魔界の奥の、廃墟と化した城のような。
そこには蝙蝠が住み着いていて、更には烏も細く枯れた木に止まってかぁー、と真っ暗な空に泣き声を残響させて。
絢爛豪華な城の中には赤い絨毯は埃で薄い赤色になっていて。
部屋のシャンデリアにはくもの巣が張り巡らされているような。
おどろおどろしい、そんなお城を背景に、静かに雲雀恭弥はそこに居た。
「なぁ、ハルって運動神経がよかったよな?俺とキャッチボールしねぇ?」
「はひ、キャッチボールですか!それはまさに会話を必要としないコミュニケーションの震源地!」
「はは!相変わらず意味わかんないのな。グローブは俺の使っていいぜ!」
「ありがとうございます・・・って、これずいぶんと慣らされてますね・・・」
「ん?新品よりも使いやすいだろ?」
「お気遣いありがとうございますー!・・・でも、山本さん新しいのでいいんですか?」
「オッケーオッケー!ハンデとしては丁度いいだろ?」
「な!・・・山本さん、貴方は今ハルの負けん気を刺激いたしましたね・・・こうなったらタダでは帰せません!」
「ハル大胆だなー」
「あ、でもハルスカートですよ。これもハンデじゃないんですか・・・?」
「んじゃお互い様でプラマイゼロって事で」
「なら全然いいですよー!」
キャッチボール以前に、お互いに言葉の投げあいがズレにずれている事を分かっていないのだろうか。
何処か身体から力が抜けてしまうようなアホな会話をしている二人。
アジトの外でまるで子供みたいにはしゃぎまわりハルが投げた。
スカートを気にしていた素振りはほんの一瞬で、投げた瞬間に真後ろの雲雀の視野にはスカートがひらりと捲れて中が丸見えだ。
眼を覆い隠したい気持ちを押さえる前に、この呆れで硬直した体をたたき起こさねばいけない。
「よーし!ほらハル行くぞー!」
びゅんっ
「はへっ・・・」
「あ、やっべ・・・ヒバリー!避けろ!」
ハルの頬をかすめ、髪がふわり、と巻き上がった後に叫んだ。
山本の焦りの表情は、当たってしまうんじゃないかという不安ではなく、それからのことだった。
咄嗟に避けろ何て叫んでも、火に油を注ぐような事なんじゃないかと心の中で後悔する。
トンファーで真っ二つになったボールを踏んづける。
「僕も混ぜてよ。」
黒い笑みを絶やさないで、爽やかな風が頬を撫でる。
そのままトンファーを全力投球で投げた。
「ふげっ!」
鼻の頭が潰れる音が耳元に聞こえながら、久々に庭園を散歩してみようかなと思い歩いていた牛柄のハルがエロと言うランボが倒れた。
トンファーを避けた山本が、あれ?と苦笑しながら倒れたランボを見つめる。
「はひ、ランボちゃーん!大丈夫ですか!?」
「う・・・が・ま・ん・・・うわぁぁぁん!」
「はひ・・・・」
「うわ・・・大丈夫か?赤くなってるぞ?鼻」
人事のように呟く山本、ランボの頭を撫でるハル、その後ろに雲雀がゆっくりと近づいて投げたトンファーを拾う。
ボンゴレの優雅な庭園にそぐわない男の泣き声に、嫌いなデスクワークをして苛々していた眼鏡をかけた獄寺隼人が熱り立ちながらこちらにやってきた。
ギリギリと歯を軋ませながら、今さっきまで使っていたボールペンを今にも握り折りそうな勢いで
「さっきから外でごちゃごちゃごちゃごちゃうっせーんだよテメー等はよぉ!!」
「あ、獄寺じゃねーか。丁度良かった、ちょっとランボを医者に見せてやってくんねーか?」
「だ・れ・が・す・る・か!この野球馬鹿!」
「いきなりなんですか獄寺さん!」
「人が仕事してりゃー外でぎゃあぎゃあしやがって・・・餓鬼かお前等は!」
「ねぇ、そろそろこれ以上群れると噛み殺すよ?」
「はひ!恭弥さん落ち着いて・・・」
「けど獄寺が書類溜めてたのが悪いんじゃねーか?ツナにそろそろ提出してくれって言われたからやってんだろ?」
「ぐっ・・・!」
「そーですよ。ハルが早くしてくださいって言ってたのに無視するから・・・」
「だー!うっせぇ!馬鹿女なんかに指図されたくなかったんだ!」
「馬鹿女って・・・またそんな事言って!もうツナさんに告げ口しちゃいますよ!」
「あ、あの・・・皆さん少し落ち着いてはいかがですか」
ドゴッ!
