ジャンニーニは常々あの10年バズーガを調べたいと思っていた。

科学者としての底抜けの探究心は、生きる原動力。

一体どこのパーツがどうなってああなっているのか。その摩訶不思議な現象は何故起こるのか。

魔術で無い限りありえない。科学的に証明されているそのバズーガの秘密を、

知りたい。

 

 

 

手を出した。

寝ているランボに、秘密裏に、

おそるおそる汗がじわりと額に浮かび上がりながらも、慎重に。

少し思いそれをずるずると引きずり自分の研究室に引っ張り込んだ。

「おお・・・これはこれは・・・なるほど、此処がこうなって・・・な!こんな事を・・・!」

と、独り言を呟きながらの解体作業は始まり、最終的に全ての秘密を理解する事は不可能だったが、机の上に置かれたこのパーツを組み立て、昼寝をしているランボに返さなくてはいけない。

額の汗を拭って時計を見ると危ない時間になっていた。

こ、これでは起きてしまう・・・!

焦ったジャンニーニは慎重に記憶を取り戻しつつじゃなく、適当にフィットする所にパーツを組み込んでいった。

「ほぉー、で、それがコレか?」

「は、はい・・・」

リボーンが見つめる先にはぷにぷにとした三浦ハルがランボの尻尾を追いかけている姿が見える。

沢田綱吉の部屋だが、今はジャンニーニとリボーンと小さくなったハル、そしてランボしかいない。

正座して反省の色をこれでもかと見せるジャンニーニに、リボーンは先ほど飲んだエスプレッソの香りを漂わせる息を吐いた。

「まったく・・・お前は何にもわかってねぇ。お前に大切なのは冷静さだ。焦ったらとんでもないのが更にとんでもねぇ事になるだろーが」

「はい!すみませんでした!」

はぁ、とまた溜息を吐いてランボに抱きつくハルを見つめる。

「ほーら!捕まえちゃいましたよー!ランボちゃんっ!」

「なんのー!ランボさんは強いんだもんね!」

「へ・・・はひー!」

後ろから抱きついたハルに尻をぶつけて尻餅をつかした。そのままランボは笑いながら階段を下りていった。

「むー・・・やっぱり強いですランボちゃん・・・ハル、負けません!!」

「おい、ハル。」

めらめらと瞳を燃やしているハルに、そろそろやめろと声をかける。

くりくりの大きな瞳がリボーンを見る。お互いに眼の大きさはまったく変わらない。

「違和感は無ぇのか?」

感じたもの。

俺は、あの時は違和感だらけで、不条理に苛まれて、どうしようも無い感情を持て余していたが。

一時的なものとはいえ、そんなにはしゃぎまわれるなんて、どうなんだ?と。

「違和感・・・・あ、リボーンちゃんと近づいた気はしますよ!」

頬はぷにぷにで、四肢もぷにぷに。

全体が柔らかい三浦ハルはにっこりと楽しそうに笑ってそう言った。どこかで聞いた事のあるような無いような台詞は、きっと前に忘却したものなんだろうと思い出す努力はしない。

「そうか。」

「・・・あ、あのー、リボーンさん・・・」

「何だ。」

「こうなったのは、私のせいですし・・・もう一度チャンスをくれないでしょうか・・・?」

「・・・・・・」

「私もこれでも一応メカニックです!いずれはボンゴレ10代目のお世話をする身!こんな事を解決できないようじゃ私は・・・!」

「・・・・まぁ、そうだな。もう一度だけチャンスをやってもいい。」

にやり、とニヒルに笑うリボーンに、まずは感謝の気持ちがぶわっと風を孕んで巻き上がったかのように笑顔になった。

「あ、ありがとうございます!」

「だが、次失敗したら処刑だ。」

「ええ!!?」

 

 

 

