剣、銃、盾、槍、弓矢、爆弾、鈍器などなど。
いろいろなものが自分を守るものになったり相手を攻撃するものばかり。
それが日常的に取り入れている最先端のこの場所では、精一杯の虚勢として包丁を握り締め、ぷるぷると震えながら向けても何の効果は得られない。
後ろからいきなりポニーテールを引っ張られて、折角一生懸命切っていた野菜がぼろぼろと落ちてしまったのです。
謝れば、赦します。
けれどこの人は謝ることなんてまったくしないんです。ハルは今までの怒りも相まってこうして果敢にも向けているのですが。
刃を指先で掴んで、簡単に、本当に簡単にひょいっと奪ったのです。
謝らないで、楽しそうに口元を緩めて。
見下して楽しんでいるその姿は、もう、悪魔にしか見えませんでした。
「というわけで、残念ながらお昼のカレーはなしになったわ。」
えー。と、大きなブーイングが響き渡る。ベルが唇を尖らせて、もう用意していたスプーンを握り締めて机を叩く。
「どーいうわけだよこのカマ!まさかお前一人で食べたんじゃねーだろーな」
「そんなわけないでしょ!・・・いつものボスの悪戯のせいよ・・・ハルったらやる気なくしちゃって・・・今は頑張って逃走中よ。」
はぁ、と溜息を吐くと、ベルがむむむっ、と唇を更に尖らした。
いくらボスだからって、この空腹は遺憾なく叫んでいる状態だし。
そんな事だろうと思っていたとばかりに剣を磨いているスクアーロは、つい先ほど自分で作った料理で腹を満たしていた。
ボスが自分の部屋から出て行くのを見て、これは絶対にちゃちゃいれだなと予想して食べていた。確かにカレーの気分だったのだが、それはそれこれはこれだ。空腹を満たせる時に満たさなければ。
「ったく・・・ボスもボスだがハルもハルだなぁ。さっさと気付きゃーいいっつーのによぉ・・・」
「で、僕達のお昼ご飯はどうするんだい。」
「久しぶりに私の腕を振るっちゃおうかしら!」
「よし、出前出前ー。俺寿司な」
「僕はうな重だね。」
「む、俺も寿司だ。」
「真似すんな。」
「そっちの方だろうが!」
「俺はいらねぇ。」
「ちょっとあんた達いい加減にしなさいよ!何よ!私の手料理をどうして食べようとしないのよ!」
「俺は腹が膨れてるからなぁ。」
事実をスクアーロが言い。ルッスーリアが視線を逸らして空腹を訴えかけているベルに視線を向けた。
「ベルちゃん!」
「オカマが作るのより普通の奴が作ったのが食べたい。」
「んま!」
「タダでもいやだよ。」
「まぁ!」
「貴様が触ったものなど口に入れたくもない。」
「もう!マーモンとベルってば、酷いわ・・・!」
サングラスから流れ落ちた涙を隠しながら、ドアを平手で殴り飛ばして出て行ってしまった。無視されたレヴィが不満の声を漏らしたが後の祭り。ベルとマーモンはさっそく注文しに電話を掛けにむかった。
部屋に残ったスクアーロが。今日もまた余計な事をしなければいいが・・・と不安げに窓の外を見ていた。
「・・・・ん゛ん!?」
「ぬ、どうした・・・?」
磨いていた剣を机の上に置いて、窓際に立って体を隠した。こっそりと外を見ると、やっぱりそれは現実だ。
「何してんだぁ。アホかアイツは・・・!」
そんなんじゃ失うばかりだろーがぁ。いろんなもんがよぉ。
ふるふると、木の幹に震える体を隠している姿は、肉食動物から草食動物が隠れているかのようだ。恐怖を瞳に宿しているが、それと同じくらい対抗心を燃やしている。
燻る怒りは、恐怖によって掻き消されそうになっている。
「こ、こここにゃいでくださ、い!」
「・・・・・」
「ひやぁ!こないでくださいぃぃ!!」
一歩前に踏み出すと、ハルが面白いくらいに反応する。
