「ハルちゃん?ああ、それならこの間スペインとイギリスに行ったってお土産くれたよ!」
「ハル?そういえば最近見てないけど・・・アメリカに行ってんじゃないの?この間行くって言ってたからさ。」
「ハルさんですか?いえ・・・最近は受験勉強が忙しくて遊んでる時間がないんです。あ、けどこの間電話したら今ノルウェーにいるって言ってました」
「あら、ハルなら任務中にデンマークでばったり会ったわ。何だか急いでるみたいだったけど・・・」
「・・・イタリアで、見た・・・・・えっと・・・いろんな場所で・・・」
「ああ、あの子ならこの間ブランド品買いあさってる時に見たわよ、外歩いてるの見たわ・・・え?パリよ、フランスで。」
若干硬く結びすぎたネクタイを少し緩めながら。
「灯台下暗し、ってやつだな。」
「いや、別に探してるとかそういうんじゃないけどさ。・・・っていうか、そこまで大事じゃないし・・・」
「これは完全に捜索してんだろーが。」
イタリアの歴史溢れる町並みの中で、スーツを着た二人の男が立っていった。
「けど・・・その理由が俺の勘って・・・それはそれでどうなんだろう?」
「知るか。テメーが決めたんだろーが」
「決めたんだろって・・・お前が最終的に気になるんなら調べるぞとか銃で威すからだろ!」
人込みが生み出す喧騒の中でそう叫ぶと、リボーンは舌打ちをして懐から街中で拳銃を出そうとしていた。
「ちょっと待てって!」
「グダグダしてんじゃねーぞダメツナ。さっさと探してお前の超直感の威力を見せろ。俺に。」
「いや、だから俺の勘って・・・確かにあたるかもしれないけど、そんなハルに限って・・・いや、限ってってなんだ?あれ?何で俺限ってっていったんだ?」
「その答えもハルを探して尾行すりゃ全部分かるだろ。」
「・・・お前、何か生き生きしてない?」
「そうか?気のせいだろ。」
「いや・・・そうかなぁ?」
「そうだそうだ。そうに決まってんだろ。じゃなければ女をプライベートで尾行するなんて胸が痛む行為だ。」
ふぅ、と溜息を吐いているリボーンのうそ臭さが匂ってくる。
「じゃ、行くぞ」
三浦ハルが髪を切った。
違和感の始まりはそんな所だった。俺は自分のせいで髪を切ったんじゃないかと最初は思ったんだけど、何だかハルを見ているとそうじゃない気がしてきた。
何となく、ハルが髪を切ったその日、短い髪のハルになれなくて、その日毎回会うたびにじっと見ていたんだけど、後ろから見たときに切り方が、プロの技じゃないような髪先だというのに気がついた。
長さは微妙にそろえられてなくて、それがミリ単位ならいいんだけど、下手すれば1cmくらいの誤差があるものもあった。
そんなちょっと見えた違和感。
あれは、もしかして自分で切ったのだろうか。
いや、けど後ろのあの切り方は絶対に違う人間が後ろから切らないとああならないしなあ。
首をかしげてハルを見ているとリボーンに呼ばれて、それを話すとその時は適当にあしらわれたけど、それから数日してからハルを尾行しようなどと言って来た。
そのリボーンの誘いを受けた日には、もうハルの髪先は綺麗に整えられていた。
この数日でどんな心境の変化があったのか定かではないが、とりあえず、リボーンは思い切り楽しもうとしていた。
「で、ハルは何処にいるんだろうな。」
「っていうかハルの部屋から出てくるの待ってそれから後を追えばよかったんじゃ・・・?」
「お前、女の部屋の前でそんな何時間も居てみろ。完全に不審者だ。」
「いや、まあそうだけど・・・」
「それにそこまですると流石に俺のプライドにも皹が入るしな。」
