三浦ハルのお隣さんは、とっても個性的な兄弟がおりました。

この街では誰もが知っている有名兄弟でした。そんな兄弟の親は、三浦ハルの親達ととても仲がよく、小さい頃から一緒に旅行に行ったり泊まったりしていました。

それゆえに、三浦ハルはその兄弟達と一緒に居たが故に、近くに居たが故に遠くから見ている第三者達がどれほどの被害を受けているか知らなかった。

兄弟達が三浦ハルに目隠し施しているような状態だ。直接的な場面は見せない、聞かせない、言わせない。

可愛い純粋な三浦ハルを、それはそれは可愛がっておりました。

 

 

 

「旅行?」

「うん。」

「それは、ルーさんが?」

学校から帰ってきて、雲雀家に立ち寄った際に、四男の雲雀に聞かされた一言は、どちらに当てはまるのかと首をかしげていた。

雲雀家の長男の、ハル的に言えばルーさん。が旅行癖があるのでまたその事なのかと思って聞いた。

「ううん。家の両親とハルの両親。」

ハルと同じ学校に通っていて、同じ学年なのにどうして恭弥はいつも先に帰っているんだろうという疑問はもう無い。家でソファーに座ってくつろいでいる雲雀に告げられて、え、と声を漏らした。

「記念日とかじゃないですよね?」

「何か福引で当たったらしいよ。1泊2日の温泉旅行。四人。」

「はひ・・・」

「今日から行ってくるって。」

「・・・え、当たったのって今日じゃないんですか!?」

「一昨日当たったって聞いたけど・・・」

ぼとり、と鞄を落としたハルはどうして自分に言ってくれなかったんだろうとショックを受けた。

確かに、一昨日くらいから両親の様子がおかしかった気がする。テンションが高いというか、そういえば服を探していた様子だったり、お土産、などの単語が出ていたり。

「・・・・・そういえば・・・・」

昨日の夜、自室に上がる前に母親に呼び止められ、明日の朝ごはんは何がいい?と聞かれて、パンと答えた。

睡魔に襲われていたハルは半分寝惚けていた状態に陥っていて、その後に、明日りょこ、・・・・などと言っていた気がする。最後の一文字はそこから記憶が途切れていたに違いない。定かではない記憶なので、う。と当てはめる事は無闇にすることではないと思う。

いつも恭弥からハルは想像で物事を判断する癖があるといわれ続けているからだ。

「そういう、傾向があったような・・・」

「ふぅん。あと、その間こっちに来るって分かってる?」

「へ?」

「一人じゃ危ないでしょ?それに不便だし。」

「そうですか・・・ならお着替え取りに行かなくちゃ・・・」

「僕も行くよ。」

鞄を置いて隣のハルの家に行き、鍵を開けて中に入ると本当に誰も居ない。普段なら母がおかえりと言ってくれるのに。

朝普通に送り出してくれたときに、旅行に行くとまた言ってくれればよかったのに。

一度言ったのなら、二度言う必要は無い。そんな両親の性格を呪った。鞄に二日分の着替えを詰め込んでいる間、雲雀はずっとハルの背中を見つめていた。

「・・・何ですか・・・?」

「・・・なんていえばいいんだろう・・・」

珍しく、思い悩んでいるような表情で、言葉を詮索している雲雀の顔を、一体何事だと待っていると。

「・・・そんなに胸大きかったっけ?」

「・・・・・・はひ・・・?」

「成長だね。」

いきなりのセクハラ発言に、恥ずかしがるでも無く怒るでも無く、単純な感想が飛び出た。いきなり、一体どうして何が。

あ。

鞄に服を入れているときに、普通に下着を詰め込んでいた。それを見ていたのだろう。

「・・・・・・・・」

「あ、もう終わった?」

「・・・・・・・・」

「行こうか。」

「・・・はい・・・」

恭弥君も男の子なんだと知ったハルでした。

 

 

 

