さっき食べたばかりのチョコレートの味が伝わったのかもしれない。
差し込まれた舌が、一瞬の躊躇を見せたから。びく、と小動物のように反応して、でも進む事は決してやめず口内で暴れる。
口の中。それは何かを食べるために、あるもの。
舌も味を感知するため。それは食べ物か否かを知るためのもの。歯だって食べ物を噛み砕くもので、唾液も食べ物を流し込むため・・・?
「ぁ、ふ・・・」
涙が流れる。
苦しい。息が喉の奥に押し込まれて、それなのに唾液は飲み込めずにそのまま口からだらしなく、はしたなく落ちていく。
顎に伝うそれがふと、涙のような感覚だと思ったら涙と唾液が交じり合っていたらしい。
お互いの吐息が顔にかかって、熱が其処に沈殿していく。
手先はとても冷たくなって、このまま殺されてしまうんじゃないかと思えるくらいに体温が低く、高くなっていく。
吐き出した息は、吸い込むために出したもの。
呼吸をしないと死んでしまうのは生き物すべての当然の原理。
それなのに、吐き出しただけで吸わせてくれない。押し付けられた熱い唇は隙間を埋めて、舌をまた捻りこませて入ってくる。
肺が、心臓が、脳が。
すべてがいけない方向に落ちていく。
まるで、冷たい洞窟に放り出されたような感覚。怖くて眼を閉じると、本当に怖く感じる。
非情なまでのその行為は愛情ゆえ。分かっているけれど、死んでしまう・・・
「っ・・・・」
涙がボロボロと落ちて、嗚咽が漏れる。それでも口は塞がれたままでどうしても、出ない。
怖い。怖い。
安心させるように背中をゆっくりと緩慢に撫でるその手は、とても暖かく優しいもの。
でも、その優しさが今は狂気しか感じられない。
足と足の間に割り込まれた足。寄りかかる壁はとても冷たく、体温を奪う。
「君が、悪い。」
戒めの言葉。
やっと離れた唇でも、吐息は唇に、まだキスしているかのような距離。
「・・・な、・・・」
「君がいけない。僕は悪くない。」
子供が、母親に言い訳するかのような言葉。
耳に入ってくる情報では納得できない。涙が流れる瞳を、眼を開けなければ。
ゆっくりとあけてもぼやけた視界の中は何も見えず、ゆっくりと、視界が確かなものになっていく。
むすっ、と、口元を尖らせて。
逃がさないように、逃げられないように。腰の手が力強く。
「浮気した、君がいけないんだから・・・」
「―――え・・・・」
下唇が軽く噛まれ、開いている眼がばちりと近距離でかち合った。
揺れる瞳は感情と同じように揺れている。
「いけないんだから・・・・」
繰り返すように唱えられた言葉は、何も心当たりが見つからない。
いけないことをしてしまったのなら、それを言ってくれればいい。それなのにこんな体罰みたいな事をしなくてもいいのに。と、心の中でぼやく。
「いけない、子。」
赤くなった唇にまた、
ただのキス話。
こういうのがすきだわ。