これは明らかに、いけない。

理性でそう叫んでいるハルだったが、それでも麻薬にとりつかれたかのようにふらふらと歩いていく。

夜の街。

ネオンの中歩き出す。かつん、かつんとハイヒールを鳴らして歩き、足を止めたのは一つの店。

アルコールの匂いと男性用香水の匂いがただよう店の前。店内のBGMが僅かに聞こえてくる。

ドアを開けて、入る。

黒いスーツを着た男達が行きかい、それと同じくらい女性も行きかっている。皆綺麗な顔をしている。男も女も入り乱れて美人ばかり。

「・・・・あ・・・」

ふと、眼があったのはこの店で一番合いたい人。

「いらっしゃい。」

 

 

 

ぽっ、と頬を染めて隣に座って接客している沢田綱吉に見ほれている。グラスにお酒を注いでいる姿はとてもかっこいい。

この店にはもっとかっこいい人がたくさんいるが、ハルにとっては一番近寄りやすくて、一番かっこよく見えるのはツナだけだ。

「また指名されて、すごい嬉しいよ。」

「え・・・」

「俺あんまり指名されなくて・・・売り上げも最下位だし・・・」

「あ、あの、ハル。来ますよ?そしたら、ツナさん指名します。」

「え・・・あ、ありがとう!」

屈託の無い笑顔は、この夜の街に似つかわしくない。闇夜を照らす月のように輝いているから、友達に連れられてこられた苦手なホストの店にくるようになってしまったんだ。

ホストに恋なんて、何て酷い。心音が早まって、手にはじわりと汗。

ホストじゃなかったら。彼がホストじゃなかったらよかったのに。そうして、普通の恋愛をしたかったのに。

でも、この場所で働いていたからこその出会い。それを感謝しなければ。

グラスを持って、乾杯。と小さく音を鳴らしてグラスをあてる。

にこっ、と笑う彼の笑顔に、仕事の疲れも癒される。

「いらっしゃいませ。」

「はひっ」

「え・・・」

ハルの隣の席に自然な形で座ってきた男は、この店のbPホストの雲雀恭弥。

初めて店に来たときに、友達が一番かっこいいと言っていた人だ。ぶっちゃけていうと、ハルはまったく興味が無い。

ハルはbPより、一番人気の無いツナがいい。それに、見た目からして、雰囲気からしてハルは苦手の分野に該当する。

「あの、ヘルプはいいですよ、雲雀さん。」

「いいから、僕は好きでいるんだから。」

「・・・・・・」

「そんな顔しないでよ・・・まぁ、落としがいがあるけど。」

妖艶な視線でハルを射抜くが、ハルはまったく動じない。せっかく二人きりでほのぼのとした時間を過ごしていたというのに。

大体、bPならお客が来ているはず。それなのにこんな貧相な客に集りにくるなんて。

「言っておきますけど、ハルは貴方にはお酒は上げませんから。」

「いいよ。別に。」

「売り上げだって、加算させませんから。」

「別にそんな小さな売り上げいらないよ。」

ムッ、と睨みつけても、微笑を貼り付けた雲雀は足を組んでハルをじっと見ている。

普通の女の人なら、勘違いするんじゃないかという視線で。でもそれはハルにとってはうそ臭い視線だ。女の人を落とそうというのが分かってしまうような稚拙な仮面。それが更に雲雀恭弥への嫌悪感が増すばかりだ。