肩をすくめて、内股になった足がたまらなく弱々しい。ニヤリ、と更に笑う笑顔に涙を滲ませる。
エプロン姿のまま逃げてきたハルは、一度自分の部屋に入って落ち込んでいた。どうすればいいのか、と。ザンザスをどうすればいいのかと。
苛めともいえるけど、何もしてこない。
暴力もない、言葉の刃もない。ただ無言の威圧だけ。僅かな表情の変化だけ。
それでいじめというのは、自信がない。
けれど困っているのは事実で、ヴァリアーの中では誰もが知っているハルの状況。それでも何も言わないというのは、きっと、ザンザスが悪いわけじゃないのかもしれない。
ハルでも分かるように、これはコミュニケーションなのかもしれないけど。
それでも。
「ほぇ・・・な、何で、何で包丁持ったままなんですか・・・!?」
「お前が返せっつってただろーが。」
ぎらり、と銀色に妖しく光る包丁が、ぎらぎらと光る赤い瞳。
鬼に金棒とはまさにこのこと。恐ろしさを引き立てるアイテム。
「あ、う」
「何作ってたんだ?」
「・・・カ、・・・カレー・・・を・・・」
「そうか。」
「み、・・・皆さんが、待って、ます・・・ので・・・」
「ほう。」
より一層笑みが増した。黒いオーラも増した。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・あ、あー!あんな所にゆーふぉーが・・・!」
「いるわけねーだろ。」
「はひ、スクアーロさん・・・」
思わず指差した方向を、虚しく見つめていると窓からちらりと見えた銀色の長い髪。あれはスクアーロだ。
何であんな事をしているのだろうか。とハルがじぃっと見つめていると、ザンザスも窓に視線を向けた。
「な、なんだっつーんだアイツは・・・吃驚するだろーがぁ!」
「お前は一体何をしているのだ。」
「あ゛ぁ!?あの二人がごちゃごちゃする場面みたいからに決まってんじゃねーかぁ!」
「ただの野次馬か。」
「テメェもザンザスがどんな顔してるか見て見たくはねぇかぁ?好き好きオーラ出してんのかねぇのかとか。」
「ぬ。」
「ほら、見てみろ。あれは完璧にオーラだしてんぞぉ。珍しいぞぉ。あんなザンザス俺は始めてみたぞぉ」
「ぬ・・・ぬぬぬ・・・っ」
じりじりと窓際に近寄ってきたレヴィを、好意的に手招きをして誘い出す。こっそりと頭を出して窓の外を見ようとした頭を掴んで、そのまま窓にたたきつけた。
「ぬぐ!」
ばりんっ、と割れた窓硝子。三階から落下するレヴィにギラリと眼を光らせたザンザスが拳銃を構えた。それは反射的なものもあった。
「れ、レヴィさん!?」
ガチャリ、と拳銃の音を聞いて、反射的に顔をザンザスの方向に向ける。
「だ、駄目です!」
「チッ。」
もう既に落下したレヴィに銃口を向けるのをやめた。落下する物体を打ち抜くのは快感だったのに。と。
懐に戻っていった拳銃を見届けて、レヴィの下に駆け寄ろうとするが、腕を掴まれ阻止された。
「図らずも捕まえられたな。」
「はひ・・・」
レヴィの場所を凝視したまま、顔から血の気が引いていくハル。一階の廊下を歩いていたベルとマーモンが窓を開けて落下したレヴィを、窓を開けて見下していた。
「何、まさか落ちちゃったの?まっぬけぇー」
「窓から落ちるなんて情けないね。」
「なら寿司二人前俺の分にしちゃおっと。」
「僕にもイクラ頂戴。」
「あとガリもやるよ。」
「いらないよ。」
そういって部屋に戻っていく二人に、無言で手を伸ばしてSOSを示していたが、二人は何も気がついていない様子で消えていった。
ずるずると引きずられて屋敷の中に入っていき、また原点のキッチンにて腕の拘束がとけた。
