僕の背丈から見える景色はたかが知れているかもしれない。

あの人やハル姉が見た景色を遅れて今見ているだけかもしれない。

それでも僕はこの景色が今の真実で全てで、気持ちだって幼い恋心という言葉で片付けられるようなものなのかもしれない。

精神が不安定でブレーキがきかないだけかもしれない。

軽いものは弾んで坂を跳ね下りてしまう。

そんな、ゴムボールみたいなものなのかもしれないけど。それでも。

子供だから、欲しいものは欲しいと素直に思っているだけなのかも、しれないけど。

 

 

 

ハル姉は優しかった。

ランボに対してもイーピンに対しても。一番はツナ兄だったけど。

その優しさが向けられて素直に喜んだ。何て優しい人なんだろうって。

此処まで来る間に接触してきたのは顔に傷がある人や筋肉が腕を覆い隠している人やら、何に対しても力でねじ伏せようとしてくる人間ばかりだったから。

女の人とか、そういう優しさを向けてくれるような人は居なかった。

心と同じ黒いスーツを纏った男ばかり。女の人もいたけれど、香水を振りまいてその男達の傍にべったりと張り付いていて、僕には何の興味も示してこなかったけど。

母性が欲しかった。

寂しかった。

この大きな本を抱えて何処に行こうと縦横無尽に彷徨っていた時にツナ兄に救われて。

そういえば、どうして僕はママンじゃなくてハル姉が好きなんだろう。

今までの殺伐とした空気から開放されて、ぬくもりの布団の中で漠然とした疑問が浮かび上がった。

ランボの寝言が鼓膜を大きく刺激していたけど、脳には伝わってこないほど真っ直ぐに暗い天井を見上げて考えた。

まだ両手を使って数えられる人生の年数の僕が考える。

好きだよ、ハル姉。

ママンともビアンキとも京子姉とも違うこの感情はなんだろう。

どうしてハル姉は違うんだろう。

この間ケーキをご馳走してもらったから?ランボの世話をしていて褒めてくれたから?でもそれは京子姉も褒めてくれた。頭を撫でてくれた。

ハル姉も撫でてくれた。

手のひらの感触を思い出して、胸がぎゅうっ、となる。

嬉しいを通り越して苦しい感情は知らない。

だからハル姉はとにかく、ママンでもビアンキでも京子姉とも違う存在なんだとしか思いつかなかった。

優しいからだ。

ハル姉は、誰よりも優しくて強いから。

だから、大好きなんだろう。

ほら、

「はひ!大丈夫ですか!?」

「・・・うん、大丈夫だよハル姉」

今日も優しい。

ランボが後ろから押してきて、砂場に転んだ僕にしゃがみこんできてくれる。制服が砂まみれになろうとも心配してくれる。

悪戯をしたランボを叱って、ちゃんと僕に謝るように促す。

厳しくて、優しく。

「ほら、ランボちゃん。」

「やだもんねー!」

「駄目です!今謝らなかったら、フゥ太君はもう遊んでくれませんよ!」

「え・・・!?」

吊り上げた眉と叱咤する声。

じわっ、とランボの眼に涙が浮かんでいる。

「ね?謝りましょう?」

直ぐに微笑んで口元を綻ばせる。ランボのもじゃもじゃ頭を撫でてランボの背中を押す。

「ご・・・ごめんだもんね・・・!」

「うん、もういいよ」

そんなに痛くも無かったから。

ランボはそう言うと、直ぐに僕から離れて遠くにいるイーピンと京子姉の所に走り去ってしまった。

その行動に何か言いたげなハル姉だったけど、ちゃんと謝ったランボをまた叱り付けるのもどうかと思ったらしく何も言わなかった。

「砂がまだついてますね。」

僕のズボンについた砂を払ってくれる。

その行動がお母さんみたいで、嬉しかったり、ちょっと寂しいと感じた。

何でだろう。

ハル姉がしっかりしてるから?

