土を踏むのと同じく、ミーはあの男を踏みつけたい。

当然のようにそう思うのは、もう運命だと思う。別にミーはあの男を踏みたいとは思わなかっただろう。きっと普通に生きていれば。

だからこそ、これは運命だと思うんです。

かつて感じたことのない恋慕の感情のように、それは唐突で日々の日常に当たり前に存在を認めざる終えないような。

お互いに感じているからこそ、あっちだってこの気持ちは分かってくれるはずです。いや、分かっていてもそれを実行しようという優しさがあるかどうかが問題なんですけどねー。

だから結果、這いつくばれー。

 

 

 

 

節操も無く小さく呟いた言葉は、地獄耳のあの男に必ず聞こえているだろう。戦場の彼方。突如現れた見知らぬ男にそんな事を呟かれては気分が悪いだろう。

明らかに此方を睨んでいるあの眼に、果敢に挑んでみる。

むー。何ていうウザったい餓鬼。昔からあんな風にムカツク奴だったんですねー。

ミルフィオーレの新たな敵だとかそんな漫画みたいな展開はまったくミーは必要としていませんでした。普通に日本のボンゴレチームがメローネ基地を襲撃した所でENDの文字を掲げればよかったのに。

そうすればミーはあの男にこんな場所で喧嘩を売ることも無かったのに。

「君、一体何?」

「何って、ただの蛙の妖精ですけどー?」

不機嫌丸出し。此処は今と違って余裕が無い。

それを見るとこっちが余裕が出来る。いつも相手にしている威丈高なナマイキな男とは裏腹に、感情豊かな中学生男子って感じですねー。ゲロゲロ。

周りではばきゅーんどごーんしている中で、あの男、もとい若い雲雀恭弥と対面する。あっちは初対面のくせにしてなんてふてぶてしい。挨拶くらいすればいいと思いますー。

「ふざけてるのは見てくれだけにしてほしいね。」

「そっちこそ年齢詐称もいい所ですねー。実年齢明かしてみろよおっさーん。」

何だか後ろあたりから戦っているベルセンパイが何かごちゃごちゃ言ってますー。お前も戦え的な事を言ってます。ボキャブラリーのすくなさに涙を誘いますー。

ミーの簡単な言葉で簡単に火が付いたみたいです。若いっていやですねー。今の時代の雲雀恭弥なら更にそっちこそ実年齢明かしてみてよガキ。くらい言うのに。

「くだらない事ばっかり言わないでくれる・・・ああ、さっきのももしかしてジョークだったの?」

「残念ながらミーはジョークはあまり好きではありませーん。好きな人に言うのは好きですけどねー。」

そういって思い出すのはあの人の笑顔。あー、欠乏症ですね。

「っていうかさ。」

ブンッ、とトンファーを投げてきた。うーわ。この人本当に昔駄目だったんですねー。自分の獲物無闇に投げるなんて。

軽く交わすと直ぐ近くまで来ていたクソ餓鬼改め雲雀恭弥は頭に血が上っている。

戦う相手はミーじゃないことくらい判断できるはずなのに、ああ、若さとは恐ろしいものですねー。

「噛み殺していい?」

「まーたそれですか。」

ブンッ、と今度は殴りかかってきたトンファーを軽々と避ける。そう軽々と。そんな余裕たっぷりのミーに嫉妬の怒りを燃やしているのかどうかは定かではないですけど、雲雀恭弥は恐ろしくしつこくアホです。

トンファーは虚しく風を掻き切るだけで、ミーの肉体に触れることは決して出来ません。

何だか悲しくなってきました。あの大人の余裕ばっかり見せている雲雀恭弥がこんな餓鬼だったなんて。と、いや普通に子供ですけどね。

それでも、この時代の雲雀恭弥のインパクトが強すぎて、このギャップに驚きでーす。あ、だからハルセンパイも騙されそうになってるんですかねー。危ない危ない。

まったくもってトンファーは当たらない。いろんなアクロバティックな動きをしてかわしていると敵の攻撃に当たりそうになって少し冷や汗です。

 

 

初めて雲雀恭弥と会ったのはいつだったか覚えていない。日にちより、その日の天気よりも大切なことを覚えていた。

その時期はハルセンパイがヴァリアーにやってきていたときで、ミーもハルセンパイを好きになってきた頃。攻めてすぐに落とすか、じわじわと攻めるべきかと悩んでいた時だったと思う。

ヴァリアーの廊下を歩いていた時に、前からスーツ姿で歩いている男が居て、一体誰だろうと思っていた。侵入者のような動きを見せたらすぐに殺してしまおうと思って、警戒心を表さないように普通に歩いていた。

雲雀恭弥はいきなり止まって、ミーをじっと見ていた。自分がもしかして狙われているのかと思い、ならば直ぐ殺す口実が出来たと喜んでいた。

あの時は運動不足のときだった気がしますー。違うかもしれませんが。

「何ですかー?」

小首をかしげてかわいこぶりっ子。たいした意味はありませーん。

「その頭・・・・」

「ああ、言っておきますけどこれミーの趣味ではありませんから」

「うん。知ってる。あの天才君から被らされてるんでしょ。」

・・・あれー?