木の幹がメキッ・・・と、ゆっくりと倒れ、鈍重な音が響き渡り全員が口を閉ざした。
そして視線は全て雲雀恭弥に集中。
やっと耳障りな音が無くなった。と、雲雀が静かに冷たい視線で見下ろす。
一応の被害者であるランボはその恐怖で顔は蒼白、涙がぼろぼろと零れる。
怯んだ獄寺だったが、直ぐに眉を吊り上げ、眉間に皺を寄せて雲雀を睨む。
「んだテメーは!いちいち物壊さねーと話に入れねーのかよ!」
「いちいち物を壊さないと君たち黙らないでしょ。」
「だったらまず口で言え!口で!」
「煩いな獄寺隼人。文句しか言えないの?その口は。こんな事してる暇があったら書類整理でも窓拭きでも靴磨きでもすればいい。」
「んなっ・・・!」
哀れみのような視線が、新たな攻撃の仕方に獄寺は黙った。
殺気を孕んだ視線よりも、見下し、哀れみを向けられる視線に変わり怒りは小さく胸の中に生きている。
何だ、これは。
何で俺は見下されてんだ。何で俺は言い返せない・・・!
その様子を見て、ほぅ、と息を吐いたハルと山本はその様子を静かに下から見上げていた。
「はひー、恭弥さん凄いです・・・」
「靴磨きかー・・・そういえば最近靴磨いてねーな」
「うっせーんだよ!この・・・この・・・!・・・・この、トンファー馬鹿!」
「何それ。」
ハッ、と鼻で笑われ、獄寺はぎちぎちと歯を軋ませる。
持っていたボールペンは拳の中で粉砕し、綺麗な芝生の上に落ちる。
相手するのももう面倒臭いと、雲雀はハルの腕を掴み歩き出す。
真横を通り過ぎた雲雀に、一瞬遅れて獄寺が振り向き
「雲雀!テメー逃げる気か!?」
「何、逃げるって。」
「何ってテメー・・・!」
「恭弥さん痛いです!ちょっと腕が・・・!」
「ランボ、起きれるかー?」
「う・・・はい・・・!」
「いやー、悪かったな・・・俺が避けたばっかりに・・・」
「腕くらい我慢しなよ。早くこんな所から帰るよ。」
「逃げんなー!この・・・丸頭――!!」
まったく品の無い連中だ。と、内心でぼやきながら雲雀はハルの首根っこを引きずりながら廊下を歩いていた。
腕を掴むと痛いだの無礼だの言われ、最終的に猫は首根っこを持っても痛がらないという知識をフル活動した結果がこれだった。
ハルは最初抗議していたものの、何を言っても駄目なんだと諦めそのまま大人しくしていた。
大人しく、静かにしていれば何もしないという事は重々承知していた。
時々通り過ぎる人に、引きずられながらこんにちは、というハルはとても異様だったらしく、ビクッと肩を震わせ足を止める。しばらくじっと見つめられ、通り過ぎて時間が経った後に少しだけ大きな声で返事を返された。
それに朗らかに手を振り返すハルを見て背中を向けて歩き出す。
「恭弥さん・・・ハル歩けますから大丈夫ですよ・・・?」
「駄目。歩くの遅いでしょ、君。」
「恭弥さんが歩くの早いんですよー・・・」
「僕を基準として考えてよ。」
「だったらハルは遅いってなりますね。でも、ハルは普通です。恭弥さんを基準としなければ」
口を尖らせて言うハルに、雲雀は眉を寄せて前を向く。
大した反応を得られなかった事に少しだけ悲しいのか、ハルはそのまましばらく黙って次通り過ぎる人の驚愕の表情を待つことにする。
大股で歩いていた雲雀の足が、ゆっくりと止まってハルの引きずられる事によって摩擦熱が発生していたのだが、僅かに燻る程度にじわじわと熱かった。
