それから、の続きを俺は探していた。

頭の中のどこかに隠れているはずの答えは、見つけることが出来なかった。

ああ、そっか。

続きは、

 

 

 

 

ネクタイを締めて新たな場所に歩き出す。

それは俺にとってとても大きな意味を示していた。いい意味でも悪い意味でも。

その中途半端な人生の転機は、俺だけではなく、道連れにしたようにぞろぞろと後ろから歩いてくる。同じくネクタイを締めて黒いスーツに身を包んで、新社会人みたいな顔ぶれではまったく無い。

将来の夢はサラリーマンと無難に答えていた中学に入る前。小学生くらいの将来の夢は、あれはもう人間ではない。

風を肩で切って颯爽と歩くなんて真似は出来ない。マフィアならもっと胸張って堂々と歩いていろ。そうでなきゃ射殺されるぞと威されたのでそれっぽいたたずまいで歩いてみる。景色が一変に変わった。

ああ、凄いや。

強面の男達がずらっと並んで頭を下げて道を作る。

後ろの獄寺君は当たり前という顔をしているし、雲雀さんなんて群れてる。と呟いて苛々し始めた。山本は簡単に笑ってるし、お兄さんにいたっては頭を下げた全員に極限によろしく!とか挨拶してるし。

個性一杯のファミリーで背筋を伸ばして一番前を歩く一番普通の俺。

これからの人生は、多分恐ろしいものになるだろう。

新しいスーツの匂いを孕んでいる身体は、時期に命の匂いがまとわりつくだろう。手もべっとりと、一生落ちる事の無い汚れがつきまとう。

憎らしくも清清しい天気は、のどかで平和の象徴のようだった。

太陽が照らす道は、平坦なものではないけれど。

 

 

 

人を殺した。

狂いそうになる事実は、本当に俺を狂わせた。手が痙攣から逃れられなくて、額から流れる汗も、それに混じって滴り落ちる血液も、眼の前に動かなくなった死体を見ると鳥肌がたつ。

幾度も血を見ることはあった。それは小さな頃からだったけれど、膝から申し訳程度、カッターナイフで指先を切ってしまったときとか。それでも、その時誰も命に関わる事は無かったから。俺は生きていたから。

誰かを守るためだと銘打って、自分の正義を貫こうという覚悟を元にして俺は動いていた。

だけど、これは正義か?

ぽろり、と胸ポケットから落ちた家族の写真。それが、男の血で濡れていた。幸せそうな笑顔溢れる写真は、直ぐに温度を失った。

初めて会った人だった。

この人が一体どうしてターゲットになったかなんて分からない。

ただ、俺は殺せといわれた。殺す事になれておけ、と、家庭教師に言われた。

そんな、水に慣れておかないと泳げないみたいな理由で、人生を強制終了させられたこの人はどうなるんだろう。水溜り。血溜りが、足元までとどいた。

足をどけたいのに、靴にしみこませたくない。これ以上、血に染め上げたくない。それでも足は動かないし、思考はゆっくりと緩慢に動いていく。

怖い。怖い。

この命が停止した死体と同じ部屋にいるだけで、世界でたった一人きりなんじゃないかって思えてしまう。

青々と生茂る木々のざわめきが聞こえた。開け放たれた窓から、新鮮な空気が循環する。蝉が煩く鳴いて、額からは汗が止まらない。暑いのに歯はがたがたと震えっぱなし。

ぽたり、と、だらん、と力なくぶらさがった腕から滴り落ちた。

自分のものではない。

誰かの、命の証。

これは絶対に覚えておかなくちゃいけない。これは、誰かの代償なんだから。

と、この部屋に来る前に思っていた。俺の覚悟の印だと。

そんなの、無理だ。

感情ではそうかもしれないけど、更に上回る恐怖がそれを赦さない。忘れたい。忘れたいこんな事。眼に焼きついて離れない赤色なんて直ぐに消え去ってしまえばいい。

それでも消えてくれない。

世界は、時として優しくて残酷なものだと知った。

 