「おかえりなさい。」

タオルで額を拭いている姿は、ついさっき帰ってきたと言う事になる。

服装は道場にいる姿のままで、此処まで歩いて、もしくは走って帰ってきたのだろうか。それにしても汗くらい拭いて帰ってくればいいのにと雲雀は思う。

「もう準備できてたんですね。」

「いえ、さっき聞いたんです。お泊りのこと・・・だから適当につめました。」

「まぁ、家は隣ですし、何か無かったら直ぐにとりにいける距離ですしね。・・・どうしました、恭弥。」

「別にこんなに早く帰ってこなくてもいいのに。」

眉を顰めてそう言う雲雀の言葉は、気を使って言っている言葉ではない。更に言えば帰ってこなくてもいいと含蓄されている。

「大丈夫、今日は早く終わる日ですから。」

笑顔で皮肉を吸収し、それでも尚返してくる。分かってないのか分かっているのか、家族の中で一番真意が分からない相手だと恭弥は話を終わらせた。

「お兄ちゃんとルーさんは?」

「アラウディは多分夜遅くに帰ってくると思いますが、ルーはきっと帰ってこないのではないでしょうか。」

アラウディは警察官だ。学校を卒業して、社会人になる事に何にも興味も関心も無く、街を統治してみようかと危ない考えをめぐらせていた時に、ハルがきらきらとした瞳で「お兄ちゃんは、警察官にピッタリフィットしますね!」と、なんの脈絡も無くいった言葉で本当に警察官になった。

少し前の話だけど、今ではトップに上り詰めている。

裏で手を回し、簡単に出世してはいるが、アレでも仕事はきちんとこなす人だ。いつも夜遅くに帰ってくる。

だが、時々一週間ほどずっと休んでいる日もある。逆に一週間帰ってこずに仕事をぶっ続けでするような読めない人だ。

そして長男のルー、は、このルーというのはハルが風呂上り素っ裸で家の中を歩いていた時にアダルトです!と叫んだ事によってついたあだ名だ。なぜルーなのかは分からない。ついでに言うとその名前はルーは気に入っていない。

それゆえに皆嫌がらせでルーと呼んでいるんだろう。それは雲雀もそうだからだ。

そんな上の二人の連絡も予定も無く、行き当たりばったりのスケジュールなので家に居る兄弟はまったく分からない。もしかしたら今日か今、旅行中のルーが帰ってくるかもしれないし、仕事が面倒臭いと思ったアラウディが帰ってくるかもしれない。

24時間ウェルカム状態ではないので、毎日同じ時間帯に帰ってきて欲しいという母親の切なる願いも耳をふさいで聞かない振りをしている二人だが、ハル大好きという共通点はあるのでもしかしたら帰ってくるかもしれない。