その事実を知っているのは極僅かのはずなのに、と、警戒心よりもただ疑問が浮上した。

情報屋だとしても、結構マイナーな情報まで入手しているもんですねーと感心していた。

雲雀恭弥はミーをじっと探るように見つめていて、ぶっちゃけウザかったですー。

「・・・で、貴方は誰ですかー?」

「さぁ?・・・とりあえずボンゴレ雲の守護者って言っておいたほうがいいかな。」

自分の地位をとりあえず、という言葉をつけるあたりで、ミーは雲雀恭弥にいい印象を持つことは無いだろうなと予想した。

その予想は簡単に当たっていて、フッ、と、余裕の笑みを見せた。

「・・・何ですかー?」

「やぁ。」

まるで知り合いにでもあったかのような挨拶をしてきた雲雀恭弥に、頭がおかしいのかこの男。

「あ、雲雀さんじゃないですかー!」

え、と後ろを振り向くとハルセンパイが嬉しそうに手を大きく振っていた。大した距離も無いのに大仰な動きをするハルセンパイと、普通に会話をして近づいていく雲雀恭弥にただ立っているだけでしたー。

「雲雀さん久しぶりですね!」

「うん。君は何にも変わってないんだね。」

「それはもちろんいい意味ですよね?」

「それはどうだろう。」

「雲雀さんも変わってませんね!」

明らかに親しげなやり取りをしている二人を見て、感じたのはもちろんのこと嫉妬心。いえいえ劣等感などではありませんよー。そんな答えを書いた生徒は廊下に1週間立たせてやりますー。

とりあえず、感情を仕舞いこんでいつもどおりにハルセンパイに近づいて後ろから抱きついた。

雲雀恭弥の眉がぴくり、と動いたのを見逃さなかった。

「ハールセンパーイ。この人と知り合いなんですかー?」

「そうですよ、10年前からのお友達なんです!」

「へぇー」

「あ、雲雀さん、この子がフランちゃんなんですよ?」

「うん。一目見たら分かったよ。噂どおりの蛙頭。」

「噂してたんですかハルセンパイ、ミー愛されてますねー」

「あははっ!くすぐったいですよフランちゃん!」

愛されているという言葉よりも、この二人がヴァリアーに来ても連絡を取り合っていたという可能性が浮上した。

電話、メール、手紙。

いろいろやりとりの方法はあるけれど、一体いつしていたんだろうか。そしてミーには雲雀恭弥という男の名前なんてまったく聞いたことが無い。

この眼の前でミーに喧嘩を吹っかけているこの殺気まるだしの男は、明らかに片思いみたいですしー?

10年前からの知り合いでもミーと同じ立ち位置。それなら何にも恐れる事なんてありませーん。

「さっき二人共何か話してましたけど・・・何話してたんですか?」

「他愛の無い話ですー。世間話ってやつです」

「ああ、うんそうだね・・・あ、ちょっと、」

雲雀恭弥の手がハルセンパイの口元に伸びて、指先で何かを拭った。

「クッキーでも食べたの?」

「は、はひ・・・」

「恥ずかしい。」

くすり、と笑ってそれを舐めた。ハルセンパイがオーバーヒートしそうに真っ赤になって口元をぱくぱくと動かして動揺してました。

「まだ食べたいの?」

「ちっ、違います!!」

後ろから抱き付いているミーとしては面白くないほか何者でもない。

こっちに気を戻させるように抱きついて耳元でハルセンパーイ。と子供みたいに呼びかける。ハルセンパイは子供っぽいのに弱いから。

「ミーも後でクッキー食べたいでーす」

「あ、え・・・あ、あの、談話室に、置いてあって・・・」

「やっぱりまた食べたいんだ?」

「っ!意地悪ですね!」

同じ場所に立っているというのに、どうして雲雀恭弥の方がリードしなければいけないのでしょうかー。

じろり、と睨み上げると、フッ、と余裕の笑み。

ぴしゃーん。

決裂。いろんなものが。

大きな溝が音を発てて作成されていく。

「・・・そういえば、自己紹介してませんでしたねー。」

「そうだね。」

ハルセンパイから離れて、前に立つ。ハルセンパイを背後に。

「新しく幹部になりましたフランでーす。ハルセンパイとは仲良くしていまーす。」

「ボンゴレ雲の守護者の雲雀恭弥。よろしく。」

口先だけの仲良し宣言。背後のハルセンパイはお友達がお友達になりましたー!と喜んでいました。流石に握手をするほどミーたちは仲良しになれないし、そんな性格でもないのでしませんでした。