「つーことだな。」

「何か分かるような分からないような・・・・」

「いいから分かれ。」

理不尽に頭を叩かれたツナは、痛ぇ!と喚き声を上げる。

下にはハルが見上げてきて、大丈夫ですか?と心配そうに声をかけてくる。

微笑ましい、小さい三浦ハルは中学生でも幼稚園児でもまったく変わらない表情をする。

眉を下げて八の字にするあたりがとってもそっくりで、まるで本人みたい・・・

「はひ?」

ぷに、と頬を人差し指でつつくと、玩具のように声を漏らした。

ぷに、

「はひ?」

ぷに、

「はひ?」

ぷに、

「はひ?」

ぷにぷに、

「はひぃ?」

 

「・・・リボーン。これおもしろい・・・」

「人をコレ呼ばわりとは、お前も黒くなってきたな、ツナ。」

「・・・ハッ!違う違う!そうじゃないって!つい玩具だと思い込んじゃったからであって俺は人をそんなコレ呼ばわりなんかしない!」

「・・・でも、ツナさん何回もハルのほっぺつついて楽しそうでしたよー・・・もう、ハルは玩具じゃないですよ」

つつかれた頬を擦りながら頬を膨らますハル。

最近の赤ん坊とか小さい子というのはイメージが悪すぎた。普通の子供というものに久々に出会えた気がして嬉しかった。常人離れした子供というのは、手榴弾を持っていたり、エスプレッソを飲んだり銃を持っていたりする。

苦笑するあたり、自分も図太くなったんだなと思う。

「で、ハルはいつ戻るか分からないって事?」

「ああ。今ジャンニーニに急ピッチで作らせてるがな。」

「大丈夫かな・・・ジャンニーニ・・・」

短い付き合いだが、濃い記憶ばかりであまりいいものが無い。気合を入れれば入れるほど空回りしそうなタイプで・・・ああ、それはハルとそっくりだなぁ。

「?」

ツナが見下ろすと首をかしげる。

何にも分かっていないその表情に、はぁ、と溜息を吐いた。

「・・・最終的に、ハルはどうなるんだよ。今日中に戻れなかったら両親にはどうすれば・・・」

「さぁな。そんときゃそん時に考えりゃいい。」

「お前・・・」

優雅にエスプレッソを飲んでそうニヒルに言い放つのはもう慣れたが、とても他人事だ。

「あのー・・・ハルお腹すいてきたんですけど・・・」

この場にそぐわない要求をしてきたハルに、また大きな溜息を吐いた。これじゃあ本当に子守をしなければいけない。

ランボやイーピンと同じような中身の三浦ハルは、身体が小さくなっても同じ。

まったく違和感が無い子供だ。

リボーンよりかは。

「・・・じゃあ、菓子パンがあったからそれ食べろよ・・・メロンパンだったよーな・・・」

「あ、ハルメロンパン無理です」

「何だよそれ!」

小さく手をふるハルに思いっきり突っ込む。ハルは、ケーキがいいです。なんて、にっこりと無邪気に笑われる。

助けを求めるように咄嗟にリボーンに顔を向けたツナだったが、リボーンはさっきエスプレッソを飲んだばかりだというのに鼻ちょうちんを出して寝ていた。

「おいーー!!」

叫んでもリボーンは起きず、ツナのズボンを掴んでくいくいと引っ張る。

「ツナさん。ハルお腹がすきました。」

 

 

 

な、なんでこんなことに・・・

と、一人心の中でぼやきつつ、手を繋いだハルは違う景色に楽しそうに鼻唄も歌いながらてくてくと歩いている。

「凄いですよツナさんー!ハルこんな小さい頃あったんですねー!」

なんて、笑顔でそう言うハル。小さくなって一番得をするのは多分両親だ。子供の小さい頃がまたカムバックしてきて昔を思い出すやらかわいいやらで何やかんやで家に戻した方がいいんじゃないかと、問題を放り出そうとしてしまう考えを不埒にも考える。