キョロキョロと視線を張り巡らせるリボーンにどう突っ込めばいいのか分からず黙っていると肩を叩かれた。
振り返るとそこにはきょとんとしたハルがりんごの入った紙袋を抱えて立っていた。
「うわあ!?」
「はひっ?」
俺の過剰な反応にハルも吃驚していた。
周りを見ていたリボーンが俺の声に気がついて、そしてハルが居る事にも気がついた。
「よお、ハル。こんな所で何してんだ?」
いけしゃあしゃあと言えるリボーンは本当に凄いと思う。もちろん皮肉で。
「リボーンちゃんもこんな所で何してるんですか?スーツ姿で・・・」
「いや、これから仕事でな、時間がまだ余ってたから少し時間を潰してたんだ。」
それで私服で出ようとしたらスーツに着替えろって言ってきたのか。ハルに見つかった時の嘘まで用意するなんて・・・。
「ハルは何してんだ?」
「、ハルはですね、友達のお家に行ってアップルパイを作ろうと思いまして。」
リボーンの問いに、ほんの僅かだが間が空いた。違和感の無い声色と表情だったが、リボーンも俺も引っかかった。
「そうか、事務仕事なんて疲れるだろ、プライベートくらい思い切りエンジョイしてこいよ」
「はい!もちろんです!」
それじゃあ!と大きく手を振って人込みの中にまぎれていくハルを見送って、リボーンの顔をちらりと見ながら
「・・・なあ、もうやめないか?」
「もうって何もしてねーじゃねえか。」
「だってさ・・・」
「ハルの髪は無理矢理切られたんだ。」
「え・・・」
「俺が見てそう判断したんだ。あれは確かに切られてた。」
「・・・」
「鋏で思いっきりばっさりって感じだな。」
そんな事されてるなんて、もしかしてハルはイジメられているんじゃないかと心のどこかで思ってた。
リボーンのこの尾行は、そのイジメの現場の証拠を握るのが目的なのかもしれない。
正義感を感じて俺は思わず生唾を飲んだ。
「それにな、ハルは休日になるといろんな所へ行っているらしい。」
「何処に?」
「日本、フランス、スペイン、イギリス、デンマーク、ノルウェー、アメリカ。俺が調べただけでコレくらいの数の国に行っている。」
ゆっくりとハルが居なくなってから歩き出しながら、リボーンが指を一つ、二つと折っていく。
「いや、旅行とか普通にするんじゃないか・・・?」
「毎週の日曜日に一泊だけだぞ?」
「・・・最近はそういう旅行が流行ってるとか聞いたけど・・・」
「アホ。」
「な!」
人込みで肩がぶつかって謝った後、リボーンを見るとまたアホと言われた。
「一人でだ、京子やクロームと一緒なら分かるが一人だ。」
「女の人の一人旅とか別にいけないわけじゃないだろ。」
「ああ、だがあのハルだぞ?誰かと一緒に楽しみを共有したがるあのハルが、一人で旅行にひっそりと行くと思うか?」
潜められた声に、前方に人込みの隙間から小さくハルの頭が見えた。
「・・・何が言いたいんだよ。」
思わず声を小さくして話しかける。
「・・・誰かと、男と待ち合わせ、とかしてたりしてな。」
「・・・違う国で?」
「まあそういうのもアリなんじゃねーか?・・・と、思うんだが・・・まるで逢瀬じゃねえかそんなもん。」
「・・・あのさ、リボーン。さっきから何が言いたいんだよ、最終的に。」
「・・・俺の勝手な推測だが・・・他のマフィアと取引、かもしれねえって事だ。」
「・・・・・・リボーン・・・」
歩みを止めてリボーンを睨みつける。数歩ほど前にいるリボーンも歩みを止めて振り返った。
冗談を言うように言ったならまだいいけど、そんな真剣な顔で、声で言っちゃいけないだろ。そんな事。
俺の考えを読み取ったのか、リボーンはフッ、と笑った。