「だから帰ってきて欲しくなかったのに。」

「恭弥。結論を言われても分かりませんよ。」

「一人でも面倒臭いのがいなければいい。って言う事。」

「それは酷いですよ。あの二人だって頑張って働いているんですから、尊敬しなければ。」

「自分も含まれているって分かってないの?」

直接的な皮肉すら受け付けないその横暴さに感服。

「風さん、お風呂入ってはどうですか?汗でびしょびしょじゃ、風邪引いちゃいますよ?」

「そうですね。入ってきましょうか・・・一緒に入ります?」

「馬鹿な事言ってないでさっさといけば。」

冗談も本気の事もすべて同じ表情、抑揚で話すのでよくわからない。一蹴して急かせば、簡単に引き下がって浴室に歩いていく。僅かに肩をすくめるという動作が苛立ちを誘う。

くすくすと笑うハルに振り返って。

「何が面白いの・・・?」

「いえ、やっぱり恭弥君と風さんは仲がいいなぁって思いまして。」

「・・・ハル、ちょっと眼科まで行っておいで。」

「冗談なんかじゃありませんよー・・・っていうか兄弟なのにそれは無いんじゃないですか?」

苦笑しつつもいつもの事なのでまったく気にしていないハル。多分本気じゃないと思っているんだろう。なんて誤解。

それでも長年その誤解を解こうとしても、この天然三浦ハルはまったく気がつかない。諦めるしか道は無いので、今日もまた不毛な戦いを不戦敗する。

「ハルの泊まる部屋は二階の空き部屋だよ。」

「えー?皆で一緒に寝ないんですか?昔みたいに・・・」

「・・・・・・・」

「ほぇ・・・何でそんな呆れた眼をしているんですか・・・!?」

「いいや、何でこんなに馬鹿なんだろうって思ってね・・・」

頬を抓って引っ張ってみる。柔らかくて直ぐに伸びて縮む。さっき僅かに緊張させるような発言をしたのに、どうしてこんなに馬鹿なんだろう。

僕が統治している学校に通っているのに。

ちゃんと教師達を教育して、最善の授業を受けさせているはずなのに。

不毛な考えに倦厭して、頬から手を放した。痛いですと頬を押さえるハルに、更に何かを言おうと声を出そうとしたら風が上がってきた。

「いい湯加減でした。」

「シャワーだけでしょ。」

「それでもいい湯加減でした。」

にっこりと肩にタオルをかけている風はもちろん服を着ている。長男の二の舞はごめんだと言わんばかりの笑顔に見えてしまう。錯覚だろうか。

痛そうに頬を押さえているハルにしゃがみこんで、労わるように頬を触る。

「大丈夫ですか?」

「はい・・・」

「まったく、女性にこんな野蛮な事をするなんて・・・どこで教育を間違えてしまったんでしょう。」

「黙ってくれる?」

何処かの南国果実のような柔和な物腰、そして会話の節々に嫌味ったらしい言葉を挟む技術。この世で一番嫌いな人間と似ている兄なんて、仲良くなれるわけが無い。

もしかしたら、あの六道骸を嫌う理由の一つは幼少期からのこの嫌味ったらしい兄のせいかもしれないと雲雀は思う。

優しくされて僅かに嬉しそうなハルの顔もいつも見ているから、余計に拍車をかけて嫌いになってしまったんだろう。

「さて、そろそろ夕ご飯の用意をしましょうか。」

「あ、ハルが作りますよ!」

「そうですか?それはとても助かります。」

「和食にしてね。もう中華は嫌。」

そう言うと笑顔ですごまれた。

「はい!それじゃあ和風ハンバーグにしましょうか?・・・あ、でもひき肉あるでしょうか・・・」

「それじゃあ買ってきましょうか?」

「いえ、いいですよ。ハルが行ってきます。お世話になるんですから!」

「じゃあ僕のバイクに乗っていきなよ。」

「え、いいんですか?」

「うん。暇だし。」

バイクの鍵を持って玄関に行き、ドアを開けるとそこにはルーが居た。

「・・・・・・・」

「ただいま。弟。」

「・・・・・・・」

「はひ、ルーさん!・・・それは?」

「お土産。そしてひき肉。」

「ルーは超能力があったんですか?」

「そんなわけないでしょ。ハンバーグ作ってもらおうと思って買ってきただけ。あ、僕の分だけだけどね。」

「ハル、買いに行こうか。」

「冗談だよ。」

優しさをオブラートではなく、真っ黒なゴミ袋にわざわざ入れて投げてくる。

最後はわざわざゴミ袋から優しさをまた取り出して受け渡す。何て手間のかかる面倒臭い兄なんだろう。

スーパーの袋を持っているアンバランス差は、多分新品同様の綺麗なスーツのせいだろう。まぁ、人間性も問題視される所なんだけど。

「はひー!なら今から作りますね!・・・お兄ちゃんは帰ってきますでしょうか・・・?」

「それはどうでしょう・・・一応、作っておいてあげてください。」

「はい!」

「ねぇ、もうお風呂入ってるの?」

靴を脱ぎながら風にそう問いかけるルーはハルに袋を渡す。

「シャワーを浴びただけなので入ってはいませんよ。」

残念ながら。とタオルを肩にたたきつけるようにかけてそう言う。

騒がしくなってきたなと不機嫌になりつつも、張り切っているハルの後ろ姿に釣られるようにむさくるしい男達から逃れる。

「それにしても弟。兄におかえりの挨拶はないの?」

「おかえりなさい。アダルトのルーさん。」

「ナマイキな口を聞けるのも今だけだからね。」

ハルがいるから。という意味だろう。まったく、末っ子は上の兄弟から弄られる役割だから大損だ。

「ハル何か手伝う事は無い?」

「じゃあお風呂入れてきて。」

「自分ですれば?」

ソファーに座ってネクタイを緩めているルーにそうはき捨ててキッチンに入った。いそいそと準備しているハルに近寄ると、振り返って笑顔で言われた。

「じゃあ、お風呂いれてきてください。」

「・・・・・・・」

「だってさ。」

あの勝利の笑みが一番ムカツク。

 

 

 