「おーい、雲雀、お前客来てんぞ?」

「いいよ。君にあげる。」

「お前なぁ・・・それで満足するはずないだろー。ほら見ろよあのギラギラとした視線。」

「やだ。」

「んじゃあ骸に渡してもいいのかー?」

「うん。」

「・・・・・」

これは、困ったぞ。という顔をしているのは山本武だ。ネクタイの締め方が少し雑な人間としかインプットしていない。

だが、この店の中でツナの次に好きな人物だ。他の人とは違って、素な感じがするから。

ハルの視線に気がつき、にこっと笑う。爽やかなスポーツマンの笑顔。

「らっしゃい!」

「此処は寿司屋じゃないよ。」

「あ、わりー。つい癖で・・・」

頭を掻きながら、お客をどうにかしないとと呟きながら居なくなった。

骸、というのはここのbQだったような気がする。曖昧な記憶だが、確かもう一人の友達がその骸というホストに骨抜きだった記憶がある。

そして、雲雀恭弥と骸は仲がすこぶる悪いとこの店では当たり前の情報がいきかっている。

二人が店内をすれ違うだけで、殺気を放っているとか。喧騒の真ん中に佇む二人のせいで店内に一瞬の静寂を作るとか。外の音が聞こえてくるくらいの。

ある意味それは名物ともいえるくらい頻繁にはおこらないが、それを見たものには必ず不幸が訪れるとか、ないとか。

ツナ以外には眼中に無いハルなので、コレくらいの情報が精一杯だ。

だが、ツナが話す内容は覚えている。他の同僚の愚痴だとか楽しかったことだとか。ホストならば客の話を聞くのだが、ツナは逆だ。

それが更にハルを深みに誘う。もしかして、ツナの手の平で転がされているだけなんじゃ・・・と思ったこともあったが、恋している乙女にはそんなのはまったく障害にはならない。

そう、雲雀恭弥がその大嫌いな骸に客を、売り上げを売り渡すような真似をするなんて。と、ちらりと見る。

「ああ、やっとこっち見た。」

にっこりと、また落とそうとしている顔。

「売り上げ上げるためには、ハルの所に居ても意味ないですよー」

「大丈夫。あれだけじゃ僕は抜かれない。」

「え・・・でもこの間骸に抜かれそうに・・・」

「沢田・・・」

「ひぃ!す、すみません!」

禁句を言ってしまったツナに、ドスの効いた声で睨みつけ、戦慄するツナが反射的に謝った。

その様子を見て、ハルは眉を吊り上げて迷惑だと大声で叫ぶ。

「ハルはツナさんと一緒に居たいんです!貴方は他のお客さんの所に行ってください!」

ビシッ、と、まだ雲雀を待っている女性二人のお客を指差した。指差された二人は驚き瞠目している。店内のホスト、客がハルに注目していくのは当然の事だった。

そんなハルの様子も眼中に無いかのごとく、余裕を見せる雲雀は座ったまま、いつもの抑揚で。

「君にそんな権利はないよ。」

「ハルはお客様です!」

「だけど、考えてもみなよ。」

ゆっくりと立ち上がって、いきり立っているハルの頬に触れて宥めるように、落ち着かせるような声色で囁く。

「僕はここのbPだよ?それをタダで相手してあげるだけ、幸せなんだよ?」

困ったように、子供に言い聞かせるように言う言葉は、まったくもってハルには迷惑な話だった。

「そうですね!ですがハルはそんなの望んでいません!サービスならあのお二人にしてはどうですか!」

更にビシッと指差す女性客も注目され、え、え、と困っている。

はぁ、と溜息を吐いた雲雀は何かを言おうと口を開こうとするが。

「騒がしいですね。」

かつ、と足音を響かせて、やってきたのは骸だった。

雲雀は眉根を寄せて、明らかに怪訝そうな表情をして小さく舌打ちをした。その様子を見て、そういえばこの人が骸、という人だった気がすると思いだしていた。

「皆様、ご迷惑をおかけしてもうしわけございません。」

慇懃な謝辞に、ホストよりも女性達が気にしないでとばかりに各々自分の話題に戻って、誰も注目するのをやめた。

鶴の一声とはまさにこのこと。と、呆気に取られているハルがすとん、と腰を下ろした。

「大丈夫・・・?」

ツナが不安げな顔で水を差し出してきて、それを受け取って一気に飲み干した。冷たい水が頭を冷やしてくれたようだ。

雲雀と骸が、お互いに向き合い睨みあっている。見上げてそれを見ていると、背筋にぞぞ、と何かが迸った。

これが、殺気?