「俺だってんな事は考えてはいねーさ。だが、もしも誰か人質とかとられていた場合はどうだ?ハルは尽力を尽くすだろうな、人質と俺達を救うために自分を犠牲にして。」
「・・・・・」
俺から顔を背けてまた前を向いた。
「・・・ハルを見失うだろ、行くぞ。」
「・・・・うん。」
人の流れに乗った所で、リボーンがひょうひょうと。
「だがまぁ、そんな事になってるんだったら、お前の超直感がものすげぇ警報を鳴らしてるに違いねーから、そうじゃないと思うがな。」
「いや、そんな俺の勘を信用されても・・・」
「・・・・・・・・」
「・・・どうしたんだ?リボーン」
人通りが少なくなった道でいきなり立ち止まったリボーンの背中にぶつかりそうになった。
人が少ないとはいえ、結構な人数が歩いているのにいきなり止まったら迷惑だろう。俺達の横を歩いていく人たちが訝しげな視線をちらりとよこしてくる。
「・・・ツナ、探せ。」
「は?」
「超直感で、右か、左か、前か。」
「な、何がだよ・・・」
「見失った。」
「・・・・・」
俺もそのまま立ち尽くし、思わず口を開ける。
「・・・どうする、木の棒で決めるか?それとも・・・」
冷静なのかどうなのか理解できない言動をしているリボーンに、じゃあもう帰ろうと言おうとした瞬間、小さな裏路地からひょっこりとハルが出てきた。
あっちは俺達に気がついていないようで、意気揚々とまた俺達に背中を向けて歩き出している。
何となく、上機嫌。
いきなり出てきてまた俺達の視界に戻ってきたハルに固まったままの俺達は、今度は見失わないようにとゆっくりと、ハルを視界から外さないように歩き出す。
「・・・あんな所で何やってたんだろう・・・」
歩き出して先ほど出てきた裏路地をちらりと見ると、そこには猫が餌を食べていた。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
ハルらしいなぁ。と思いながら、特に何の問題も無い事なのでそのままハルの追跡を続行した。
それにしても、イタリアの街でスキップしながら歩いていくのはどうなんだろう。
あと、このスーツって逆に目立たないんだろうか。気配は消してあるけど、ふと振り返られた時には一発・・・まあ、直ぐにどこかに隠れるけど。
「クロームとか居たら幻術で誤魔化せるんだけどなぁ。」
「そうだな・・・・電話してるぞ。」
ハルが立ち止まってポケットから携帯電話を取り出していた。俺達もそのまま立ち止まって、もしもの時のためにお互いに違う場所で身を隠す。
そして何か話している途中で、こちらをちらりと見たような気がする。
いや、あれは絶対にこっちを見た。
俺達の存在に、気がついている。
リボーンとアイコンタクトをする。
リボーンの想像通りだとしたら、敵マフィアからの電話かもしれない。俺達を逆に監視してそれをハルに伝えたのかも。
ハルが思い切り走り出して嫌な予感が的中した。
その瞬間にリボーンも俺も何の合図もなしに走り出し、人込みを避けてハルを追いかける。
曲がり角を曲がったハルを追いかけて曲がると、そこにはハルはおらず、いつもどおりのイタリアの町並みが広がっていた。
「・・・ハル・・・?」
あたりを見回しても何処にも居ない、店か、どこかの家に入り込んだのだろうか。
リボーンも俺と同じように見回している。
ハルよりも、俺達を見張っていた奴等を見つけ出して情報を絞りとった方がいいかもしれない。
ハルは本当に威されているのかも。
リボーンに視線を向けるともう携帯電話を取り出していてボタンを押している。
その時。
「―――っで!!」
頭に何かが落下してきて、鈍く落下物は地面に転がった。
それを頭を押さえながらみると、真っ赤な林檎だった。