いい匂いが漂ってきたのは、外が真っ暗になってからだった。

ほかほかに温まったのが一目で見て分かるように頬が赤く、頭から湯気が出ている。自分自身で入れたお風呂は格別だっただろう。とハルはにっこりと笑う。

先に入ったルーと同じ風呂上りの様子を見て微笑ましく笑っている風に、ジロリ、と二人がにらみをきかせる。

肉の焼けた匂いと、大根おろしをすっている音が聞こえた後、ハルの出来たという声が聞こえてきた。

「おいしそうですね。」

「ありがとうございます。」

嬉しそうな笑顔を咲かせているハルに直球な褒め言葉を言う風。

「いただきます。」

「いただきます。」

一緒に同じタイミングで言うのはいつもの事だといった風になんともない顔色の二人。

ぱくり、と口にハンバーグを運ぶタイミングも一緒で、まるで双子のようだ。

「・・・何見てるの?」

まぁ、考えている事は分かるけど、と思いながら。

「いえ、恭弥君とルーさんそっくりだなぁって。」

「和みますよね。」

「とっても和みます!」

「・・・・・」

「うん。おいしい。」

気にしているのは雲雀だけだ。言われているルーはまったくの無反応でぱくぱくと食べている。久しぶりの家に、好きなハンバーグ。

会話なんてものに興味を向けるより眼の前の食べ物に箸を動かす。

「それにしても、今日はお兄ちゃんやっぱり帰ってこないんですかね?」

窓の向こうは真っ暗で、時計も示している時刻も微妙なものになってきた。

「まぁ、いつもの事ですから。今日はまた仕事三昧の日って事でしょう。」

「・・・大丈夫でしょうか・・・風邪引いてなければいいですけど・・・」

心配げに窓の外を見つめるハルに、もしかして神様が同情したのかどうかは知らないが、玄関から音が聞こえた。

げ。と兄弟三人が思う中、一人だけが嬉しそうな笑顔を見せている。

「ただいま。」

「おかえりなさい!」

どたどたと玄関まで走って迎え入れる様を見たアラウディが小さく笑って頭を撫でた。

「うん。いい子にしてた?」

「はい!」

「そう、ならお土産。」

「わ、ケーキですか!?」

白い箱を持って更に嬉しそうな笑顔を見せるハルに抱きしめようと腕を伸ばしているのを見た風が笑顔のまま箸を投げつけた。

本人曰く、無意識に。

指で挟んで受け止めたアラウディ。

「ああ、つい滑ってしまいました。すみません。」

「わざわざ茶碗と箸を持ってきてまで出迎えてくれるのは初めてじゃないか?」

「そうでしたっけ?」

「食後はデザートです!」

ルーと雲雀は黙々とハンバーグを食べて、二人同時に食べ終えて、ごちそうさまの声も重なった。

嬉しそうに帰ってきたハルが持っている白いケーキに、物で釣るのが常套手段のアラウディのしそうな事だと同じ事を二人で思ったのだった。

「ハンバーグ温めなおしてきまーす!」

「風呂入ってるか?」

「ええ。」

「それじゃあ入ってくる。」

雲雀家全員が最初はお風呂という週間だというのを、今ハルは思い出した。

ケーキをとりあえず冷蔵庫に入れて、お風呂から上がるまでに丁度に出そうと考えてみんなが食べた食器を片付けようと振り返ると、恭弥と風が何か話している。

「今回の旅はでは何処に言ってたんですか?」

「さぁ。」

「買い物袋を見るに並盛商店街でしたが、もしかして裏山にでもこもっていたんですか?」

「どうだろうね。」

「きっと違いますね。もし裏山に滞在していたなら必ず顔をあわせるはずですから。もしかしたらルーがいるかもしれないと裏山を隅から隅まで探索しましたから。」

