「まったくもって、失礼な、話です。」

睨み上げるのは顎に傷を携えた山本武。

腕組をしてボンゴレファミリー雨の守護者を睨み上げるのは三浦ハル。

その傍の椅子に座って煙草をふかしているのが嵐の守護者獄寺隼人。

「悪かったって。」

デリカシーもクソもねぇな。と獄寺は表情に出さず心の中で苦笑した。

眉を吊り上げて山本のハルの怒りを煽るかのような笑顔にビンタを食らわしてやりたい。

最初の台詞の時には、ハルの中でゆっくりと怒りを落ち着けた声音だったのだが、直ぐに噴出して声をぶちまける。

「絶対に許しません!何ですか、あの人たち!信じられません!」

「まー、ヴァリアーなんて失礼の固まり見たいな連中だからな。」

珍しく獄寺がフォローを入れるが、ハルは怒りが収まらないと拳を作って鼻息を荒くしている。ハイヒールがぎちぎちと鳴るくらいに脚を踏ん張って耐えている。

「だって・・・!だって、あの人たちってば!」

「一緒に居ただろーが。」

「それでももう一度聞いて欲しいんです!あの侮辱の台詞を!」

「テメェは沢田綱吉の情婦か?」

獄寺が真似て言う。

「キーーーッ!」

猿のように騒ぐハルは近くにあったソファーをぼすぼすと叩く。山本が冷や汗を流しながらそれを見ている。

どうする事も出来ずに、とりあえずへらへらしながら頭を掻いている。獄寺は二本目の煙草を取り出して口に咥えた。

ヴァリアーとボンゴレ守護者が集まる場所にこのホテルを選んで貸し切っているので、ほかに客は居ない。

高いエントランスにハルのハウリングが響き渡る。

「ほら、スクアーロだって謝ってただろー?」

「その人が言ったわけじゃないじゃないですか!言ったのはあの、・・・えっと、ザン・・・?」

「ザンザス。」

「そう!あの傷の、ザンザ・・・?ザンザン?」

「ザンザス。」

「その人が、言ったんですから!かんけーないんです!」

灰色の煙を吐き出しながら、獄寺は今回に限ってはハルの怒りに同感していた。アイツ等はムカツク。

ハルは基本的にツナの秘書だ。決して愛人でも娼婦でもない。ザンザスにしてみれば軽い挨拶のようなものかもしれないが、ハルは大変怒っていた。

大概の事は受け流す事の出来るハルだったが、今回は違った。

ザンザスに娼婦扱いされたのももちろんあるが、だが、ハルはヴァリアーに行ったことがある。

書類を届けにだとか他にもこまごまとした事が何回か。

毎回沢田綱吉の秘書だと言っているのだが、今回の会議で一気に全てが終わった。

噂、そして会話をしてみてザンザスは興味ないものはまったく眼中に無いらしい。それは別にいい。だが娼婦はいくらなんでも失礼だ。

「だいたい、そのザン・・・」

「わざと名前を覚えてないふりするのはやめろ。めんどくせえ」

「だって、ハルだけが覚えてるなんてそんなの悔しいじゃないですか!いいです、もうこうなったらザンザンって呼びます!」

「ははっ、なんだか友達みてーだな」

「普通にキモい。」

はぁ、と煙草を携帯灰皿に押し込んで立ち上がった。もうそろそろ動くべきかと動き出す。

10代目はまだ何か話しているらしいが、もうそろそろ終わるだろうと立ち上がり、エレベーターが下りてくるのを待っている。

ハルが激怒してザンザスに手を上げる前に、山本が抑えて連れ出した。そして獄寺もツナに一緒に行っててと言われ、此処にいるのだが。

「酷いです!エロです!デリカシーゼロ!」

「まーまーまー」

「山本さんが止めなきゃ、ハルは連続パンチを5つはおみまいしてましたのに!」

「いや、それも困るんだけど・・・俺もハルも。」

「でも、でもでも!ハルは気がおさまりません!」

「おさめろ。」

「出来ません!」

間髪を容れずそう叫ぶハルの顔をちらりと見ると、沸騰したやかんのように熱く、ゴリラのように威勢がよかった。

暫く見つめた後、嘆かわしいとばかりに溜息を吐いてまたエレベーターに視線を戻した。

「な、何ですかその溜息は!」

「ハル、先に車に戻ってよーぜ。」

「駄目です!ハルはお礼参りをしなければいけないんです!」

「あー、もうなんでも好きにしやがれ・・・と、言いたい所だが。」

獄寺がまた振りかえって、卑下の眼で、ついでに親指を立てて一気に下に向けた。

「これ以上10代目に迷惑をかけんな。情婦。」

「んな・・・!」

山本がおいおい。という顔をしているが、ハルはやかんが沸騰を知らせるように、ピー!と叫び、頭から湯気を放出させている。顔は真っ赤で、獄寺は何事も無かったかのようにハルに背を向ける。