「え・・・?」
「・・・おい、ツナ見ろ。」
上を向くと蒼い空に雲が流されていて、建物の屋上からこちらを見下ろしている、慌てたハルの顔があった。
そしてその傍らには金髪を跳ねさせた、ヴァリアーの服を着ているベルフェゴールがナイフを片手に立っていた。
「・・・な・・・なんで・・・」
風が吹いているのか、ハルの髪がふわふわと揺れている。
困惑した俺を見下ろすハルは、慌てながらも持っていた紙袋の口を押さえながら俺とベルフェゴールをキョロキョロとせわしなく見つめる。
リボーンもただ見上げているだけで何もしないが、直ぐに拳銃を取り出せるようにしている。
この問題は、外じゃなくて内からの問題だったのか。
「だっめだろーハル。だから言ったじゃん。そんなに深く覗き込むなって」
「だって・・・まさかツナさん達がハルを尾行してるなんて想像がつかなくて・・・」
「ったく、俺が折角電話で教えてやったってのに、信じらんねー」
「ご、ごめんなさい・・・」
屋上から降りてきたハルとベルフェゴールは、近くに止めていたリムジンに乗れと言ってきた。
俺とリボーンはそれに素直に従った。別に俺達をどうこうしようという雰囲気でもなかったし、超直感は、警報は鳴らなかったし。
そして緩やかに動く車の中で俺達二人は何が何やらよく分かっていない状況で二人の話を聞いていた。
俺はともかく、何でも知りたがるリボーンは苛々としながら足を組みながらベルフェゴールを睨んでいた。
「で、何なんだテメーは」
「あん?ボンゴレ独立暗殺部隊の幹部のベルフェゴール様に決まってんだろ?」
「そーじゃねえだろ。」
声が低くなり、殺気を散りばめた声が頬にちくちくと当たってとても痛い。隣にいる俺は全てを穏便に解決したいだけなんだけど。
「えーと、その話はヴァリアーについてからで・・・」
「大体ハル、何でお前はコイツと居るんだ。」
「今ヴァリアーについてから話すっつったばっかじゃん。アルツハイマー?」
「殺すぞ。」
「ああああ・・・」
タイミングよく車が停止して、ヴァリアー邸の大きな門の前で止まった。
ドアを開けられ、全員が外に出る。
リボーンがまだ苛々としているようで、とにかく早く中に入ってしまおう、とハルとお互いに顔をあわせて頷きあって、早足で入っていく。
階段を上って二階にある談話室という場所に向っているようで、ハルはまるで我が家のように歩いていきドアを開けた。
「なんだぁ、今日は遅かったじゃねーか」
「待ちくたびれちゃったわー」
「時は金なりって言葉知らないのかい、ハル。」
ソファーに座っているスクアーロと、トランプを持って何かしているルッスーリアとマーモン。そして一人椅子に座って傘の手入れをしているレヴィが居た。
それぞれに何か言っているようだけど、俺の姿を眼にいれて直ぐにフレンドリーな雰囲気から一変する。
眼の色を変えて明らかに敵意むき出しのオーラを俺に浴びせかける。
そして更に後ろからベルフェゴールとリボーンが登場して警戒の色を強め、椅子から立ち上がって臨戦態勢に入った。
「どういう事だ?何故貴様と奴等が一緒に来ている!?」
「ベル。説明してくれるかい?」
「うわ、今俺サンドイッチ状態?どっちからどう説明すりゃいんだよ。」
おどけた声でその場をちゃかしながらソファーに座り込む。
「う゛お゛ぉぉい!」
「あー、うるせーっての・・・なーハル、役割分担しよーぜ。俺はコイツ等にするから、お前はそっちな。」
「あ、はい・・・」
紙袋を机の上に置いて、広い談話室でヴァリアーは扉付近の端っこで、俺とリボーンとハルは扉から離れたこれまた端っこ。