 

 

 

感情を隠す術を覚えた。

いろんな場面で役に立つ。俺はそれを活用的に利用して、利用して、嘘吐きの仮面をつけている。仮面舞踏会でもないのに、わざとらしいほど笑顔だ。

はらはらと枯葉が落ちていく季節に、とんでもない事を知った。脳が情報処理するのにムダに時間がかかって、仮面の微笑が脆く崩れた瞬間だった。

そっか。

変に予感していたから、直ぐに笑顔は復活した。

俺と同じく血で手を汚したのに、昔と何も変わらない笑顔を見せている山本。けれど、その笑顔はいつもと違った。

頭を掻いて、幸せを噛み締めている顔。惚気話をしている顔。

ああ、そっかそっか。ふぅん。

笑顔の奥がどんどん冷たくなっていく。身体の芯から、頭からつま先まで冷たくなる。心が凍っていく。

山本が背中を向けると、その背中にナイフを投げつけたかった。拳銃でもいいけど。幸せのオーラを滲み出して歩く山本は、本当に憎かった。

俺のものだと思っていた。

きっといつでも、ハルは俺のものだと、思っていたから。

こんな血で汚れた手も、ハルなら受け入れてくれると思った。いつもそうだったから。俺がマフィアだと知っても、ミルフィオーレとの戦いの時だって。誰よりも受け入れてくれたのはハルだったから。

ハルだって俺しか見てないと思ったのに、俺の後ろを見ていたんだ。いつの間にか。

足がすくんで動けない間、ハルは歩き出していたんだ。綺麗な足で、身体で、顔で、心で。

俺と同じく汚れて、嘆いて、挫折して、手に残る感触をずっと抱えたまま生きる事になる山本と一緒に。

俺が此処で立ち尽くしている間、どうして歩いたんだろう。どうして二人は俺も一緒に連れて行ってくれなかったんだろう。手に手をとって、何て子供みたいだけど、俺はソレが理想。

連れてって。

俺だって、幸せになりたいから。

 

 

 

 

結婚した。

悪寒を服の下に隠す季節に挙式を挙げた。どうして6月まで待てなかったのか、どうしてこんな早くにしたのかという疑問はもちろんあって、悪寒のもっと下に眠っていた疑問を無理矢理山本の前で引き上げた。

お互いに、我慢できなかった。

そんな稚拙な理由で、俺は絶望を早く迎えた。

たった紙切れ一枚。たった苗字が変わるだけ。たった同じ場所に住むだけ。たった家庭を持つだけ。

それだけの事なのに、俺は一人ぼっちになった気分だった。幸せ一杯のハルの笑顔を見て、ぷつり、と切れた。

俺は今まで頑張った。だってそうだろ。ボスになったし、人も殺したし、ハルと山本が付き合っ手ていることだって全部許してきたし、初めて殺した事だって覚えているし、殺した人の顔もその家族も覚えているし、ハルが俺に言ってくれた言葉もおぼえているし、あの時守れなかった事も覚えているし、あの時告白を断ったのも覚えているし、京子ちゃんにフられた事も覚えているし、マフィアのボスになるって決意した事も覚えているし、俺は全部覚えていて、俺は全部忘れられなくて。だからそんな事実をずっと覚えて絶望にいたくない。どうすればいいんだ。俺はどうしたら救われる?