「ふんふんふーん」

「・・・はぁ・・・」

子供の風鈴のような声がツナとは裏腹にどんどん上昇するテンション。下降するテンションは、繋いだ手から生気を吸い取られているんじゃないかと思えてくる。

小さな紅葉のような手は暖かくてぷにぷにで、何となく、

「あ、10代目ぇ!!」

「お、ツナ!」

公園でブランコに座りながら山本を睨みつけていた獄寺が、輝くような瞳でこちらを見て立ち上がった。

軽く笑いながら話していた山本もこっちに手をふって友好的に笑顔を見せる。

公園から走ってツナに駆け寄ってきた二人の足取りが、ゆっくりとなった時に視線はツナの手に繋がれた小さくなったハルに注がれた。

「・・・・・」

「・・・その子誰だ?ツナの親戚か?」

「いや・・・あの、この子は・・・」

「はひー!凄いです。おっきぃです!ビッグヒューマンです!」

高い声が紅潮した頬と共に吐き出され、ぽかんと瞠目した獄寺がまさか、と口元を動かす。

「ははっ!ハルみたいな事言うのなー」

脇腹に手を入れて持ち上げると、「ほぇ!」と声を上げる。素っ頓狂な声に更に山本は笑ってぐるぐると回り出した。

「はへー!トルネードをやめてくださーい!ストップですぅー!」

「あははははははっ!」

 

「・・・10代目、あれはもしかしてあのアホ女なんじゃ・・・?」

「ああ・・・うん・・・」

こそこそと耳打ちする獄寺に、諦めたような声で頷くツナ。後ろではきらきらとした山本の笑顔と、吐き気を催しているハルの渦巻きの眼があった。

そんなツナの様子を見て落胆したような表情をし、眉を吊り上げて山本の所に

「こんのアホ女ぁ!何遊んでやがんだ!」

「な、は、はうっ!?」

首根っこをつかまれて回転から脱出できたハルはまだ焦点の合わない眼で耳元で叫ぶ獄寺の声を鼓膜に振動させる。

手から離れたハルをぽかんとした表情で見つめる山本。まで手は持ち上げたままの状態。

「10代目のお手を煩わせやがって・・・さっさと元に戻りやがれ!」

「はひ、はひっ・・・!」

二日酔いの時に耳元で叫ばれると頭がガンガンするというような。今はぐるぐると世界が回っているように見えているため、視覚はもはや使えない状態。

あとは聴覚と嗅覚が俊敏になっていて、ただでさえ煩い声が頭にガンガンと響く。

「やややっ、耳元でそんなに叫ばないでくださ・・・!」

「煩ぇ!どーせまたジャンニーニの仕業なんだろーが、そうはいかねぇ!気合で何とかしてみろ!」

「ちょ、ちょっと獄寺君・・・・」

自分も前に同じ事があったことは棚に上げて荒々しく叫ぶ獄寺に、さすがにかわいそうだとツナが間に入ると、

「ねぇ。」

後ろから声をかけられた。

どこかで、というよりも一度聞けばいやでも覚えてしまったその声に、いっきに冷や汗が噴出した。獄寺も同じように僅かに顔を青くしている。

思わずハルを持っていた手をするりと力が抜け、落ちたハルはまだ世界が回転しているようで、酔っているかのように危なげに立ち上がり横に前にステップを踏むようにとたた、と足を動かした。