ヴァリアーとの距離を最大限に広げた場所のソファーに座って、こほん、と咳払いをするハルを見つめる。
昔クーデターを起こしたという過去があるけど、でもそんな事はしないはず。
「何から話しましょうか・・・」
「とりあえずどうしてヴァリアーと知り合ったのか・・・そして何で此処に来ているのか・・・あと外国にちょくちょく行ってるのも関係あるのか教えてくれ。」
「え・・・えっと?外国・・・理由・・・えっと・・・」
「あー・・・それじゃあ知り合った経緯から頼むよ。」
この場面に混乱したハルに、更に畳み掛けるように質問をマシンガンの如く打ち出すリボーンに、流石のハルも戸惑っている。
助け舟を出すと安心したように話し始めたけど、それでもまだ緊張しているようで。
「そうですね・・・えっと、二年ほど、前になりますが、ハルが休日をもらった時なんですけど、ボンゴレの敵対マフィアに攫われそうになったんですね。」
「え・・・?」
そんな話聞いてないけど。
「未遂に終わったんですよ。だから報告もしませんでしたし・・・その後ヴァリアーの皆さんが潰しちゃいましたから・・・えっと、その攫われそうになったところをベルさんに助けていただいて、・・・いえ、たまたまだったんですけどね。ベルさん機嫌悪かったそうなんですけど・・・」
「で?」
リボーンが話が脱線しそうなので一文字で歩道修正した。
「ベルさんに助けていただいて、その後ハルがボンゴレの関係者だと知って、知り合いになりました。」
簡潔に述べられた答えに、じゃあ次は何で此処に来ているのかという質問をリボーンの代わりに俺が投げつけると、やってきたかというような顔をした。
「・・・・どうしたんだ?」
「何か、威されてんのか?」
リボーンが小声でそうたずねるが首を横に振って否定する。
「いえ・・・そうじゃなくて・・・」
「じゃあなんだ。・・・もしかしてスパイしろとか命令されてんのか?」
「そ、そうじゃないです。此処に来ているのはハル自らの気持ちでして・・・」
もじもじと手元を弄らせて、若干頬が赤い気がする。
意を決したように視線を上げて俺達を射抜く。
「実は、ハル・・・つ、つき、付き合って、るんです・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
なんて事だ。
まさか、あのハルが、ヴァリアーに・・・
「ベルフェゴール・・・・」
「はひ?違います!」
この流れだとそう思うのが妥当なのに即効で否定された。
そのヴァリアーのベルフェゴールの説明はもう終わったらしく、メンバーは全員ニヤニヤとしてこちらを見ていた。
野次馬の視線に気付き、頬を更に赤くさせた。
「いやー、ついにこの日が来たわねぇ・・・」
「まあ、この流れで行くと来ると分かっていたが・・・」
「これで公認になるのか・・・」
「ま、いんじゃね?幸せの第一歩って事でさー」
「おら、さっさと全部吐いちまえよぉ」
卑下したような言葉でも視線でもなく、ただの野次馬。
深い意味もないだろうその視線は全て生暖かかった。殺気が籠もっているわけでも、冷たくも無い。
その視線の熱にやられているのか、ハルの顔はどんどん赤くなっていく。
「み、皆さんあっち行ってください!」
ヴァリアーのメンバーに臆する事なくそう叫ぶ。一瞬背筋を死線を越えた感覚がしたが、メンバー達には特に動揺も怒りも無く、ずっとこっちを見続けている。
「いやだわ、何なのかしらこの感覚・・・・」
「あれだね、彼女が彼氏を紹介する場面をリアルタイムで僕達が目撃してるみたいな感じかな。」
「いやいや、これは彼氏が相手の両親にプロポーズをしに行く時のアレだろぉ」