「おやおや、この店の一時的な顔がこんな騒ぎを起こすとは・・・ふ、bPの座ももうすぐで交代ですね。」

「こういう尻拭いは天下一品の万年bQの六道骸さんが何を言っているの?君がbPになったりしたらすぐにこの店は潰れてしまうよ。」

ピシャァン!と、今雷が落ちた気がした。

こんな至近距離で二人の会話を聞き、感じていると恐怖ばかりが身体を支配する。隣のツナも同じようで、ついお互いに擦り寄って手を握っている。

獰猛な二人の獣が、お互いに牽制しあっている。

そんな危機迫る場面で、六道骸が視線を外して、ハルに向ってにっこりと笑う。

あ、この人も嘘の笑顔。

「どうもすみませんでした。」

「あ・・・・いえ・・・ハルこそすみませんでした・・・」

「これからはこんな事を起こさないようにいたしますので・・・ほら、雲雀恭弥。お客様がお待ちですよ。」

「いやだよあんな女・・・」

「失言は控えてくれないと殺しちゃいますよ。」

普通の笑みを携えてそんな危ない事を口走っている六道骸に、この瞬間から苦手分野に分類した。

雲雀を無理矢理つれて女性客二人の元へやっと連れて行った。ほっ、と安堵の溜息を吐いたハルとツナ。お互いに顔を見合わせて、ぷっと吹き出し笑い合った。

あんな、綺麗過ぎる顔に、そして嘘の笑顔より、このささやかな笑顔だけでいい。この雰囲気だけでもういい。

まだ一口も飲んでいないお酒にやっと口をつけて飲み始める。からん、と氷の鳴る音が響いた。

さて、今日は一体どんな話をしてくれるんだろう。

こうやって毎回来るたびにいろんな事を知れる。

楽しみにまっていると、また横槍を入れるように男の声が聞こえた。

「なー、お前さっきのすげーな。」

「・・・ど、どうも・・・?」

「なんで疑問系?」

うしし。と笑うこの人は、名前はまったく分からない。

とりあえずこの笑顔は嘘のものではないと直感的に分かった。隣のツナは恐縮そうにしている。接客途中だというのに、隣の席から後ろを向いてわざわざ話しかけてくるなんて。

「う゛お゛ぉぉい!ベルテメェ何やってんだぁ!」

「えー。だって暇だし。」

「ふざけんな!俺だって暇だが我慢してんだぁ!」

その大きな声で、女の子の楽しそうな声は止んだ。ああ、とこっちまでが額を押さえてしまうような出来事に、ハルはどうすればいいのか視線を彷徨わせている。

お客の子は、ハルと同じく視線を彷徨わせる子がいたり、怒りで眉を吊り上げている子もいたりといろんな感情が入り乱れている。

とりあえず、どんな道をたどろうと最後のゴールはいっしょで。全員が出口に向って一直線に歩いて行ってしまった。

銀髪の男がしまった。とばかりに出て行った客の後姿を見て、無意識な手が伸びていた。ああ、売り上げがぁ。と呟いている。

ギロッ、とベルという人に睨みつけ、テメェ・・・!と八つ当たりをしている。あれは確かにこの銀髪の人が悪い。

「だからテメェと組むのはいやだったんだぁ!」

「はひー!?」

机を持ち上げベルに叩きつけようとしているという危ない光景が眼の前で繰り広げられている。銀髪の男の人に背を向けて、暢気にハルに話しかけているベルという人。

グラスががしゃんっ、と落ちて割れている音と、女の人の悲鳴が店内に響いた。

「お前いくつー?仕事は何ー?」

「あ、あ、あああ、あの!それより後ろ・・・」

「ひぃぃ!危ないってー!」

「これで何度目だと思ってんだぁ!」

「常連だよなー。見たときから気になってたけど今ので気に入った。次来たとき指名しろよ。サービスしてやっから。」

「聞けぇぇぇぇ!!」

携帯を取り出して、メアド教えてと言っている。ハルはにこやかな軽そうなベルの後ろで、怒りを露わにしている銀髪の男の人を涙眼で見上げたまま固まっている。

それをいい事にハルの鞄から携帯を取り出して勝手に赤外線で交換していた。

はひ、と振り下ろされた机にぽろり、と涙が出たのだが、どこからか投げつけられた花瓶が銀髪の男の人の頭にヒットした。割れた花瓶は、出入り口の付近でよく見かけるシンプルなもの。