ぼす、と当たった足にしがみ付いて深呼吸をする。眼をゆっくりと開けてぐらぐらとした世界を調整しようとしていたら、エレベーターが上昇するように視界が上に上がった。

「・・・・何、これ。」

「・・・ひ、雲雀さん・・・?」

「あの・・・その子は・・・」

「・・・三浦そっくりなアホな顔。」

「はひ!」

ショックを受けたようにがーん!と叫んで雲雀の腕をぽかぽかと叩く。

「酷いです!ハルはアホな顔じゃありませんー!」

「・・・・・・・・」

何。これ。

と、また問いかける雲雀の視線の先にはツナ。

冷や汗を流しつつ、話せば長いんですが・・・と、言ったら噛み殺されそうだし、それを省いて長々と説明するのも噛み殺される。

短く、シンプルに、なおかつ内容がある一言は

「・・・その小さい子は三浦ハル本人で・・・その、縮んじゃってるんです・・・」

その簡単な言葉を聞いて、また再度小さくなった三浦ハルに視線を合わせる。

ぷくー。と風船のように膨らんだ頬とつりあがった眉。不機嫌を身体全体で表しているその姿はまさしくあの女。

「・・・・・・・・・・・・・」

「何とか言ったらどうなんですか雲雀さん!ハルはアホじゃないです!」

「アホ女が何言ってんだ。」

「アホじゃありません!」

ぼそりと背後から言われた言葉に、首を捻って叫ぶハル。その異様な光景をいつもは正常だという事を基準にして見ると、これは更に異常だ。

訝しげに見つめられ、その視線に果敢にも立ち向かうかのように睨み返すハル。ぷくー。と頬を膨らますその姿はまさしく、

「・・・あほ・・・」

「アホって・・・アホってなんですか!何回言うんですか!もう!」

じたばたと足や手を千切れんばかりに動かして、頭もぶんぶんと左右にふる。ポニーテールのさらさらの髪の毛が揺れ動き、雲雀はゆっくりと地面に下ろした。

あまりにも必死だったから。

あまりにも、馬鹿みたいだったから。

しゃがみこんでじっと観察するように見つめて、それをまた睨み上げるハルの姿。

ツナと獄寺は珍獣を見るかのように瞬きをする暇もなくガン見している。

「仲いいのな、ハル!」

「アホっていう雲雀さんは嫌いです!」

「まーまー」

子供をあやすような声色と、後ろからまた脇に両手を入れられ持ち上げられた。

「はひっ」

「ほーら。」

小さな両足を掴んで楽しげに声を出す。

ハルは落ちないように山本の頭に捕まり、何年ぶりのこの感覚にしばし感動するように目をぱちぱちとさせている。

幼い時には一回はされる肩車。この光景。頭を掴んで足を掴まれて、動物園なんかでされるもの。

そんなハルの様子に山本はまるで兄のような笑顔で歩き出す。

「はひ!」

「よーし!町内一周走ってくっか!」

だが、微笑ましいものにも限度があり、懐かしさで感動していてもハルの顔は真っ青になる。

山本という男は、一般常識をはるかに上回る何かをするのだ。いつも。

走り出した山本の頭を掴みつつ、離れていくツナに涙眼で視線を送る。すがりつくようなその視線を受けたツナは、運動会のリレーで毎回一位の並盛のヒーロー山本武に追いつくことは不可能だ。

だから、ひらひらと諦めてと含蓄して頼りなく手を振った。

小さくなっていく山本の背中が米粒程度になったとき、雲雀がゆらりと反対側に歩き出した。

群れているだのなんだのといわれなく、そのまま無視していってくれるのかと思ったが、後ろから頭を殴られたらしく、ツナの記憶はそこから切り取られたように何も覚えていなかった。

 

 

意識が浮上したのはツナの部屋の中だった。

獄寺も同じように殴られ気絶したらしいが、今は意識がはっきりとしている。お腹の痛みに顔を歪めながら。

どうやらビアンキに救われ、運ばれている間に意識が戻った為に眼に入ってしまったんだろう。

そして部屋の中に蹲っているハルはしくしくと泣いているのを、山本が慰めている。

このカオスな状況に一人孤立しているツナは呆然と当たりを見回すしかない。

「ハルは戻ったぞ。ジャンニーニが完成品を作る前にな」

ふわり、と鼻腔を擽るエスプレッソの匂いと共に香ってきた言葉は、この状況の説明とはまったく異なっている。

何故ハルは泣いているのか。

「アレだ。肩車してる時に戻ったんだ。」

「・・・で、何で泣いてるの?」

そうまた問いかけると、はぁ、と溜息を吐いたリボーン。

「お前は女心がわかってねーな。」

 

 

 

最終的に?

と、最後の一文をそれにしようかなと思ったんですけどやめました。

楽しかったです。でも楽しいだけじゃ駄目なの。

ぐだぐだに、ムダにエンドレスしそうで区切りました。はい。

これは、総受けなのだろうか・・・?

 

 

title はちみつトースト