嘲笑うのは秘密の言葉。だからハルは求めるばかりです。
きっとその眼は全てを見透かして真実を見据えるために存在したものだと。正義のものです。
ありふれた嘘なんて直ぐに分かって、だから突き放すんですよね。
そんな全知のような貴方ですから、陳腐な言葉は要らないと思っているんでしょうね。
もっと、理由が欲しいんです。
だって女の子ですもん。
もっと、特別な何かを。秘密の言葉言ってください。
大切ならば、そっと秘密に言ってください。そしたらハルは貴方にもっと囁くでしょう。
ハミング日和。の予感。
まだテレビの天気予報も聞いてないし、朝ごはんだって食べてない。日はまだ昇ってない。まだどんよりと暗い。
そんな朝方に眼が覚めて、とりあえず身体を温めようと紅茶を入れた。いい匂いが部屋に充満していく。昨日の甘ったるい名残を全て消し去ってしまえと念じながら。
身体の芯から冷えていたそれを、沈静する魔法の飲み物、コーチャ。
一口飲んでしまえば喉が熱く、鳩尾が熱く。
はふ、と恍惚の溜息を吐いて、次はあの人のを入れなきゃと気を取り直す。一人だけ飲んでいたら拗ねてしまいます。
いえ、拗ねる方が可愛いですね。悪い時なんかお仕置きされちゃいます。
お仕置きって、ただしたいだけの口実だと思いますけど。その口実も封じてしまえば三浦ハルの完全勝利ですから。
珈琲を入れて、服を着替えなければ。彼お気に入りのYシャツ姿は寒いだけ。
彼は視覚でそれを楽しんでいるのでしょうけど、こちらは五感全てが悲鳴を上げていますから。耳だってまっかっか。
朝からいい匂いを漂わせていると、シーツがもぞもぞと動き出した。丁度入れ終わった後に起きるなんてなんていい子なんでしょうか。って、ちょっとおふざけ。
「珈琲、入れましたけど。」
「・・・・・」
寝惚け眼で此方を見上げる。何だか寝起きドッキリみたいな雰囲気。
「飲みます?」
「・・・・・・・」
「・・・おいしいですよ?それに、暖かい、でしょうし・・・?」
「・・・・・ああ・・・・」
返事はそれだけでまたもぞもぞと顔を枕に埋めて寝だしてしまった。珈琲、どうしましょうか。
とりあえず机の上に置いておいて、紅茶を一口飲んでそして着替えよう。
ボスとハルの部屋は恋人になる前から隣同士で、恋人になり、そういう関係にまで発展すると壁をぶち抜いて共同にしてしまったのです。おおざっぱな穴は今にも瓦礫がまだ崩れ落ちてきそうな様子。
プロの技ならともかく、ボスが銃で一発ぶち抜いたためこんなことに。
下着をとりだして、そういえばベッドの中にも服を置きっぱなしだったと思い出してまたボスの部屋に、穴を通り抜ける際にはいつも瓦礫の恐怖がある。だから上をじっと見て通る。
また眠りに落ちたボスを起こさないように、慎重に慎重にシーツを捲っていく。
上着、スカートに、ブラに、・・・あれ、もう一つが・・・
ごそごそと腕を突っ込んで探っていると、ボスが眼をゆっくりと開けた。
「・・・おはようございます。」
さっきのがもしかしたら寝惚けていた可能性があるので。
「・・・・ああ・・・」
「・・・おきます?それとも、あの、寝惚けてます?」
「・・・起きてる・・・」
ああ、以外の言葉を頂戴したので、これはきっと普通の状態です。
今下着を探している。という現在進行形のingを使うべきかどうかを悩んでいると、ボスが何かに気がついたようにごそごそとシーツの中に手を入れて。
「・・・はひ!」
思わず奪い返した三浦ハル恥ずかしの一枚。