止まっても首根っこをつかまれたままで何かと対峙しているのかどうかハルは確かめるべく、首を動かし後ろを見る。
笑顔があった。
「凄いですね雲雀さん。ボンゴレの名物になりそうな光景ですよそれ。」
「へぇ、僕達を見世物にしようっていうの?」
「そうじゃないですけど・・・ハルの服に埃がついてますけど、そろそろおろしてあげたらいいんじゃないんですか?」
「埃?ああ本当だ。ボンゴレってこんなに汚いんだね。最強マフィアだとか言われてるけど掃除くらいちゃんとしてないと舐められるよ。」
「ご忠告ありがとうございます。わざわざ掃除までしてもらって・・・ああ、君、今日からボンゴレの中で埃が出たら清掃員を処刑するって伝えといてくれる?」
「え、私ですか・・・?」
「いいからさっさとやれよ。」
「は、はいぃぃぃ!!」
真っ黒な笑顔を装備して、廊下を指差しながら通りすがりの男にそう告げる。
たまたま通りすがっただけだった男は驚き、戸惑い、恐怖に顔を染めて走り去っていった。
まだ廊下で引きずられたままで、埃を服に装着させたハルは立ち上がろうともせずにそのまま座り込んでいた。
ぴりぴりと痛い肌に刺さるのは殺気であることは簡単に想像が出来る。そういう時はあまり深入りしない方がいい。特にこの二人の組み合わせは。
「さぁて・・・ハルの服についた埃、汚いから俺が洗濯しておきますよ。」
「何言ってんの。君が洗濯するみたいな言い方やめてくれる?変態臭い。」
「安心してください。バジル君に貰った洗濯板を活用できる日が来るなんて嬉しいなぁ。って思ってるんで」
「何が安心できるのか詳しく教えて欲しいね。」
「・・・・あの・・・?」
「何?ハル」
「・・・恭弥さん、あのですね、そろそろ戻りましょうよ!」
「ああ、うん。そうだね。」
「いや、だから俺が服洗うから」
「だ、大丈夫ですよツナさん!・・・ほらほら、行きましょう!レッツゴーです!」
「いいよハル遠慮しなくても・・・」
「何気安く触ってるの、噛み殺すよ。」
ぐいぐいと雲雀の腕を掴んでいるハルに、そのハルの腕を掴んで阻止する黒い笑みを浮かべたツナに、そして不機嫌に顔の色を更に染め上げた雲雀。
このままだとアジトが半壊してしまう恐れがあり、そろそろこの二人を引き離さなければ、一ヶ月ほど前に同じ事があり悪夢再来になってしまう。
焦りを隠さないハルが「恭弥さん!早く行きましょう!」
余裕の笑みを浮かべて決して腕を離さないツナが「いいってば、着替えならちゃんと用意できるから」
眉間の皺を増やしてトンファーを片手に取り出した雲雀が「沢田綱吉、今すぐ離さないとどうなるか分かってるよね?」
ランボの治療に付き添い、もう大丈夫だと言われてぶらぶらとしていた山本が「おっ、今度はツナと喧嘩中かー?」
苛立ちを押さえて書類整理を何とか終え、ツナに提出しようと廊下を歩きながら最終確認をしていた獄寺が「10代目!書類全て書き上げました!」
コーヒーを飲もうと昨日任務で休日となり、昼まで寝て今日をエンジョイしている骸が「おや、騒がしいと思えばなんですか?この集まりは」
「はひ・・・何だか雲行きがどんどん怪しく・・・」
「何だ?お互いに腕掴んで・・・どんな遊びだ?」
「この書類なんですが、何と言うか文体があまりいまいちなんですが、どう思いますか?10代目」
「雲雀さん、アジトが壊れたらどっちに修理費負担するかまず話し合ってからしようか?」
「そんなの負けた方に決まってるじゃない。」