ちらちらと降る雪はとても白かった。

子供のときは走り回ってはしゃいでいたけど、今となってはどうでもいい。それより、どうすれば、俺は幸せになれるんだろう。

あの時と同じく、心から笑えるんだろう。

どうしたら、感情を出す事が出来るんだろう。

 

 

 

すすり泣く声が耐えること無く聞こえる。それに俺は愉悦の微笑みを忘れない。

こんな優越感、他には絶対に味わえない。決して他では知る事のできない秘密の情報。

だって他にも楽しいことはたくさんある。ハルの身体に触れれるのだって俺だけだし、それになによりハルのこんな眼をみたのも俺が始めて。

頬を触って愛でると、ハルは泣く。きっと、嬉し涙だろう。

「ハル、やったね。」

他人の幸せでこんなに喜べたのはいつぶりだろう。

「ようやく夢が叶ったね。」

ずっと、お前マフィアのボスの妻になりたいって言ってたもんな。

俺の嘘の笑顔が嫌なのか、ハルは顔を背ける。ずっと涙を流しているハル。どうしたら笑うんだろう。俺はこんなに嬉しくて楽しくてたまらないのに。

強くなったよ。ハル。

あの時よりももっと強くなった。人を殺す事に何の意味を見出す事はしなくなったよ。けれど、無駄な事を考えていた頃は覚えている。あの時はそれが全てだと思っていた。それがいけなかったんだと思う。

そんな俺がハルは嫌いで、つい山本にふらついちゃったんだろう。

優しいツナさんが好きって、いつも言ってたから、だから俺は全てを許すよ。一度山本の名前になったことも、一度子供を孕んだ事も。

全て、許してあげる。

けれど俺は寛大な人間じゃないんだ。普通に嫉妬だってするし怒る。

だから、俺の手で山本の苗字から三浦に戻して、もう二度と山本の名前にならないように山本を殺したし、まだ形にもなっていなかった子供も俺が戻した。

綺麗な綺麗な三浦ハルに。

それが赦せなかったのかな。ハルは俺が全知の神のように思えているんだろうか。残念ながら、俺はそれ以外に方法は見つからなかった。

無知だから。

俺も、ハルも。

「いや・・・」

触らないで、なんて酷いなぁ。ハルは。

跳ね除ける事も出来ない。手は鎖で塞がったまま。顔を背ける事で逃れられると思っているハルが愛しくてしょうがない。

これからずっと、ずっと一緒。

それからの物語を一緒に紡いでいくんだ。もう何も障害は無い。俺とハルだけのこの空間で、やっと俺は絶望から引っ張り出された。

「・・・やまも、」

「何それ?」

この世に存在しない単語を言おうとしたので俺は止めた。他の人に聞かれたら何?それって言われるの嫌だろうから。

それを教えるために俺が言ったんだけど。

唇に人差し指を押し付けて押し留めた。ハルの瞳が揺らいだ。とっても綺麗に。

「ねぇ、ハル。これからどうしようか。俺はね、理想があるんだ。幸せで、ほのぼのとした家庭を持ってね、子供がお父さんって呼ばれるのが夢だったんだ。サラリーマンっていう職業は残念ながらもう無理だけど、でも他の夢はかなえたいんだ。かわいい奥さんが料理を作ってて、俺はネクタイを外しながら子供の相手をするんだ。疲れてるけど仕方ないなぁって。でも悪い気分でもないんだ。それをかなえるにはどうしたらいいと思う?」

「・・・やっ、」

「子供を作ろう。」

他の男のじゃなくて、俺の、俺の細胞を組み込むんだ。三浦ハルの中に俺の存在を。

笑顔が似合う女の子がいいかな。やんちゃな男の子がいいかな。

どっちでもいいか。

だって、俺とハルの子供だから。

 

「楽しい家庭が、欲しいよ。ハル。」

 

 

 

凄くすらすらとかけました・・・(ぇ

吃驚するくらい最初どうしようとか悩んでたんですけど、狂ったツナとかもう最強に書きやすかった。うっわすげぇ。

ていうかこれ狂愛?

なんていうか死ネタ、ダーク、シリアス的な雰囲気なんですけど。山ハル←ツナ要素少ししかないような気がするけど・・・・

 

リクエストありがとうございましたーww

楽しかったなぁw