上半身を起こして、何をそんなに恥ずかしがっている。というような視線で見られ更に羞恥心が倍増。
「えっと、あの・・・あの!珈琲、入れてますから、ね?」
「・・・さっきも聞いた気が・・・夢か?」
「寝惚けてたんですよ。」
他愛の無いやり取りをしながら自分の下着を後ろに隠して場所を移動する。隣のハルの部屋に置いて、新しい着替えを取り出した所で向こうから声がかかった。
「なんですか?」
「そっちいくんじゃねぇ。」
「・・・はーい」
ついでに言うとベッドからも何にも移動しておらず、珈琲はもちろん。腕が伸びなければ届かない距離にあるのでとっていない。
カップをとってそばに近寄ると満足そうな顔をして頭を撫でてくれた。
子供みたいな事を言って、自分は大人の立場に君臨するというわがまま。
「ハル、着替えたいんですけど・・・」
「此処で着替えりゃいい。」
「恥ずかしいですよ」
「恥ずかしがらなければいい。」
「・・・・・・・」
しばらくはこのままか。と諦め。ベッドに腰を下ろす。寒いので足はシーツに突っ込んだ。
紅茶を飲みつつ、朝から上半身裸で寒くないのだろうかと、隣のボスを見上げる。何て凛々しい顔。寒さを絶えている顔には見えませんけど。
「何だ。」
「ああ、いえ何でも。」
そういえば、ボスから愛の囁きなるものを貰った事がありません。三浦ハルは24時間受付体制なのですが、それを情事と勘違いしていらっしゃるのかもしれません。なんたる誤解。
今日だって抱き合ってお互いの体温を交換しているにもかかわらず、一度だってありませんでした。こっちが囁いて、叫んでどうするんですか。
満足気に頷かれても、こちらはまったくもって不完全燃焼です。
出会ってから、たしか一年ほど。
告白もこっちからだったような。
キスはあちらからでしたけれど。
ハグもあちらからでしたけれど。
ボスは照れ屋というにも限度です
「あの、ボス。」
「やっぱり用があるんじゃねぇか。」
用、というものなのでしょうか。たった一言言って欲しいだけなので、用事というより、希望?願い?
「ハルを見て、何か言う事は?」
少し遠まわしに投げかけてみた。いきなり直球で好きって言ってください!という勇気は、生憎持ち合わせているんですね。けれど、それを言ってただ鸚鵡返しに言われても虚しいだけなので、ちょっとずつ。
首をかしげ、じぃっ、と見られる。一目見て好きだと感じたらその言葉を出せばいいのに。って、勝手でしょうか。無理ですね。
「素っ裸になりゃあいい。とは思う。」
「そういうんじゃなくて・・・もっと・・・抽象的?な、ものです!」
好き、愛してる。これは抽象的な言葉なのでしょうか。
少し自分の中で疑問が生まれた瞬間です。
「朝から面倒臭い事言ってんじゃねぇ。」
「朝だからですよ。だって時間まだありますもん。」
時計を指差すとまだ時間は経っていない。外だってまだぼんやりと暗い。あと少ししたら直ぐに明るくなるんでしょうけど。
「ボス、ハルに言う事は・・・?」
「・・・昨日激しかったのを怒ってんのか?」
「ちーがーいーまーす!」
乙女心は打ち砕かれそうです。
ああ、もう珈琲なんて全部のんじゃって、質問してるハルはまだ紅茶残ってるのに。
「ほら、もっと根本的な!ハルを見て一言!」
「チビ」
「余計なお世話です!」
「キスするとき首痛ぇだろ。」
「まぁ、そうですけどそうじゃなくて!」
こうなったら、とことんボスに気がつかせて吐かせてやります。乙女の意地をとくと食らうがいいです!
