鞭で馬を叩いて走らせる。

人間の勝手な要求を痛みとして受け取って馬は走る。

漠然と馬の認識はそれだけだった。人間が乗って走る。人間の手によって走らせられる。あと馬刺し。

馬っていうものは、そんなものじゃなかったっけ。

で、どれがいい?

 

 

 

鞭を指先で引っ張り、伸ばしながら僕に余裕の笑みを見せてくる跳ね馬。

馬刺しにしたら、うまいんだろうか。

「んー、やっぱつえーな、恭弥は。」

振りまく余裕は歳のせいか、ちからのせいか、それとも傍に居る部下のせいか。

威厳という言葉が似合わない男だったが、月日が経てばいやでもつくものらしい。

修行はいつの間にか森の中に移動していた。確か最初の場所は川辺だった気がする。川のせせらぎは残念ながら聞こえず、鳥のさえずりが聞こえてくるだけだ。

どれだけ移動したんだろうか。

「確かに強いが、けどそれだけじゃ勝てねーんだよな。」

「それだけ・・・?」

残念だ。といわんばかりの表情に、血管がぽこり、と蠢いた。

「なんていうか・・・まあ、普通なんだけど、若いんだよな。」

「そりゃ貴方はおじさんだけど。」

「・・・・」

「けど、強さに歳は関係ないんじゃないの。」

年齢なんて、大した関係性は無い。それは僕が経験してきた戦場の中で答えは出ている。

僕よりも倍も歳をとった人間でも、僕よりも倍の体格をした人間も全部噛み殺してきた。体格も年齢も大した事はない。

用は、強いか強くないか。

人は見た目で判断しちゃいけないという言葉はこのためにあるに違いない。

「まあ、そうだけどな。実際は。」

その経験はきっと、この跳ね馬にもあるはずだ。

「けど、俺を倒せないようじゃ、無理だろ?」

「じゃあ倒せばいいだけの事でしょ。」

「簡単に言ってくれるな。」

軽く笑って、直ぐに眼には鋭さを戻す。

このボンゴレリング争奪戦の時には、素と戦闘の境界線が曖昧で、その線をよく分かっていなかったのに。

休憩だと言ったら、そのまま部下と楽しく談笑していた時に後ろから殴りかかると簡単に倒せたのに。

境界線を簡単に潜り抜けてる。

今度は休憩時間もきっと、緊張を解くことはないんだろう。

そう思うと思わず笑みが漏れる。

「おいおい、余裕だな」

跳ね馬の部下がそう茶化すように笑っている。

剣呑な眼をした跳ね馬が、緊張を解かずに口元に笑みを浮かべている。

お互いに笑っているけれど、その理由はまったく違うものだった。

「・・・何?」

「いや・・・なんていうか・・・懐かしい、っていうか」

「は?」

「怒るかもしんねーけど・・・恭弥めちゃくちゃちっちゃ、」

「死ね。」

「ああ!いやそういうわけじゃなくてさ、・・・やっぱ昔の姿ってのは凄く懐かしいだろ!?」

「そんなの知らない。」

トンファーを振り回されているというのに、跳ね馬は慌てたようにかわしていく。

その動作はムダな動きが一切無く、更に苛立ちが募っていく。

「いや、10年後のお前だってハルを見たときにはそりゃあもうきっと懐かしんでたに決まって・・・―――」

「そろそろ黙ってくれる?」

初めて跳ね馬の顔に一発トンファーをめり込ます事が出来たけど、手ごたえはあまり無い。

後ろに体重を移動させてダメージを軽減したらしい。なんて忌々しい。

頬を擦りながらもムダ話はやめるつもりは無い。

「おいおい、俺のせめてもの話題の方向の向け方にそろそろ突っ込んでくれてもいんじゃねーのか?」

「それはいくらなんでも無理なんじゃねーのかボス」

「だってよー」

「まあ、昔と今じゃまったく違うんだからよ。」

「・・・でもよ、言いたいんだよな、口からもうはき出そうなほど・・・もう喉まで出掛かってんだって!」

「・・・さっきから何が言いたいの。」

子供のようにやっと聞いてくれた!とばかりに笑顔を見せて、実はなー。と語り始める。

「俺、ハルと結婚することになったんだ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「いや、本当だって!何だその哀れむような視線は!時間は人も関係も変えるんだからな!」

「・・・・・」

この時代から10年程前の屋上にて、跳ね馬ディーノが三浦ハルのスカートを捲るという事件がおきた。

それは不可抗力以外の何者でも無く、僕が跳ね馬を殴り飛ばした先に跳ね馬の部下と談笑しているハルが居て、そのままぶつかって倒れた。

そして運悪く、跳ね馬の指先がスカートの裾に引っかかっており、その場面だけみれば、成人した男が中学生を押し倒し、あまつスカートを捲っているという破廉恥な光景だ。

純情で貞操観念が高くて、でもスカートは短い三浦ハルが大嫌いなものはエロで、セクハラも大嫌いだ。

顔を真っ赤にして跳ね馬の頬に大きな紅葉を作り、そのまま屋上から立ち去った。

そして此処に来る前まで、三浦ハルは跳ね馬ディーノとは顔をあわせるたびに眼を逸らしたり、明らかに避けたりしていた。

色濃く残る僕の時代での出来事を考えると、そんな事になるはずがないと断言できる。

三浦ハルは恐ろしく根に持つタイプであって、たとえ10年経ってもきっとその時の事が頭を過ぎり拒絶するだろう。

故に、この男は妄言を吐いているに違いない。

「ありえない。」

「それがそうでもないんだなーこれが!」

「・・・で、その妄言をどうして僕に話したがってたの。」

「―――――」

そう問いかけると、表情を硬直させて違う方向へ眼を向けていた。

眉根を寄せて睨みつけると、部下が軽く笑いながら

「ボスはライバルを牽制してーんだよ」

「いっ、言うなよロマーリオ!」

「・・・・・・・・」

心臓が一気に軽くなり、直ぐに重みを増した。

何で、知っているんだ。

「・・・・・・・・」

「・・・あれ、どうした?恭弥」

「・・・あー・・・まあ、中学生ってのはそんなもんだろうな・・・」

行き場の無い気持ちを指先に込めて、トンファーを握る力を強める。

見透かされた、訳ではない。僕が。

暗示するように心の中で唱え続けるが、感情は頭を上って熱へと変えていく。

「噛み殺す・・・!」

「え、ちょ・・・!?」

 

 

 

「・・・で、どれがいいと思う?」

「・・・あの、雲雀さん・・・?」

「どれがいいの。」

「えっと・・・全部素適だと思いますけど・・・でも、馬刺しはおいしいですよね」

「そう。じゃあそうする。」

「・・・あの、その服に付着している赤いのってもしかして・・・」

「・・・朝飲んだトマトジュースだから。」

「はひ・・・け、健康的ですね・・・」

「そう?まあ、君確かに顔色よくないね」

「・・・そう、でしょうか・・・」

「じゃあ馬刺しにして持ってくるから。」

「・・・・はい・・・」

 

 

 

えっと、すみません。(90度

とりあえずすみませんでした。もうなんていうかスランプなんです。そして支離滅裂・・・・あ、このアンケート企画のテーマは支離滅裂でいんじゃね?それ最高じゃね?

ああ、とりあえず全部終わりまして、次には20万ヒットに取り掛かることが出来ます。

いやあ・・・結構長引くスランプですが、あの、頑張ります。

 

19万ヒットありがとうございました!これからもよろしくお願いいたします!

 

 

 

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