「・・・何だかお祭り騒ぎになりそうですね・・・」
「はひ!骸さん!ハルも連れてってください!」
「まぁ、いいですけど・・・」
さぁぁ、と、寝起きの骸が早速脱出しようと消えかかっている時に、ハルがすがりつくように涙眼で腕を伸ばしてきた。
ちらり、とツナと雲雀を見てみたが、お互いにハルの言葉は耳に入っていないようでならいいかとその手を掴んだ。
だが直ぐに叩き落とされ、骸は苦笑しつつも自分は久々の休日を満喫したいので厄介ごとはごめんですと言わんばかりの視線をハルに送って消えた。
「ねぇ、ハル。今何しようとしてたの?」
「いけないなぁ。骸なんかに助けを求めて・・・・」
ぎりぎりとハルの手首を掴む雲雀に、叩いた手を引っ込めないツナ。
自分だけ戦線離脱しようとしていたことの罪悪感と、この二人からの狙いが三浦ハルにターゲットオンされている事態に冷や汗が耐えない。
六道骸に助けを求めた三浦ハルは絶対に許すべきものではないという、神からの言葉が二人を動かしているかのようにさっきまでにらみ合っていたのが嘘のようだ。
その爽快感がまったくない黒い笑みの二つのセットは、苦笑しながら妖しい雰囲気に笑顔に少しの汗を流しながら逃げていったし、獄寺はツナに部屋の机に置いてきてくれと言われてこの場所から居なくなったし。
「・・・はひ・・・」
破壊されたアジトの瓦礫の上で、すっきりとした表情で空を見上げる三浦ハル。
軽い現実逃避のようなその光景に、雲雀は近づいて傍に座る。
「・・・綺麗な空ですねー・・・」
「うん。真っ青だ。」
「・・・何でこんな事になってしまったんでしょうか・・・」
「君のせいだよ。全部。」
同じく空を見上げ、当たり前のように呟かれた言葉にハルは黙ってしまった。
遠くから男の声で「よし、次はこの大きな瓦礫を片付けるぞー!」という声が聞こえてきて、何処か開放的なこの空気に仕事を達成した後のあの爽快感に似たものを感じている。
「・・・何で、ハルのせいなんですかね・・・」
うっすらと、口元の笑みを貼り付けて、嘆くように呟く。
ははは、と、力なく笑うその音には感情がまったく込められていない。
修理費は最終的にツナと雲雀からお互いに半分ずつ出す事になったし、屋敷の中で治療していたランボは泣き喚く声が遠くから聞こえる。獄寺は書類を捜しているようで、瓦礫を拾っては投げて拾っては投げてを繰り返している。
かけている眼鏡がずれて、汗で額に髪が張り付いている。
山本はこの状況を楽しんでいるようで、秘密基地を探検するかのように瓦礫の隙間にあるソファーの残骸を見て楽しげに口元をほころばせている。
瓦礫の上に椅子と机を置いて、優雅にコーヒーを飲んでいる六道骸。
すべてが見える。
「他の男にふらふらしてるからだよ。」
僕の妻なのに。
と。ぽつりと空に囁かれた言葉は、隣にいるハルにもちろん聞こえた。ぴくり、と反応して顔を下ろす。
雲雀も顎を引いてお互いに見つめあい。何か甘い言葉でも囁きあうのかと思えば
「・・・・それにしても・・・アジト全部壊しちゃうなんて・・・」
困った人たちです。と、許すように力なく笑った。
これもう後半からリクエストの事頭からふっとんでしまいまして・・・!!(←
由々しき事態だと分かっております・・・!
まぁったくリクエストの意味を成してないよコレ!意味ないってこれぇ!!
・・・やばい。もう完璧に自分勝手に書いちゃった・・・(汗
本当にすみませんでしたぁぁぁぁ!!!
title 泣殻