投げつけられた場所を見ると、不機嫌そうな顔をした男が居た。

「ってぇ!・・・てめ、何しやがるザンザス!!」

「カモが来てる時に騒ぎをおこすんじゃねぇ。」

「カモが来てる時にコイツは怠慢してやがったんだぁ!これは制裁だ!調教だぁ!」

「んじゃ電話ちょーだい。」

「ほぇ・・・」

呆けたままハルは返却された携帯を受け取っていた。

ゴーイングマイウェイなその光景に、震えることも忘れて固まっていた。ツナがそんなハルの肩を叩く。

あの世に魂を持っていかれているような、抜け殻のハルを呼び戻そうと必死になって肩を揺さぶる。

「スクアーロ。俺もっと酒飲みてーんだけど。」

「テメェのせいで客が逃げたから飲めねぇなぁ!残念だったなぁ!」

「えー、何でいなくなってんだよ。またへましたんじゃねーだろーな。」

「お前は記憶を抹消する達人だなぁ!」

スクアーロ、がベルに大声で怒鳴りつけている間、ザンザスが近寄ってきて二人の首根っこをつかんだ。

え、と二人が声を漏らしたが、ザンザスは構わず二人をずるずると引きずって店の奥へと引っ込めた。その後、悲鳴が聞こえたのは気のせいだったのか、幻聴だったのか。

ハルがやっと元に戻り、ツナがほっと胸を撫で下ろした。

ぎゃあぎゃあと店内は騒がしくなり、またもや騒動を起こしたのかと他の客から非難の視線が集中していた。ホストはいつもの事だとばかりに涼しげな顔をしている。

いたたまれなくなり、ハルはもう帰りますと鞄を持って席を立った。

逃げるように走り出したハルにツナが、あ。と声を漏らしたがもう遅い。

店の中と同じくらいの闇の喧騒に一人で立ったハルは、はぁ、と溜息を吐いた。リフレッシュしに来たのに、余計に疲れてしまった気がする。

とぼとぼと歩き出し、人気の少ない公園にたどり着いた。都会の真ん中にある公園故に、ホテルの光やマンションの光が届いている。

冷たいベンチに腰かけて、頭を冷やそうと眼を閉じるとどこからか声が聞こえた。

「あぁっ・・・」

「ほぇ・・・」

あ、え、ぎ・・・声・・・?

