ぱちり、と、同じ形のピースをはめてみるけれど、中々当たらないもの。けれどそこにはめ込み、小さな欠片が繋がって出来ていくそれはとても心弾ませる。

一つ一つ繋がって、一つの何かになる。

これを完成させたら、きっと楽しい気分になるはず。

 

 

でこぼこと、綺麗な空の写真の絵が完成されるまで途方も無く遠い気がする。指先で撫でるピースのおうとつは、そこにフィットしないものだと教えてくれる。このまま押し込みたいところだけれど、白い雲の真ん中に、いきなりピース全ての色が青色のそれは決して繋がるはずも無い。

悲しくも爪の先で引っかき外した。

「あー、センパイが無理矢理押し込むからー」

「だってこことこれ同じじゃん形。」

「同じ形でも大きさが違うんですよーこのアホ王子。」

ぶつぶつと、床に座り込んで三人でピースを持っている様子はとても微笑ましいものだ。ハルが入れたミルクティーはもう冷めていて一口飲んだだけで身体が冷えた。

「ちょっと入れなおしてきますね。」

「あ、んじゃ俺紅茶な」

「ミーは珈琲で、砂糖二ついれてくださーい」

ハルが立ち上がりドアを開けて閉じる前にちらりと見た二人の背中。ピース片手にじぃっ、と見つめている姿に薄らと微笑んでドアを閉めた。砂糖は二つ。それだけはきちんと覚えておかなければならない。

 

 

ハルセンパイがパズルにはまった理由はあまり知らない。ミーが此処に来たときからセンパイはパズルばっかり作っていて、ある意味恐ろしい人だった。

それは個性と言っていいのか分からないが、とりあえず奇妙だ。

趣味というものにも分類されないような気がする。

ただパースをはめていく事に喜びを感じている表情は見せるものの、それは鍍金のようにしか見えない。もう一つの向こう側の顔には真実が佇んでいるんじゃないかといつも思っている。

ピースよりもハルセンパイを見ていたい。って、そういう意味じゃないですよー。

時々垣間見せる真実の断片があるかもしれない。

幻術を得意とするミーは、特にそういう裏の部分が凄く気になる。探究心旺盛というわけでもないが、隠し事をされるととても苛々する。

自分を欺こうという姿勢が赦されるものじゃないし、それになにより他人が何かを自分から隠し、そしてひっそりと進行させようとしているのも腹が立つ。自分はサプライズパーティーをされると怒り狂うタイプなのであーる。どんなタイプだ。

とりあえず、ミーはセンパイが気になる。

あのへらへらとどうでもいい笑顔の奥のひとつ。今さっき出て行った時の笑顔の奥。

それがただただ知りたいだけ。

なので、あーる・・・

 

 

 

ハルがパズルにはまったのはとても難しい理由だ。今となっても何も理解する事が出来ない気がする。

表面上は理解しているという顔をしているが、心の中では疑問ばかりがはじけている。もやもやとする不燃焼。それがとても胃にもたれるような感覚をする。

燻る。

燃え盛る炎が好きな俺としては、そんな燻りなんてゴミのようなものだ。

だから、アレはよかったと思う。他人の手にかかる位なら自害するという選択肢は俺はいいと思った。よくやったとぶっちゃけ思った。

金のためならなんでもするという金の僕だったが、ああ見えて自分をしっかりと持っている。ムダにでかいプライドは邪魔臭いと思ったが、こういうところで役にたつんだなと最後にしてやっと認めることが出来た。

金にがめつい、強欲の赤ん坊。

一円すらも無駄にする事の無いあいつは、いつだったか、ハルの誕生日に自腹でプレゼントしたものがある。それ以降、何もプレゼントはしていない。

確か、城のパズルだった気がする。マーモンが自分からプレゼントを渡すなんて事は初めてだったかとても興味深く見ていて印象に残っていた。

ありがとうございます!と頬を赤らめての御礼はマーモンを満足させたのだろう。ぷい、とそっぽを向いて、別に・・・と。

その後ハルは楽しそうにさっそく皆でパズル大会というものを開いた。なんだそりゃと思いながらも、その日は三浦ハルの誕生日だったので皆何も言わずに大人しく騒いだ。

俺はそのままばっくれたが、あのボスが参加しているとあってバイオレンスな大会だったらしい。ふと戻ってみるとスクアーロの髪が黒子毛だった。

ああ、そんなのはどーでもいいんだ。

それよりしなければならないことがある。それはこの馬鹿蛙も公認のことで、俺と蛙の目があって、柄にも無くうなづいた。

俺達は黒い手をパズルに伸ばした。

 