ううん、でもハル姉は凄くおっちょこちょいだ。

「? どうかしましたか?」

「っ、」

僕のズボンばかり見ていたハル姉が顔を上げて、ぱちぱちと瞬きをした。

子供の僕よりも大きな瞳はとっても綺麗で、睫毛も長くて、肌も真っ白。

顔が熱くなってきて、この顔は見られちゃいけないと思わず走り出してしまった。

「はひ!?どうしたんですかフゥ太君!」

「なんでもないよ!」

「・・・も、もしかして、転んだ衝撃で何処か痛いんですか!?」

「違うよ!」

混乱する頭で考えたのは、顔を洗おう。

公園の水道水で顔を洗えば、冷たくなってこの熱も引くだろう。そう思って駆け出すと、中心に駆け出してそこでランボとイーピンが水を出して遊んでいた。

「ど、どいてどいて!」

「ぷぎゃ!」

「フ、フゥ太君?」

京子姉が驚いている声が聞こえたけど、後ろから追いかけてくるハル姉の気配。

蛇口を思い切り捻ってそのまま頭を下げて水を浴びた。

「え、ちょっと・・・」

「うわーん!」

後頭部から流れ落ちる水が頬に伝って、気持ちがよかった。

武兄が野球した後にこうしてる気分がちょっと分かった気がする。

イーピンが泣き出したランボを慰めている間に、ハル姉が息を切らせて僕に近寄ってきた。

「どう・・・したんですか・・・フゥ太君・・・」

「ど、どこか怪我したんじゃ・・・?」

「はひ・・・それじゃあ、直ぐに消毒しなくちゃ・・・どこ怪我したんですか・・・?」

そういって僕の肩に手を置いてくるハル姉。まだ息も整ってないのに心配してくれる。

多少熱が引いた頬だから、大丈夫かなと思ってそぉっ、と覗き込むと心配したハル姉の顔が見えた。

「・・・はひっ!?」

「どうしたのハルちゃん」

「フ、フゥ太君、熱があるんじゃないですか!?」

「えぇっ!?」

「だって、ほら、顔が赤いですし!」

「あ、本当だ・・・!」

京子姉まで覗き込んできて、つい頬に手を当てるとまだじんわりと熱を帯びていた。

慌てる京子姉はランボとイーピンを抱き上げてハル姉と一緒に帰ろうとしている。

僕の手を握ったハル姉は直ぐに家につれて帰ってくれたけど、体温計で図ると当たり前のように平熱だった。

無意味に騒がせてしまったのに、ランボなんてまだ遊びたかったのにと文句を言ってきたのに。

「よかったです・・・熱がなくて・・・」

ふにゃりと笑ってくれたハル姉。

ハル姉は優しかった

今もあの時もずっと優しいままだった。

 

 

「ハル姉は、きっとボランティア精神が強すぎるんです。」

認めたくない。

「それは狂気と同じで、どうしようもないんです。」

狂ってるんだハル姉は。

「だから、」

「認めたくない、って?」

「・・・・」

不敵に笑うこの人は、人を蹂躙する力を持っている。それは正義の為にも使えるのに、この人はそうしようとしない。

それなのに、ハル姉は優しい人だと言う。

優しいのはハル姉だ。

爪が手に食い込んで血が滲んできた。それほどに、悔しい。

「昔から、そうやって反発してたよね。君。」

並盛中の屋上で一緒に居る所を隠れてみていた。公園のベンチで一緒に座っているのを見ていた。

ずっと。早く眼を覚ましてと願いながら。

この人は、そんな行動を全て分かっていた。分かっていて放置しているのは、僕なんて眼中にないって事だ。

子供の視線なんてどうって事ないって顔して、いつもハル姉に触っていた。

「何も言わずに、視線ばかりで。」

「・・・」

「あげないよ。」

殺気をちらりと見せて威す。

「君みたいな餓鬼には、あの子はあげない」

餓鬼じゃなくてもあげないくせに。

「もう初恋は終わったんだ。」

ハル姉では無く、一番憎い男に言われるこの屈辱。

またあの笑顔でハル姉に簡単に触るんだろう。その手には銀色の獲物を握っている。

貴方に分かるのか。

ハル姉が貴方の手で汚されるのを見る僕の気持ちが。

この、気持ちが。

わかるの、か。

 

 

 

フゥ太がわからぬ・・・!!

めちゃくそわからぬ!!

 

しかもわけわかめで意味不明で・・・うははははは!(笑おうぜ

すみません。もう最初から最後まで意味不明ですね。ごめんなさい・・・

最後が一番書きやすかったです。

 

リクエストありがとうございましたーww

すみません。フゥ太がよく分かりませんでした。

 

 

 

title 泣殻