かあああ、と頬を赤らめてその場から一気に走り出した。狂ってます!と心の中で叫んだ。

こんな子供が遊ぶような場所でそんな事をするなんて、頭が絶対におかしいです!と。

周りには人が隠れるような場所が無いブランコに腰かけ、また落ちつきを取り戻そうと深呼吸した。

「あ・・・お金・・・」

払い忘れてしまった。多分、ツナはいいよというだろうけど。また行った時に返さなくちゃ。

それはいいけど、その間、今日きっと咎められるのだろう。それか自分のお金から立て替えるんだろう。

お金が無いんだと言っていたツナ。きっと、今日の代金も払うのも辛いはず。

けど今から返しに行くような勇気も無く、ハルは罪悪感に苛まれてうなだれた。

鎖は冷たかった。ぎぃ、と寂しく漕ぎ出したその音は大きく響いた。吐き出す息は白くて、此処にずっといると風邪を引いてしまうだろう。

早く帰らなくちゃ。

明日も仕事がある。

ブランコから下りて、帰ろうと歩き出した。

「へぇ、かわいいじゃん。」

「だろー?」

「マジナイスタイミングだったな俺達。」

「へ・・・・」

ニヤニヤと、暗闇の中ではよく顔が見えないが笑っているのが分かる。声から、雰囲気からして男。しかもよろしくない雰囲気をしている。

一人の男がなにやら褒められている。電話でよく呼び出してくれた。とかなにやら言っている。

ハルはわけがわからず、三人の男に囲まれて戸惑っている。

早く、帰らなくちゃ。

「あの、退いて、ください・・・」

「声もかっわいー!」

「いい声だしてくれそうだな。」

「えっと・・・」

「んじゃ、いつのも場所でー」

「おっけ。」

男二人がハルの両腕を掴んでずるずると茂みに引きずられる。声を出そうとしたが一人の男が口をふさいでそれは叶わなかった。

んー!んー!と声を出してもこの広い公園じゃ誰も聞いてくれないだろう。さっきのカップルも自分の事でいっぱいだろうし。

思わず鞄を落としてしまい、ハルはタダでさえ人気の無い公園の中で更に気付かれないような場所に押し倒された。

「うっひょー!いい匂い」

「さっさと服脱がせろ。」

「はいよ」

慣れた連係プレイでハルを押さえ込んで服を脱がそうと手を伸ばしてきた。

瞳を潤ませて、助けを求めるのはもちろん沢田綱吉。

こんなわけのわからない男達なんて、知らない。

「んー!」

「ちょっと大人しくしてろよー?そうすりゃ気持ちよくしてやるからさぁ・・・」

厭らしく笑う男に頬を撫でられる。ぞわっと鳥肌がたった。

首を左右に揺らし、四肢を振りまわそうと力を入れるが簡単にねじ伏せられてしまう。

服の中に手が入り、肌に掠めた瞬間に眼をぎゅっと閉じた。

「がっ・・・」

男の声が響き、ハルの真横に倒れこんだ。二人の仲間が驚き、見上げている。鈍重な音が響き渡り、拘束していた力が抜けていくとハルはゆっくりと眼を開けた。

銀色のトンファーを片手に立っている、ホストの雲雀恭弥がそこにいた。

「え・・・」

「大丈夫?」

「・・・・・」

「立てる?」

「・・・・はい・・・」

雲雀に手を貸してもらい立ったはいいが、膝ががくがくと震えて直ぐに座り込んで。

「君、夜遅くにこんな場所に来るなんて・・・頭おかしいの?」

「・・・・だって・・・」

「はぁ・・・」

「・・・あの、貴方はなんで此処に・・・?」

「君が帰ったから。」

しゃがみこんで視線を合わせてそう言った。

「・・・ほぇ・・・?」

「お金払わずにね。」

後から付け足された言葉で、あ、と声を漏らす。雲雀が落としていた鞄を拾い上げ、ハルに渡した。

鞄から財布を取り出し、お金を雲雀に渡す。

「これ、ツナさんに・・・すみませんって、言っておいてください・・・」

「うん。いらない。」

何の抑揚の変化も無しに、自分の目的を忘れたかのように却下された。お札を持ったハルの手を押し戻して、それより。とさっきより怒気の孕んだ声でハルを糾弾する。

「本当危なっかしいね。見た目からも危なっかしそうだったけど。普通に危なっかしいとは思ってたけど、こんなに危なっかしいとは思ってなかった。幼稚園レベル以下だよ君って。」

「え・・・・」

「無防備だから襲われるんだよ。しかも自分から人気の無いような場所に来て・・・はぁ・・・」

「えっと、すみません・・・ありがとうございます・・・」

「うん。」

頭を撫でられて、仕方が無いとばかりに許してあげると言う。上から目線。

座り込んだハルをじっと見る。

「送ってあげる。」

「あ、え、す、すみませ・・・はひ!?」

さっきから戸惑っているハルに、膝の裏に手を入れられて抱きかかえられた。

ホストって・・・ホストって・・・!