お互いにニコニコニコニコ。実際にはジロジロとかでしたけどね。

その時は簡単に攻める事が出来る雲雀恭弥に、ほんの少し、ほんの少しだけ劣等感というようなものを感じていましたけどー。

ああ、それなのにそれなのに。

 

「ガキですねー」

ミーよりもはるかに精神年齢が遺憾な結果。雲雀恭弥というのはこんな男だっただろうか。

戦場は更に悪化していているにも関わらず、ミーはこの戦いを止める事が出来ない。出来ないんじゃなくて、やらないんですけどねー。

まぁ、こういう所まガキだなって思いますよ。自分で。

「そんなんで大丈夫なんですかー?」

「君こそ大丈夫なの?」

「何がですかー」

「あそこのパイナップルにまた刺されるんじゃないの?」

「大丈夫ですよー。余計なご心配ありがとうございまーす。」

無知な雲雀恭弥。間抜けすぎですねー。ゲロゲロ。

なんて優越感に無理矢理浸っている場合じゃありません。これじゃ本当に師匠に後から怒られちゃいまーす。

「10年前ってー、アンタは好きな時期なんですかねー?それともまだ好きじゃない時期なんですかねー?」

そこが問題。

もし10年前からの感情ならば、今突っ込んでもまったく問題は無いんですけど、もしこれで好きなんですか?三浦ハルの事。などといって過去に帰って未来を変えられる可能性がある。

けれど、師匠がタイムパラドックスだのなんだの言っていたから、この未来は固定されていて、今過去から来ている人物達に何をしてもこの今現在は何も変わらない。と言っていたよーな言ってなかったよーな。

「何言ってんの?」

「貴方は三浦ハルが好きデスカー?」

少し英語を和訳したように発音してみましたー。たいした意味は含まれて居ません。

動揺した。

トンファーを持つ手がぴくり、と、眼を瞠目させて。

ああ、なんて単純な。羨ましいほど素直ですねー。嘘ですけどね。

「10年前のハルセンパイって、どんな人ですかー?ずっとはひはひ言ってるんですかー?」

「・・・・・」

「コスプレ癖はあるんですかー?甘いもの大好きなんですかー?あと、ハルセンパイの内腿に小さな切り傷ってついてますかー?」

最後の一言は、ミーの中の最終兵器。

ぴくっ、と眉を寄せて皺を作った雲雀恭弥。今までミーがこの時代の雲雀恭弥にどれだけ踊らされ、どれだけ見下されどれだけむかついていたか。

少しだけでもとうさばらしを試みたけれど、これは結構なストレス発散できましたー。

そろそろ雲行きが怪しくなったので、早く戦いに参戦しないと。

敵に向って走り出すと、後ろにドンッ、と丁度よく攻撃が。雲雀恭弥がこちらに追ってこないようにとの配慮でしょうか。なんて空気の読める敵なんでしょう。ミーがじきじきに倒してあげたいですけど、面倒臭いんでやめておきますと心の中で独り言。

「マジお前何やってんの?この状況で。」

「いやー。あえてこの状況を無視してゴーイングマイウェイにいこうかと思いましてー」

「こんな時に私情持ち込むなっつの。お前のせーでハルが危険な目にあったら最悪だと思わね?」

久々にベルセンパイが正当な事を言って吃驚。

「そうですよねー・・・じゃあ、今から真剣に戦いますんで許してくださいー」

「後で制裁な。」

「そんなー」

そうですね、10年前だろうが現在だろうがどっちでもいいです。

ハルセンパイはハルセンパイ。ミーの大好きな人ですから、守ってあげないと、いけませんよねー。

 

「這いつくばれー、雲雀恭弥。」

あ、また呟いちゃいましたー。

 

 

 

これはやっぱり乱戦中の時のネタを使おうと。

リクエスト受けた時に、あ、これはフラン再登場したときの場面でやっちゃおうと。

フランvs若かりし雲雀さん。

異色のコンビで楽しかったですww

 

リクエストありがとうございましたww