「ちげーっての、彼女が自分の親に彼氏を紹介するアレに決まってんじゃん。ばかじゃねーの」
「そう、それだ!」
ベルフェゴールのたとえに全員が頷き納得している中で、このアットホームな雰囲気に俺、多分リボーンも圧倒されている。
ハルが埒が明かないとばかりに真っ赤な顔で俺達に再度言う。
「付き合ってるんですっ」
「・・・誰と?」
「・・・・ザ、」
「・・・・・」
「ザン、ザス・・・さん、とっ・・・」
最初の、ザ、の所で俺は天国に行ったんじゃないかと感じた。
ヴァリアー、付き合ってる。ザ、
名前全てを言う前にその情報が頭の中で繋がった瞬間に、天国から迎えが来た。魂が半分ほど抜けた。
ああ、なんて事だろう。
あの三浦ハルが、あの三浦ハルが暗殺部隊のあのザンザスとお付き合いをしていますと言われた。
溺愛していた娘が彼氏を紹介してきた所の騒ぎじゃない。
眩暈が襲ってきて、この時やっとリボーンの顔を見ることが出来た。いつも通りのボーカーフェイスだが、瞬きをしていない。
ああ、リボーンも俺と同じ立場だ、と思うと何とか冷静を引き戻せる時間が短縮できた。
「・・・・あの・・・」
ヴァリアーからはやっと言ったかー!とか、これで公認ねー!などと言っている。
「・・・ザンザスって・・・何処の、どなた?」
「まっ、アンタウチのボスの名前もド忘れしちゃうなんてとんでもない頭だわ!冗談はヘアースタイルで十分よっ!」
「それは君が言う台詞じゃないと思うけどね。」
小指を立てながら怒っているルッスーリアの言葉に、ああやっぱりと肩がずっしりと重くなった。
さて、リボーンは真実を全て知ってお腹一杯で満足だろう。ちらりと横を見ると何とか俺と同じ感じで冷静を取り戻そうとしてる。
頭の中でいきなり詰め込まれてシャッフルされた情報を整理してるんだろう。
多分直ぐに受け入れてしまうんだろうけど。
「・・・そうだったのか。」
「はい・・・あの、黙っててすみませんでした」
ハルが頭を下げると、いや、とリボーンが言う。
「外国に行ってた理由ももしかしてそれか?」
「あ、はい・・・」
「・・・まあ、ボンゴレ全体にこれが知れたら大事だろうからな。隠れて会うのが一番だ」
「あ、ありがとうございます」
ハルが意味も無く御礼を言っている間に、俺はまだごちゃごちゃで心臓が無い感覚のまま一つの問題があったと聞き出した。
「あのさ、ハル髪切っただろ?それ誰かに切られたんじゃないか?」
「え・・・・」
「いや、もう整えられてるけど、切った最初と次の日くらいまで・・・なんか、そんな感じがしてさ・・・」
「・・・・・・・」
向こう側のヴァリアー達は全員冷やかしの声を止めて、個々がいろんな表情をしている。
しらー、とした視線を俺に向けるものや、視線を逸らして知らんぷりしていたり、明らかに敵意を孕んだ視線で俺の頬を突き刺してきたり。
ハルも黙ったままで、え、どういう事?といおうとした瞬間に、ドアが乱暴に開いた。
「あ・・・・」
「ボス・・・・」
扉から一番近い位置に居るヴァリアー達が、冷や汗を流しながら見上げている。
そして無言でそれを見つめた後、俺達に視線を向けてきた。
もしハルとザンザスが、という情報がなければ、普通にただ恐く睨まれている。ヤバイ俺死ぬ?という感覚だった。普通の恐怖。
だけどその新たに投擲された情報は恐怖ともう一つブレンドされた。
し、信じられない・・・
このザンザスが、このハルと?嘘だ。
そんな探るような視線で見返す俺から視線を外し、ハルに向けた。
「遅ぇ。」
「ごめんなさい・・・ちょっといろいろとありまして・・・」