持っていた包丁をまな板の上にぐさっ、と差し込んで、一歩下がったザンザスが壁に寄りかかり、腕を組んで完全に傍観の姿勢に入っている。
「・・・・あの・・・」
「作るんだろ。カレーを。」
「・・・・・・」
「作れ。」
「は、はひ!」
ギロリ、と睨まれ、一時中断していたカレー作りを無理矢理再開させられた。
包丁を引き抜こうとしたが、中々抜けず力を入れて引っ張ると勢いよすぎて真後ろのザンザスに向って背中から倒れそうになる。
両腕は大きく振りかぶりながら一直線にザンザスに。
冷静に手を伸ばして、また指先で刃を掴み、ハルの肩に手を置いて防いだ。
「あ・・・・す、すみませんっ!わざとじゃないんです・・・・」
「わざとするような勇気テメェにはねぇだろ。」
「はひ・・・」
当たり前のように言われた言葉が、馬鹿にされているともとれるし、自分がザンザスにそんな事をするような人間ではないと信頼している言葉にも聞こえた。
スクアーロが、何でこの人についていっているのか何となく分かった気がする。
「いいからさっさと作れ。のろま。」
たまに見せる優しさでつい勘違いしてしまったからですね。それ以外に考えられません。
人参を思い切り切りながらそう思った。
「あら、ハルじゃないの。どうしたの」
「あ、ルッスーリアさん・・・」
「・・・まぁ、ボス居たの?」
「・・・・・・」
ルッスーリアがやってきた時、ハルは天使に見えた。この重苦しい中で作るカレーは美味しくないし、作っていて何にも楽しくない。
何処か不機嫌そうなザンザスを通り過ぎて、ハルに唇を尖らせながら怒っていた。
「もう、聞いて頂戴よ!あの二人ってば私が作るご飯食べたくないっていうのよー!?」
「あの二人とは?」
「ベルとマーモンよ!もう!失礼しちゃうにもほどがあるわよ!」
ルッスーリアは無意識のうちにジャガイモを手にして、八つ当たりのように皮を剥いていた。
それはとても助かるし、楽しい。
だが、後ろからとてつもなく痛い視線が突き刺さっているハルは、原因を探っていた。自分がのろいからではなくて、この痛さはルッスーリアがやってきてから発生したものだと答えを導き出した。
他人に手伝わせてんじゃねぇ。とか、自分で全部やってみろ。みたいな事を思っているに違いありません!
「ルッスーリアさん!」
「?なあに?」
「ハル、一人で頑張ります!カレーは一人で作れます!っていうか一人で作れないものではないですよね!?」
「え・・・ええ・・・」
「そ、それにカレーじゃないものも作りましたよね・・・ほら、カレーより難しいマグロのカルパッチョとか!」
「あ・・・あー・・・そ、そうねぇ。」
「スクアーロさんの好きな食べ物でしたもんね!頑張って作りましたよ!一人で!ね?」
「・・・・・ハル・・・・」
「どうかしました・・・か・・・?」
あちゃー。という表情をしている。遺憾なものを見るような眼で見つめられるハル。そして背中にナイフを突き立てられたかのような痛みが襲い掛かってくる。
ぎぎぎ、と首を後ろに向けば、さっきよりも何十倍も怒りが増しているザンザスが居た。眉間の皺が何本も何本も・・・。
「・・・・はひ、ボ、ボス・・・」
「・・・・・・・」
「あ、・・・・」
無言でキッチンから出て行ったザンザスに、ほっ、と恐怖から開放されたハルは床に座り込んだ。
ルッスーリアがハルとザンザスが出て行った方向をきょろきょろとしていたが、最終的にハルにしゃがみこんだ。
「大丈夫?」
「はい・・・それにしても、ボスって・・・どうしてああなんでしょうか・・・ハルイジメられてるんですか?これって・・・」
「あー・・・・」
「でも、スクアーロさんほどではないですよね・・・まぁ、子供で一般人で、殴ったりしたらすぐ死んじゃうから、苛める相手が居なくなるのが嫌なんでしょうけど・・・・」
