと虚勢をはずした。恐ろしい程に三浦ハルは脆くて弱くて、私と一緒の恋する女の子だった。

私は、初めてで。

この恋という感情が初めてで、どうしていいか分からなくて、どう動いていいのか分からなくて、奪うべきなのか、それともそっと諦めるべきなのか分からなかった。

どうしたら一番なのか考えている間に、ハルちゃんと雲雀さんはくっついてしまったから私のこの考えはもう一生言うべきでも公に出すわけにもいかなくなった。

しかも結婚するっていうから、私はショックを受けたし泣いたし悲しかった。

もうやけになって憎い恋敵であるはずの親友とお酒を飲める歳を越したから、こうしてお酒片手に色々と今までの事を話していたのに。

 

――ああー、いいなあ。私も雲雀さんと結婚したかったなぁ。

 

なんて、酒息とともに漏れた言葉は胸中でとどめるつもりだったのに。

受け流してほしかったけれどそれは無理だと言った後分かった。ハルちゃんのあの顔、私きっと忘れられない。

私は間違っていたのだろうか。中学生時代に雲雀さんに猛烈なアタックをしていればよかったのかもしれない。

こうしてお酒をハルちゃんと一緒に飲まなければよかったのかもしれない。

言ってしまったあと、私は此処から走り去ってしまえばよかったのかもしれない。

ハルちゃんの部屋の中は重苦しい空気が漂っていた。ベッドに腰掛けている私と、ふらふらと立ちあがっているハルちゃん。

ずうずうしいな、私。部屋の主が立ってて客が座ってるなんてちょっとどうなのかな。

でも立つ気にはならない。立てない。動けない。もう、言葉を発する事も出来ない。

アルコールが口から出て行けばいいのに。飲んだ事実も無くなって、私が雲雀さんを好きになった事も無くなって、ついでに雲雀さんとハルちゃんが付き合う事実も無くなって。

全部全部無くなってしまえば、私達は何の束縛も無く友人として過ごせていたはずだったのに。

運命が悪いのか、私が悪いのか、ハルちゃん達が悪いのか。

「ハルちゃん、ごめんなさい・・・私、」

「・・・京子ちゃん・・・」

ハルちゃんのその声は泣きそうだった。もう泣いているけれど。

ただ私を呼んだだけのようだった。ハルちゃんは私に言いたいことはあるのだろうけど、それをどう言語化していいのか分からないのだろう。

いきなりの事でわけがわからなくて、言いたいことはただ一つ、雲雀さんが好きなの?というだけだろう。

その日、私はどうやって帰ったのか覚えていない。あれからの会話もしたのかしなかったのか分からないまま夜を過ごした。

朝起きて日が上っていた。暫く経つと、昨日の事を思い出して心臓が重苦しくなった。

朝の新鮮な空気を肺に溜めると、まるで毒を飲み込んだように息をするのがつらくなった。

朝ごはんを食べた後、自分の部屋に戻ると携帯にランプが点滅していた。メールが来ていた。

私はハルちゃんの顔を思い浮かべて、おそるおそる携帯を開いてボックスを見た。やっぱり予想していた名前がそこにあった。

開いてみるとそこには謝罪の言葉があった。

ボタンをかちかちと押して読み続ける。此処まで打つの、大変だったはず。

ぼんやりと全部読みあげて、私は携帯をベッドに放り投げて膝を抱えて顔を埋めた。

伸びた髪の毛が足を擽った。

ハルちゃんは戦慄を覚えるほどにいい子だった。ハルちゃんが好きだったツナ君が、私を好きだったと告白された時以前からハルちゃんはいい子だった。

ツナ君が私を好きだった。その事実がどれほど辛いものか、雲雀さんを好きになってようやくわかった。

心臓が捩じられるようなあの感覚、憎むべき相手が親友だった事に、もし親友じゃなかったら憎むのかもしれないという私の汚さに泣き続けた。

もがき苦しみ、ずっと別れないかな。なんて淡い期待をしていた私が、やっときっぱりと諦められる時が来た。雲雀さんはハルちゃんが好きで、きっとこれからも変わらないんだろうと思えるほどラブラブだったから。もう結婚したら私は入る隙間なんてあるわけないし、そこで切り離されておしまい。国境よりも超える事が難しい領域の線がはっきりと記されて、私は此処には来てはいけない、踏み込んではいけないとはっきり分かるようになるのに。

それなのに、その線を描いている途中で私はその線を足で踏みつけ消してしまった。

 

ツナさんを、見てあげてほしいです。

 

長文に埋もれそうになっていたその一言は私を傷つけたと同時に、優しさを垣間見せる一文だった。

諦めてと遠まわしに言ってくれているのだろうけど、その中には私を救おうとする聖書のような言葉でもある。

あまりにも残酷すぎて救われてしまいそうになる。

自己嫌悪、罪悪感で今押しつぶされそうになりながらも、結婚式に着ていくドレスを迷っていたけれど今、決めた。

貴方達を心から祝福できるように、私はせめて見た目だけでも取繕ろわなければならない。

 

 

 

全体的にバランスが危ういしもう雲雀さん出てこないし乱文だしもうやだ私を誰か一発殴ってください orz

ヒバハル要素が無いというね。殆どないよミクロンだよナノだよ。

あああ・・・スランプ・・・スランプが全部悪い!

前座にしようとしていたのですがあまりにシリアスになりすぎたのですがとりあえずup

 

リクエストありがとうございましたー!こんなものですみません!

 

 

 

title 泣殻