「ふぅん。」

「で、何処に行ったんですか?」

「外国。」

「もっと絞ってくれませんか?」

「ヨーロッパ。」

「もうひと越えしてほしいんですけどね・・・」

不毛なやり取りに聞く耳もたないのか、雲雀が文庫本を開いて本を読んでいる。風が一方的に話しかけているようにしか見えないが、とにかく兄弟の会話のキャッチボールが成立しているとハルはほっと一安心。

長旅の後、疲れているルーに長時間の空白。それが重なってぎくしゃくとした雰囲気にならないかと危惧していたハルだったが、そんな感じもまったく見られない。

「お腹すいた・・・」

「はーい」

アラウディが上がってきた。

 

 

珍しくも何も無く、僕はお土産なるものを買ってこなかった。自分を一番に優先するのは人間の本能、生きとし生けるものの本能だ。死ぬか生きるかの瀬戸際で、他の生き物を助けようなどという考えをおこすのは愚かな人間だけ。

そういうところは、草食動物を見習えばいいのにと思う。彼らは人間みたいないらない感情は無いから。

煩わしいと思うけど、それはとても必要なものだ。

何かを考え、自分に一番正しい生き方を考えられるのは長所だ。他の人間よりも上に立つための思考錯誤も長所。

短所は、そうだな。馴れ合いを必要以上にすること。

家族なんかでも、野生の動物は家族が食べられてもなんとも思わないだろう。ただ、傍に居た温度が失われる事に違和感を覚える。感情の無い生き物は直ぐに果敢に母や父の事、兄弟の事も忘れて肉を貪り食うんだろう。

話が脱線したけれど、そういう感情はいいことも悪い事もあるって言う事。コントロールできない感情は、稚拙さを物語らせる。

「危なかった、ね。」

「・・・はへ・・・」

つい、反射的に、感情を基礎とする三浦ハルへの想いから、思わず手を伸ばして引き寄せた。

割れた白い皿を呆けて見つめていたハルだったが、ハッと顔を真っ青にした。

「ご、ごごごごめんなさい・・・!」

「いいよ、それより怪我は無い?」

「あ、はい・・・・・・・・っ!」

それにしても、何でハルは僕をこんなに嫌う、じゃないけど、意識?してるんだろう。響きはいいけど、なんていうか僕はもっとスキンシップを求めたい。

「は、・・・はははは、はれ・・・・」

「・・・・・」

「・・・あ、りがとう、ございました・・・・でも、は、はれ、はれんち・・・」

「服着てるのに?」

「・・・・・・」

「食器、しまってあげるよ。高いところ無理してしまわなくていいから。」

「・・・はい・・・」

少し頬を赤らめている姿に、悪い気はしないけど。それでも一番下の弟にはこんな事されても何にも反応しないんだろう。抱きつこうが一緒にお風呂に入ろうが。同い年って言う事もあるけど、それでも少し、それが羨ましかったりする。

弟からしたら、僕の方が羨ましいと感じているのかもしれないけど。

「椅子を使えばよかったのに。」

「はひ、頭いいですね恭弥君!」

「君は猿以下なの?」

割れた食器を片付けている風は、直ぐにゴミ袋に入れようとしていたのを止めたハルが新聞紙にくるんで捨てるんですと言っていた。

別に破けようが破けまいがどうでもいいんだけど。と思いつつも何にも反論する必要が無いので放置。僕は眼の前の数枚の皿を戻す事だけに専念すればいい。

「そういえばアラウディは?」

「さっき電話が掛かってきてたから、まだ話てるんじゃないの?」

「彼女さんですかね?」

三人でソレは無いと否定する。なんていうか、ライバルを応援しているみたいでなんか嫌なんだけど。

 