ハルがソファーから立ち上がってザンザスの元に駆け寄っていく。ハルという防御装置が無くなってしまった。
ザンザスがハルに手を伸ばして、頭をくしゃりと撫で付けている。
あの手は全てを蹂躙する所しか見たことが無い俺は目から鱗。
ぽかんとしてその光景を見つめていると、ベルフェゴールが、
「まーま、これでボンゴレからも公認になったんだからさ。」
などと言っている。ハルが机の上の紙袋を持ってザンザスを見上げていた。小さく、どうします?アップルパイ。と言っているのが聞こえた。
俺は口に手をあてた。
笑いを堪えているわけじゃなくて、信じられないから口が塞がらないからだ。
横のリボーンがゆっくりと立ち上がって俺に行くぞ。と言ってきた。
「え・・・」
「もう用はすんだ。敵マフィアからつつかれてるわけじゃなかったらしいからな。」
「あ、うん・・・。」
さっさと帰るぞオーラを出しているリボーンにつれられて、俺も席を立った。真っ直ぐに扉に向うから、ザンザスに近づくわけで俺としてはもっと別のルートを歩きたい気分なんだけど、それは流石に失礼だし、しかも殺されるかもしれないからリボーンを盾にして密かに歩く。
ハルが俺達に小さく手を振ってくれた。
ハルだ、ザンザスと付き合っても、ハルはずっとハルなんだ。
ゆるり、と緊張が解けて俺も手を振り返した。
その瞬間何かがぶちっと切れた音がしたと思ったら。
「カッ消す。」
いや、何で!?
「で、ハルの髪あれなんだったんだ?」
「・・・あれはですね、ボスが、・・・ルッスーリアさんが言えばヤキモチだと・・・」
「え?」
「ハルがツナさんのために髪を伸ばしてるって知ってしまったらしくて、怒ってハルの髪ばっさり切っちゃったんです・・・ああ、恐かった・・・」
「そ、そうだったんだ・・・」
「はい、で、その時吃驚しちゃって泣きながら逃げてしまいまして・・・まあ、すぐに仲直りをしましたけど。」
「へえ・・・」
「その仲直り記念としてアップルパイを作ろうと思ったわけなんですけど・・・」
「・・・うん、ごめんね。キッチン破壊しちゃって・・・材料も灰になっちゃって・・・」
「いえ、ツナさんのせいじゃありません!あれはボスが悪いんです!これから3日ほどは会わないと電話でいいました。」
「え゛。」
「えっと、林檎剥きましょうか?」
「あ・・・いや、いいよ、林檎は今あんまり・・・」
「そうですか・・・」
「・・・・それよりさ、ザンザスの所に行ってやってよ・・・あと、仲直りしてアップルパイ作ってあげて・・・」
「はひ・・・」
「ね?」
「・・・・そう、ですかね?」
「そうだよ。それがいい。」
「・・・ツナさんは優しいですね・・・分かりました!ハル行ってきます!」
信じられないけど、ほんとーに信じられないけど。
俺を見捨てて帰ったリボーンに怒りはあるけど、まあ、いいや。守護者以外にはその情報を流出してないみたいだし。
ハルが持ってきてくれた林檎を見つめながら、自分の身体に巻かれた包帯を見た後、窓の外を見る。
爽やかな風が吹く中で、ハルの後姿が小さく見えた。
信じられないけど。
それよりも、ハルをザンザスに渡さないと暗殺されそうだから。
・・・まだ、信じることは出来ないけど。
ちんたらちんたらムダに長いし!ザンハル要素は少ないし!守護者だせなかったし!!
すみません。本当にすみません。
これで守護者とか出したらもうとんでもない事になりました。最初からリボーンだけでよかったわ。あはは(←
リクエストにそえませんでしたが、私は死ぬ気で楽しかったです(ぇ
第三者からの視点って凄く楽しいんですよねー。何でだろ。
リクエストありがとうございましたーww
title 泣殻