「・・・えっと、ハル?あのね・・・」
ハルがだんだんと俯き、床にぽたり、と雫を一つ落とした。それを見てみんな傍観していたことによって、事態は大きな誤解を生み出しているんじゃないかと危惧する。
ハルは優しいから、きっとザンザスを見捨てたりはしないだろうし。それにザンザスがただしい愛情表現をする日が必ずやってくると思い込んでいた。
その気持ちの中にはもちろん匙を投げるという意味も無かったとは言えないが。
「ハルは・・・・あんな、デ、デビルマンと、どうフレンドリーになればいいか・・・わかりません・・・・」
「ハ、ハル!違うの!ボスはコミュニケーションが下手なのよ・・・だから、」
「そんなわけないです!あんな・・・あんな、今にもハルに恐ろしい目にあわそうとたくらんでいる眼をしてるんです!」
「それは、なんていうか・・・す、好きすぎてなんていえないわよねぇ・・・」
「ハルはもう限界です!もう自己暗示できません!」
「ああ・・・・」
泣き崩れたハルに、どういえばいいのか分からないルッスーリアは、とりあえず頭を撫でて慰めるしか出来なかった。
そこに歩きながら寿司を食べているベルがやってきた。
「あにしへんの?」
「もう!ベルちゃん食べ歩きはかっこわるいわよ!」
「関係ないね。だって俺王子だもん。」
「うわぁああん!」
「・・・マジでどうしたの。それ。」
「・・・ボス関係でね・・・」
「ああ、なーる。」
ベルが興味深そうにまた寿司を食べ始めながらハルを見る。しゃがみこんで、俯いた顔に寿司を近づけてみる。
「おいしそーだろー」
「そんなのいりません!」
「庶民のくせに・・・特上寿司なのに。」
「ベルちゃん冗談はやめてちょうだい!」
「あ、そーだそーだ。さっきボスがスクアーロボコってたけど、あれってハルが原因?」
ぴたり、と泣き止んだハルが、バッと顔を上げた。
ああ、スクアーロに嫉妬したのね。とルッスーリアは納得する。それに気がつけば、ハルは誤解しないですむ。
「・・・や、やっぱり・・・やっぱりデビルマンです!」
「ええ!?」
「ハルがルッスーリアさんと一緒に居たから、イジメが出来ないからって、スクアーロさんに・・・!」
「・・・ちょっとまって、ハル、一度私の話をじっくりと聞いて・・・」
「もういいです・・・ハルは、戦います!」
グッと拳を握って、涙を堪えて立ち上がったハルに、ベルが適当に、おー。と拍手をする。
決意を新たに、一歩前に踏み出そうとしているハルに方向性を見失っていると注意をしたい。でも見失っているのはハルではない。
何も言えずに、めらめらと戦いの炎を燃やしているハルに何も言う言葉が見つからない。
ハルがキッチンから勇ましく出て行った後、沈黙のキッチンではベルが租借する音が響いていた。
「・・・で、どーすんの。これ。」
「煽った張本人が・・・何を言うの・・・よ・・・」
「あ、オカマが落ちた。」
収集不可能の事態に、どう収集をつければいいのかと落胆する。
うな重って言ったらやっぱり金持ちって感じだよね!ってことでw(ぇ
なんていうか、凄く脱線脱線して、修正しても脱線脱線で矛盾入り混じるものになってしまいました。すみません。
っていうか結構難しかったです。ザンザスが嫌いなハルっていうのも、どれくらいの嫌いかっていうのを考えました。で、最終的にはデビルマン的に嫌い・・・ってどういうこっちゃねん!(誰だ
すみません。最後なもんでおかしいです。テンソン的なものが。
というわけでリクエストと少し違った感じになってしまってすみませんでした・・・!
リクエストありがとうございましたーww
さて、終了しちゃったなぁ。