 

 

俺はいつもハルの世話をしていた。

だから必然的にお兄ちゃんと呼ばれている。以上。

簡単な過去の振り返りは、そんな感じだった。ふざけていると思う過去は直ぐに抹消したい。

何故だろう。何故俺だけなんだろうか。風やルーだって普通に世話してたのに、どうして俺だけなんだろう。

久しぶりに子供の時に戻ったかのように、泊まりにきたハルに影響されてそう考える。昔からの俺の疑問。今となっても、それは解消される事が無い。

最近元気?みたいな感じで、何で俺だけお兄ちゃんって呼ぶの?と聞いてみよう。

部下からの電話を切って、はぁと溜息。あんな些細な仕事でさえこんなに詰っているなんて、何て益体なし。

階段を下りてキッチンを見ると、全員集合していた。雲雀家でプライドの高い末っ子恭弥が床にしゃがみこんでいる姿はそうそう見られるもんじゃない。

そして更に言えば長男のアダルト担当のルーが食器を片付けている姿も珍しい。家にいるのも珍しいけど。

アダルト担当なんて、間違えて言ってしまったら間違いなく殴られそう。タイミングも悪いし。

「ハル。どうして俺はお兄ちゃん呼びなの?」

「はひ?」

「どうでもいい事聞く暇があるんだったらこれ捨ててきてくれる?」

「真夜中にゴミを出したら怒られるだろ。この街の秩序に。」

「ゴミ捨て場じゃなくて物置にだよ。一時的にゴミはそこに置いてあるでしょ?」

「お前がそんな事知ってるなんて・・・驚いた。」

「いいから言ってきてよ脳みそポップコーン。」

「どうして俺だけなんだ?」

とりあえず弟とのコミュニケーションはこれくらいでいいだろうと思い、勝手に区切りをつけると僅かに不機嫌になった顔。

ごめん。なんて罪悪感はこれっぽっちもなく、眼の前にぶら下がった疑問の答えを俺は手を伸ばすだけだ。

「えー・・・と。」

「お兄ちゃんっていつから呼ぶようになったんだ?」

「んー・・・・」

「それは、あの時からじゃなかったでしょうか。」

片付けが終わった風が立ち上がって、にこやかにそう言った。あの時。という言葉は過去をアバウトに表現する。

「確かハルがまだ幼稚園くらいの時に、私とテレビを見ていた時ですね。」

「何見てたの。」

「近親相姦のアニメですね。」

「・・・・・・」

「冗談ですから、本気で引かないでくれませんか?」

「きんしんそうかん、ってなんですか?」

「まったく関係ない言葉だから忘れようね。ハル。」

ルーが頭を撫でてそう暗示をかけるように囁いた。話が脱線しているこの状況に苛々しているのは俺だけか。

当事者、だからかな。

「で、一体何がどうなってこうなったんだ。」

「刑事ドラマを見ていて。」

「アニメですらないんだ。」

「そこはもう言及しないでください。」

「いいから早く言ってみて。」

「あ!」

ハルが人差し指を上に向けて立てている。何かを発見したかのような表情に、全員が天井を見上げた。何も無かった。

ルーがまだ頭に手を置いている状況で、ハルは晴れやかな顔色をしている。

「思い出しました!そうですドラマです!」

「お兄ちゃん刑事でも居たの?」

「そんな気味の悪い刑事はさすがに居ないんじゃないのでは?」

「主人公の刑事の妹の人が、お兄ちゃんって呼んでたんです!」

「・・・・・・それだけ?」

「はい!」

爆破シーンがあって、その主人公が巻き込まれて死ぬ、という場面があり、妹がお兄ちゃーん!と叫んでいるという場面を見たハルは、まだ幼稚園児だった彼女にはとてもショックなものだったらしい。

