真夏とまでは行きませんが、空に顔を向けて瞼を閉じると、ちかちかとしたものがうつりました。

耳を澄ませば蝉の煩い鳴き声が聞こえてくるんじゃないかと思えるほどの熱気、熱さ、暑い、あつい・・・

「ハル殿。」

嘘、まさかと思って瞼を上げると、そこには少し驚いたような恋人の姿がありました。

最近はとても暑くて、太陽の陽射しから逃れられないので、もう此処は開き直っちゃおう!と、意気込んで実行したというのに。

三ヶ月ぶりに帰ってきた恋人に、目撃されてしまいました。

 

 

 

顔を両手で覆い隠して、部屋の片隅にしゃがみこんで静かに時間が過ぎるのを待った。

彼に出て行って欲しいとか一人にしてほしいとか、そんなものは一切言っていない。だから彼は後ろから声をかけてくる。

「ハル殿?・・・その、拙者は・・・」

「いいんです。ハルが悪いんです。分かってます。分かってますけど、ちょっと心の整理が必要なんです。療養が必要なんです。」

「でも、風邪を引いてしまうかも・・・」

「大丈夫です。ハルはおばかなので風邪なんて引きません。」

うぅ。

ぽたぽたと頭から落ちる雫、床にへばりつく白いスカートの裾からは水が染み出してフローリングを濡らしていく。

それよりも今は感情を落ち着けて、頭の中の考えを全て無理矢理霧散し、心音を落ち着けていつも通りのおかえりなさいを言いたいだけです。

ただ、でも。言い訳を許してくださるなら。

最近はとても暑いのです。

真夏のように暑くて、でも冷房を入れるのは少しばかし勿体無い気がしたのです。

ですから、プールに行こうと思ったのです。

でもプールに行く為には歩かなければいけません。歩いている途中で熱中症で倒れてしまうかもしれないのです。

だから庭にビニールプールを膨らまして、小学校以来久しぶりにエンジョイをしようとしていたのです。

冷たい水を入れて、お湯を混ぜて丁度いい温度にしていたら、外の熱気と太陽の叩きつけるような陽射し。

そしてやかんから流れ落ちるお湯の湯気が蝕んだのです。

だから、水着に着替える間も無く、それに、塀に囲まれていますから、いいかなって思って。

飛び込んで、白いスカートが簡易プールに漂う光景が何だか面白くって。

いいかな。って。

ああ、でもでも、これを言ったとしても三浦ハルの恥は無かった事にはならないわけで。

「はぅううぅぅ・・・」

更に顔を覆い隠して俯く。

「ハル殿・・・あの。」

「言わないでください。言わないでくださいっ」

「・・・・・・・」

「分かってます・・・ごめんなさい・・・」

後ろにいる彼の気配が、何となく揺らいだ気がした。

それは感動しているとか驚いているとかじゃなくて、彼には無縁の、怒り、とか、憎悪とかそう言った感じのものだった。

思わず後ろを振り返ると、しゃがみこんだ彼が顎を掴んでキスされていました。

「――――、」

嫌悪など無かったのですけど、ただ驚いて瞠目したハルの顔を、至近距離で薄らと開いた眼で確認されてしまいました。

普通ならば恥ずかしいと思うのだけれど、その時は何となく羞恥よりももっと違う、それこそ感動なのかもしれません。そんなものがハルの身体を血管の中を巡って回ったのです。

かぶりつくようにキスをされて、離れる際にはおそるおそる、といった感じで引いていったので少しおかしかった。

「・・・えっとですね・・・」

誤魔化すように視線を外しながら、照れた頬を隠さずに言葉を捜しているよう。

だったらその時間も、短いながらもハルも言葉を捜そう。

何を言えばいいのかとか、何を言いたいのかとか、何を言うべきなのかとか。

いろいろ一瞬で考える。

「・・・ただいま、・・・・じゃ、ないですよね。そうですね。えっと・・・」

「おかえりなさい。」

これは違うと言った彼に、ハルははっきりと言った。

だってその言葉はハルにとっては違わないものでしたから。

自分の考えを彼に押し付けるのはよろしくないと思いますけれど、挨拶はした方がいいのです。親しき仲にも礼儀ありという言葉はきっと、ご存知でしょう。

「おかえりなさい。」

もう一度はっきりと言うと、三浦ハルの価値観が浸透したようで、彼はふわりと笑って、

「ただいまです。」

「遅かったですね。」

「ちょっと、仕事が長引いてしまいまして・・・」

凄く暑くて、庭にビニールプールを出してしまうくらいの温度の中で、彼が大好きなこの日本で熱い抱擁を交わしたのでした。

ハルの身体にまとわりつく濡れた服は、少しだけ温くなっていて気持ちが悪い。

彼のスーツに水滴が染み込んでしまうと思い、体を引こうとしたら更に抱きしめられた。

素直に抱きついて、胸元に頬を寄せてみる。

「・・・日本の夏は暑いでしょう?」

「イタリアもそれなりにでしたよ。」

「湿気が少ないから、やっぱり暑いでしょう?」

「・・・まあ、それなり、に・・・」

じわじわと湿気の多いこの国。

一緒に庭のプールに入って遊びませんか?と冗談めかしで言ったのですが、彼は瞳を輝かせながら、いいですね!なんて言ってスーツを脱ぎ始めてしまいました。

 

 

 

バジハルが分からぬ。(ぇ

誰か教えてくださいませ・・・

うわぁ、大丈夫かなこんなので・・・いえ大丈夫じゃないことは知っていますけどね。

 

リクエストありがとうございましたー!

 

 

 

title てぃんがぁら