眼をぐるぐると回しているハルは、お姫様だっこというのは神聖なものだとずっと思っていた。恋人にされるような、夫にされるようなものだと。

さっきの男達の行為はそれ以上のものだと思うけど、あっけらかんとするこの男も、それなりに、酷い。いろんな意味で。と思う。

「ちょっと、やめてください!」

「普通は此処では喜ぶか頬を赤らめるかなんだけど。」

「頬は赤いです!」

「それ怒ってるからでしょ。」

「混乱してます!」

「ああ、ならいいか。」

満足したように口にだして、真顔で歩き出している。公園で、暗闇の中で。僅かな街灯の明かりはあるもののそれでも暗い。夜だから。

ふと、公園の出口に黒い車が止まっているのが見えた。

「あれは・・・?」

「僕の車。」

「はひ・・・・」

運転手らしき人物の影が見えたが、どうやら違うらしい。

「公園に転がっている男三つ。片付けておいて。」

「はい、分かりました。」

頭を下げて公園の中に入っていくいかつい顔の男を見送るように見つめ続けているハルは、そのまま助手席に雲雀に下ろされてドアを閉められた。

運転席に座ってエンジンをかけた雲雀が車を走らせる。

「あの・・・」

「うん。」

「ハルの家は、こっちではないんです・・・」

「ふぅん。」

「ここを右に・・・って、何で真っ直ぐに進むんですか!?」

そのまま信号赤になりかけのままぎりぎりに真っ直ぐに直進する運転にも言及することはあったがとりあえず人の話を聞かない点に触れてみた。

「だから、送るって。」

「ですから、ハルのお家は・・・」

「だから、どうして君の家になるの。」

「・・・・はい?」

ぶぉぉん。と、車の音が車内に響いた。沈黙を破ったのは雲雀だった。

「危なっかしいから。君。」

何度聞いたか分からない単語。

「僕が調教・・・教育してあげようと思ってね。」

「結構です。ハル授業料払いませんし。」

「特別に無料でしてあげる。」

「いやですー!誰か助けてくださーい!」

窓を開けて風を感じながらそう叫ぶ。都会の真ん中で叫んだら、きっと誰かが助けてくれるに違いない。それなのに。信号が赤で止まって叫び続けているのに、ちらりとこっちを見て驚愕の表情をしたが、助ける素振りは無くそのまますたすたと歩いていってしまう人や、何も聞いていないかのような顔をして歩いている人ばかり。

こんなに必死に叫んでいるのに、雲雀は冷静なままで運転に集中しているし、行きかう人は、いくら冷たい都会でも、こんなに若い女が叫んでいるんだから、せめて誰か声をかけたりどうしましたー!?と聞いてきたりするものなのに。

「ムダだよ。」

発進した車に揺られて、ハルはおそるおそる窓から顔を戻した。

寒いのか、それとも煩いからなのか、雲雀は窓を閉めて言った。

「君は助からない。」

ニヤリ、とわらってそういいのけるこのホスト。

「な・・・!」

「ついたよ。」

言い返そうと口を開いたが、外の景色を見て更に口を開く事になる。瞠目し、驚愕の瞳は戻る事が無い。

「な・・・・」

「ぼくのうち。」

「・・・・・」

「さぁ、いこうか。」

腕を引かれて、簡単に連れ去られていくハルの先には大きな家が、広い庭に大きな家。和風の家は、どこからどうみても、大きかった。

何で、この家に住んでいるような人がホストなんてしているんだろう。

「ホストをしているとね。男が出てくるんだ。」

心の中を読んだかのようないきなりふられた話題。

「客が女ばっかりでしょ?で、その彼氏がくるんだ。女がホストにはまって金をとられただとか、ホストのせいで別れる事になっただとか。自分の汚点を棚に上げてね。喧嘩売ってくるんだ。それが僕の唯一の楽しみ。」

微笑を貼り付けてこちらに振り向いた。

「だから、面倒臭い女とも相手をする。」

「・・・な・・・」

「飲みたくない酒だって飲むし。そして何よりムカツク奴と一緒の店で働く。」

「な、なな・・・」

「それだけ。でもまぁ君みたいな面白い人間に逢えたし。いいかな。」

ハルがずっと、な、を繰り返している。

長い廊下を歩いて、一つの部屋にたどり着いた。広々とした畳の空間は懐かしいと思う。

「さぁ、ハル。」

ここは店じゃないから、お客じゃないから。

「教えてあげるよ。男の怖さ。」

「な、な・・・なな、」

ネクタイを緩めながらハルを用意されていた布団の上に押し倒した。

「な。」

「さっきから、何が言いたいの?」

首をかしげながらハルの服を脱がしていく雲雀に、反射的に手が出ていた。

「舐めないでください!!」

頬を叩いた理由は、決してハルに手を出そうとしていたからではない。ただ喧嘩がしたいから。そんな理由でツナのいる店でbPになっている。簡単に、いとも簡単にお金を手に入れている。