お兄ちゃんという言葉をインプットしたハルは、外に遊びに行った風とすれ違いで部屋に入ってきたので、一目みた瞬間にお兄ちゃん!と叫んだらしい。そのままお兄ちゃんをインプット。らしい。

「ハルらしいね。」

「ルーもまったくもってハルらしいですよね。」

「・・・・・・」

「睨まないでくれませんか。ルー。」

喧嘩勃発の寸前。だが、ルーの近くにはハルがいるし、ハルはぱちぱちと瞬きをしているし。

いろんなもので調和されて、とりあえず風もルーもお互いに顔を背け、風はソファーに座り一時休戦。

「一体どうしたんですか?」

「空気を読む術はまだ身につかないんだ。ハルは。」

「?」

俺が頭を撫でながらそういってみたが、ハルにはまだ難しかったみたいだった。

「とりあえず、風呂に入っておいで。」

「あ、そうですね。もうこんな時間ですし。」

時計を見てそう呟き、鞄から着替えを取り出して浴室に走っていった。嬉しそうな笑顔を見た後、これで雲雀家にいる全員が風呂に入ったことになる。それが時間の流れを物語っていて、今日がもう直ぐ終わる事に少し寂しさを覚えた。

一泊だけなんて、中途半端だ。

はぁ、と誰にも聞こえないように溜息を吐くと、ソファーの風も溜息を吐いていた。

そして机に座っていたルーと恭弥も溜息を吐いていた。同じ事を考えていたのかどうかは分からないままだ。

 

 

 

「なんて素適ないい天気なんでしょうか!」

「あっちは大雪になっていればいい。」

「台風になっていればいい。」

「強風注意報発令していればいい。」

「事故で渋滞していればいい。」

不吉な事を兄弟が順々に口にしていく様子は恐ろしい以外の表現はハルは見つけられませんでした。

一泊だけの短い時間。一泊も無かった時間だったけれど、昔を思い出すには十分な時間だった。小さい頃はいっつも泊まったり泊まりに来ていたりしていたのに、だんだんと機会が少なくなってきてしまっていた。

寂しさを埋めるには、長い夜だった。皆でトランプ合戦になり、全員が平等に負けたり勝ったりしていて、全員楽しめた。

すくない荷物を持って、制服を着用して歩き出す。荷物は家に置いてきた。

「皆で一緒に出るなんて、珍しいですね。」

「珍しいというより異様ですね。」

スーツを着ているルーにコートを羽織ったアラウディ。中国拳法道場専用の服を着た風。バイクにまたいでいる雲雀に、楽しそうな笑顔をしているハル。

「それじゃあ行こう。遅刻しちゃうよ?」

「あ、そうですね!それじゃあ皆さん、いってらっしゃい!」

「君もでしょ。」

「面倒臭い仕事が溜まってるから、俺はもう行く。」

「私も早く裏山に行って逃げた猫を探さなくては。」

「それはお疲れ様。」

バイクのエンジン音が響き、走り出した。全員がそれぞれ自分のペースで歩き出して目的地へと歩き出す。

ヘルメットを被ったハルがくすくすと笑っている。

バイクの煩い音でそれは雲雀には聞こえなかったらしい。

 

だが、旅行先で地震があり、飛行機も飛ばず高速道路は渋滞して帰るのが一日遅れる事になると知るのは、今日の夕方だったらしい。

 

 

アラウディに風さんに雲雀+10に雲雀さん。

何故現代の雲雀さんだけ雲雀の表記にして、10年後の雲雀さんだけルーにしたか。それは恭弥という言葉が私にはあわないからです(←

なんていうか、恐れ多いっていうかね。んふ。(ぇ

長男が+10の雲雀さん、次男がアラウディさん、三男が風さん、四男が雲雀さん。ふと考えると少しおかしんでねーの?って思うけど・・・もう遅い。(←

っていうかルーってしちゃってすみません。ルーって聞いてもしかしたら分かる人はわかるかも・・・有名三姉妹とか見てる人ならば。

最初はどうしようって思ったけど・・・・うへw趣味丸出しですみませんw(反省無

 

リクエストありがとうございましたーwww