その余裕めいた背中は、もしナイフで刺されても自分が無防備でしたと逆に謝らなければいけないほどに余裕だった。

「う、な、あ、ぐっ、う・・・!」

「・・・ハール・・・車ん中にクッキーあるからさ、それでさ・・・」

「ク、クッキーなんて・・・いりません!」

侮辱に更に侮辱を上乗せされて、ハルは猛烈な怒りを通り越して徐々に頭が冷めていった。

手の震えが止まっていないのはまだ怒りがあるという証拠で、そんなハルの後姿に山本は苦笑しながらも、ほかに何かハルの興味をほかにうつすものは無かったかと、車の中をじっくりと思い出す。

シャンパンとクッキー、くらいしか思い出せない。

此処でツナが居て、ちっぽけなフォローでもしてくれればまだいいのに。と山本は思うが、まだツナは仕事中。これは三浦ハルの問題、そして俺の問題。

「だって・・・」

山本の困った顔を見てハッ、と頭を冷やした。しょんぼりとうなだれるハルに、今度は違う意味で困る。

子供のようにスカートを握るように、スーツの裾を握って震えている。

誰かに交代してもらいたい、アドバイスをしてもらいたい。いろんな意味で助けを求める視線を辺りにめぐらせても、今は貸切、居るのはエレベーターの前で立っている獄寺しか居ない。

事態を更に悪化させるのは眼に見えているので、自分の力ない言葉で何とかしなければ。と山本はハルに視線を戻した。

「あっとー・・・」

頭をぼりぼりとかきながら、高い背の山本はハルを見下ろす。

やっぱり無理っぽいとまた獄寺の背中を見つめると、無言でごそごそとポケットに手を突っ込んで漁っている。

多分煙草だろうと思っていたのだが、振りかえってぽいっ、と投げられた。

受け取るとそれはいちごみるくの飴玉で、ピンクと白の包装紙で包まれていた。

え、まさか、これを?

獄寺にアイコンタクトで山本が薄らと笑みを浮かべている。呆気に取られながらも、獄寺が訝しそうな顔で俯いたハルに人差し指を向け、軽く前に突き出してまた背を向けた。

ハルに、やれと。

いや、飴玉でそんな。子供じゃないんだし。

「ハル、あの、よかったらこの飴・・・」

まさか、この飴で許してくれよ、な?などといえるほど山本は豪胆じゃなかった。

デリカシーの無い男だと言われているが、これはいくらなんでも、酷いんじゃないかと思った。

「・・・飴・・・?」

ぴくっ、と反応したハルが、ゆるりと顔を上げる。怒気を孕んだ声に、口元はぴくぴくと痙攣している。

目元は見えないが、きっと怒りに瞳を染めているんだろう。

「飴が・・・どうしたって・・・」

焦点が俺の手の中に合わさった途端に、燃えるように熱かった瞳が直ぐに冷めた。

炎が消えて、ぱちぱちと瞬きをした。赤ん坊のように無垢な瞳がとらえるいちごみるく。もしかしていちごみるくって凄い飴なんじゃないのか。

飴と鞭って言葉が出来たのは、いちごみるくのおかげだったりして。

などと山本が思っているうちに、ハルが飴を受け取って口の中に入れた。舌先で転がして。口内には甘い味が。

山本にも匂いが漂ってきた。

そういえば、いちごみるくって食べた事があったっけ。

「・・・ありがとうございます・・・」

「あ・・・ああ・・・」

もごもごと口を動かして、まるで精神安定剤のように、飴玉で沈静された怒りはもう見られない。

ソファーに腰を下ろして、のんびりとしている。

エレベーターの前には獄寺が腕組をして仁王立ちしたままで動かない。石造のように。

まったく会話が無かった二人だったのだが、山本は一人違う場所に放置されたような気分だった。頬を指先でかきながら、違和感が突如胸の中に現れた気分だ。

「・・・負けてらんねーな。」

「ほぇ・・・何かいいました?」

甘さに酔ったハルがそう聞き返してきて、いやなんでもと答える。エレベーターの数字の表示がだんだんと下に向っている。

今度からいちごみるくの飴を持ってこようと決めて、山本はエレベーターに足を向けた。

 

 

 

スランプの影響が凄いですね。もうこれは「あれ・・・この人、スランプなんじゃないの?」「うっわ、これ完璧スランプじゃーん」とか画面の向こうで思っていらっしゃる人が見える気がする・・・!(ぇ

だいたいスランプ前でも酷かったから、尚酷い。最低ですねすみません。

っていうかなんて事ない話・・・っていうかっていうか、なんていうかこれもう獄ハル山じゃなくないかい!?

最後無理矢理こじつけたけど、微妙に違う気がするっていうか支離滅裂だし!

 

うわぁ・・・とりあえず自分に引いてる私ですが、19万ヒットありがとうございましたーww

 

 

 

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