それは、実力があるからだろうけど、それでも必死になって、生きるためにお金を稼いでいるツナにとって、それは失礼なことだ。

叩かれた頬は赤くなっているが、ハルは構わず睨み上げた。

「最低です!アウトローです!なんてデンジャラスな人ですか・・・」

「君の方がデンジャラスだと思うけど。」

「よくもまぁ!」

「まぁ、それくらい強気の方がそそられるけど。」

「っ、いやです!――ツナさん!ツナ、さん!」

「・・・・・・・」

首筋に顔を埋めていた雲雀が、不機嫌な表情で顔を上げた。ビクッ、と震えたハルだったが、涙を堪えて睨み返す。

あの男達よりも怖くない。知っている人間だからとか、相手が一人だからとかそんな理由では無く、ただ単にこの男には負けないと思っているから。

「何で沢田綱吉がいいの?」

「・・・貴方より、まっとうな人間だからです・・・」

「同じホストの仕事をしているのに?」

「貴方は人間性に問題があります!」

「ワォ、君凄いね。」

眼の前に人差し指を突き出してそう叫ぶと、感心されてしまった。

人差し指を払いのけるようにしてハルの顔にどんどん顔を近づけてくる。

「はひ!」

今度はグーで頬を殴り飛ばそうかと思ったが、キスをしようとしているわけではなかった。

「面白いね。」

「馬鹿にしないでください!」

「してないよ。僕なりの賛辞だ。」

「まったくうれしくありません・・・!もう、どいてください!」

そう言うとあっさり上から退いてくれた。勢いよく起き上がり、そのまま走り出し、出て行こうとしたが、そういえば鞄がないことに気がついた。

手を閉じて開きながらその事実に気がつき、振り返って雲雀を睨む。

「ハルの鞄は何処ですか・・・!?」

「この家のどこかにあるよ。」

「っ・・・・!」

あの中には、クレジットカードやスケジュール帳。会社の情報が入ったものも入っている。

あっけらかんと言い放つ雲雀に、拳を強く握った。

「返してください!」

「僕に時間を頂戴。」

「・・・はぁ!?」

話がかみ合っていない。

「君の時間を僕に頂戴。」

「何を言ってるんですか!」

「明日また店に来てよ。僕が相手するから。」

「結構です!」

「無料にしてあげる。」

「それでもいやです!」

「そう・・・それは残念だ・・・」

はぁ、とわざとらしい溜息を吐いた雲雀は、困ったように視線を逸らした。

「鞄を廃棄するか、それともどこかの会社に売り飛ばすか・・・」

「明日お店にうかがいます!絶対!きっと!!」

「そう、それはよかった。」

にっこりと笑う雲雀の笑顔は、ハルには悪魔にしか見えなかった。

「どんな客より君を優先するから。」

「そんなの嬉しくないです・・・」

「鞄・・・」

「嬉しいです!とっても、とぉってもハッピーです!」

「一ヵ月後かな。」

また車で送ると行った雲雀に、さっき乗った車に乗るために歩いている。鞄はまだ返してもらっていないまま。

ニヤリ、と笑って。

「それくらいあれば、君は僕に惚れる。」

「いえ、それは無いです。」

即答で否定したが、雲雀は何も言わなかった。ただ余裕の笑みばかり浮かべてハルを見ていた。

はぁ、と車内の中で小さく溜息を吐いた。

明日、お金を払わなければいけない。

そして、ツナさんになんていえば・・・・と、流れる都会の景色を見ながら憂鬱に瞳を揺らした。

 

 

 

初のホストパロは、恐ろしいものでした・・・(疲労

未知の領域すぎた。とあるサイト様の所で拝見しても、ホストパロというものはまったくもって難しかったです。

書き終わったあとで、こんなんでいいのか、書き直したほうがいいのかと思っていますけど・・・もう、これ以上は無理かなって。時間的にも自分的にも・・・orz(←

けどなんていうかホストっていいかもね。(唐突

だって皆攻めてくるから・・・って、あ、それでホストパロっていいのかな(←

 

とりあえず、暗中模索の中での小説ですので、矛盾、アホじゃね?こんなんじゃねーよターコなどというお気持ちはどうか、どうかお納めくださいませぇ!(土下座

私の力量ではこんな粗悪なものしかできませんでした・・・!

 

リクエスト、そして貴重な体験をありがとうございましたーw