拳をぎゅっと作って、むき出しの肌に手をばちんっ、と叩く。冷え性の三浦ハルの手は、冷たくなるととことん冷たく、氷のようだとお父さんにいつも言われていました。
特にお腹が暖かくて、けど触ったら怒られるんですよね。酷いです。
それにしてもボスは微動だにしません。この冷たさを感じないのでしょうか。ハルの手はとってもぽかぽかなのですけど。
「・・・あの、ボス?」
「何だ。冷てぇ。」
「・・・ぬくい・・・」
反応が薄い。拒絶されない。
それならばべたべたと身体のいたるところに触ってやります。足だって冷えて冷えて仕方が無くて、指と指の間も冷たくて冷たくて。あれ、最初の目的って何でしたっけ。そうです。ボスにお仕置きだったのにすっかり忘れてました。
「ぬくいですね、ボス。」
「朝から触ってくるんじゃねぇ。もう一発されてぇのか。」
拳銃を向けられているかのごとく手を挙げる。それだけはノーサンキューです。昨日の余韻として痛みが腰を襲っているし、もう直ぐカーテンの向こう側はとても明るくなるに違いないですから。
「ほら、ハルにいう事!」
自分を指差して意思表示。
「いつも感謝してるとか言われてぇのか?」
「お母さんに言うようなことじゃありません!」
「この間よく知らない人間についていかなかった事を褒めて欲しいのか?」
「子供じゃありません!」
「だったら他に何なんだ。」
「・・・・ハル、・・・・の、どこが好きですか?」
「あぁ?」
ハルに好きって言ってください。というのは、やはりはばかられる。とりあえず、そのポイントを好きだと言ってくれれば、もういいかと妥協する。だってもうすぐおきなければいけない時間ですし。
そしてふと思いついた質問は、気になる。
何処でしょうか。顔・・・では、なさそう。性格、も嫌いなはず・・・・・・
あれ、何処を好きになってくれたんでしょうか、ボスって。タイプとは大分違うはずなのに。
じぃっ、とまた見られて、まるで有罪無罪を告げられる被告人の気分です。ごくり、と喉をならして、裁判官の言葉を待つ。
「言うべきか?」
「それはもう!」
大仰に頭を振り下ろして期待に眼を輝かせて待つ。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・胸。」
「・・・・・へ?」
がくっ、と肩の力が抜けた。
この人、なんていいました?胸?胸って、これですよね。あれ?
「何で、胸なんですか・・・?」
この普通で、それ以上でもそれ以下でもないこの胸を何故。
回答不可能の難問を出題された側としては、方程式を知りたいのです。どうして胸なのか、どうしてそんな結果になったのか。
時間だってもう無いですし、もう直ぐ起きなくちゃいけないですし。
「この、でかくも無く小さくもない所がいい。」
「・・・はぁ・・・」
「ムダにでかいのは下品で嫌いだ。かといって無いのも好きじゃねぇ。」
「・・・・・・・・・」
「・・・何だ。」
「・・・・えっと・・・何と、反応すればいいのかな・・・って・・・」
「別に何も反応する必要はねぇだろ。」
「・・・・・・・」
脱力。その一言につきます。
いろんな意味でボスは予想を上回る人なのです。そこに惹かれて、そこに困っているのですから、まぁいいんです。はい。負けです。
もう太陽は昇って人間達は活動を再開しなければいけない時間。早く着替えて早くご飯を食べて、今日一日を楽しく過ごしましょう。
ベッドから降りようとしたら後ろから胸を掴まれた。
ぐに、と。
する人間は一人で、前振りは確かにそういう流れかもしれませんけど。
耳元に口を寄せられて、これは絶対にいけないと、拒絶を試みます。だってこんな虚しい気分で朝を迎えなければいけないのですから、八つ当たりです。
「すき、」
え。
「ありだ。」
あ、そっちですか。
ボスはハルの胸が好きだと思う(←
いや、お前だろって言わないでくださいよ。まぁ嘘じゃないですけどね、えへっww(ウゼ
巨乳も貧乳もこのまないボスにとってハルはとてつもないものなんじゃないかなって。だってもう・・・触りたいし。(殴
文章が成立しないのは本文とこのあとがきを見た方には分かるでしょう。そうなんです。頭の中がハルの胸一色なんです。変態なんです。
リクエストありがとうございましたーww