 

 

一つ、嫌いなパズルがある。

いい香りが漂うキッチンにて、そう考える。

一つだけ、赦せないものがある。

それはお城のパズルだ。今日まで毎日パズルをしてきたけれど、お城のパズルだけは買ってきていない。スクアーロさんが買ってきたパズルの中でお城のものがあったけれど、思わず落としてしまい箱がへこんでしまった。

悪い事だと思っていたけれど、その場から逃げるように走り出した。ドアを閉めて、寄りかかったずるずると地面に座り込んだ。大して走っていないのに動悸が凄く、汗も滲んで足が震えていた。

歯がガチガチと鳴るその姿は、きっと恐怖に染まっている顔だったはず。

こぽこぽと、お湯を注いで自分の緑茶を入れる。たまには故郷の味を舌に感じさせなくてはいけない。

パズルはとても大好きになった。けれど、その感情と相反してお城のパズルだけは好きになれない。好きになってはいけないという自己暗示が入っているのかもしれないけれど、多分、これから好きになることは決して無いだろう。

何かを削って何かを補う。死んで、生きて。出て行って入ってきて、マーモンちゃんから、フランちゃんへ。

過ぎ行くのは時間だけ。心は一時停止から動く事が無い。身体が動いても感情は動いてくれない。うわべだけの表情を動かすのだけは出来るようになったけれど、それでも自分だけは誤魔化す事が出来ない。

自分を騙すのは、疲れる。だから緑茶を飲んで落ち着けようと思う。落ち着いてパズルを完成させたい。

あの蒼い空。

あわないピースをはめ込んだ時の違和感。ちゃんとはまったときの高揚感。

パズルをしている時だけ気が紛れる。自分を誤魔化す事もやめれる。素に戻れる。鍍金が枯葉のようにはらはらと落ちていくような。けれど完成した綺麗なパズルを見ると一気に現実に引き戻される。

完璧なそれは、自分の欠落した部分を直ぐに思い出させる。

緑茶の匂いがとても懐かしい。飲みたいけれど、今飲んだら絶対に焼けどしてしまう。我慢我慢。

あのパズルも、また完成してしまう。

当たり前の事にふと切なさを感じながら、珈琲に砂糖を二ついれた。

 

 

黒い手を引っ込めた。指先に持ったそれらを、傍らに置いた。

ベルセンパイは一つを自分のポケットに入れて、ポケットのジッパーを閉めた。人を殺すよりも簡単で、人を殺すよりも心が重い。

けれど、それで救えるのなら、と、偽善者のような言葉を吐き捨てるのを我慢して暫くの沈黙。重苦しい空気を破ったのは廊下からの足音だった。

「はーい!もってきましたよー!」

「んー・・・って、紅茶にミルク入ってねーじゃん。」

「はひ?」

「入れろっつっただろ」

「紅茶としか言ってませんでしたよー」

「うっわ、ナマイキお前」

「はひ・・・二人共落ち着いてください!」

「チッ・・・今日はミルク抜きで我慢してやる。」

ハルセンパイが居なくなってから何も進んでいないパズルにしゃがみこんで見つめる。進化するどころか劣化しているパズルをじっと見つめた。近くにあったピースを持ち、一つはめ込んでみる。

「はひ、違いますねー・・・」

「バッカじゃねーの。これだってこれ。」

「まったく違うじゃないですかー」

 

 

ハルがいない間にパズルのピースを抜き取る。

そうやって、俺達はハルを救う最悪の手を差し伸べる。

 

 

 

わけわかめになってしまってすみません・・・

なんていうかムダに暗くなってしまって・・・

このお題、使いたかったんです・・・(←

 

リクエストありがとうございましたーww