ぷしゅっ。

空気が割れる音がして、皆が顔をそろえる事は珍しいなぁ。とツナが思いながら、一応ボスとしての役割だといの一番に腕を上げて、

「乾杯!」

夜にどんちゃん騒ぎなんて、すっごい青春してるなぁ・・・なんて思ったり。

 

 

 

ビールの次は焼酎か、とツナは苦笑しつつ始めての酒の味に酔っていた。

「さすがでしたよ10代目!俺はこの日が来るのを待ち遠しく待っていました!」

「ははっ!かっこよかったぜツナー!緊張してたっぽいけどな」

ツナの隣に座る獄寺と山本が一口飲んだ酒を揺らしながらツナに話しかける。興奮で高揚している獄寺は一気飲みをしたらしくもう入っていなかった。

「あはは・・・やっぱり分かった?だってあんな大勢の前に立つなんてありえないでしょ?もう緊張で手が震えて・・・」

思い出したように手が今更ながらにまたかたかたと震えコップの中に入っている酒がぴちゃぴちゃと揺れる。

そんなツナの後ろに立ち、ごくっ、と嚥下した後に

「だらしねーぞ、ツナ。そんなんで本当にボスになれんのか?」

「けどもうなっちゃったからね」

苦笑しつつ、ありえない事実を述べる。五年前ではありえない事を言っているのは分かっている。そして未成年の飲酒をする度胸が出来てしまった事を嘆きつつ、今さっき終わった9代目の引退と10代目の就任式を夢見心地で思い出す。

強面の男達が、まるで学校のグラウンドに整列するように立ち並び、その中にヴァリアーは特別席に居た。

そこから睨みつける眼球の赤さったらもう無いよ。とツナはぶるりと体を震わす。

「・・・そういえば、俺ってあのヴァリアーより立場が上になったんだっけ・・・?」

「今更だな。」

クッ、と笑ってリボーンが楽しそうに笑う。

「もう逃げられねーぞ、ツナ。」

「そうだぜツナ。ハルもボンゴレに入ったことだしな」

「分かってるよ・・・」

「まさかあのアホ女がボンゴレに入るとは思わなかったぜ・・・」

竹寿司を貸しきり、ツナと守護者とビアンキ、そしてツナの秘書のハルが居た。

カウンターで座って飲んでいる三人の後ろの畳に腰掛け、ハルとビアンキは楽しそうに談笑していた。

ハルの猛烈なアピールにツナが揺るがされ、付き合い始めたのはつい一年前。そこまで惚れこんでくるような女の子が居るなんて思っていなかったから、戸惑いがあったけど最終的にはこういう関係になった。

俺がマフィアのボスになることも知っていたハルは、俺の傍に居て役に立ちたいんだと一直線に俺に意見を言ってきた。もちろん俺は大反対でやめろと言っていたのだが、ハルの意思はいつも固くて一直線。

猪のようにハルの目は真っ直ぐだった。

付き合うときも今も、俺はあの眼に弱いんだ。

はぁ、と小さく溜息を吐いて後ろをちらりと盗み見る。ああ、お酒飲んでるし。未成年なのに。

「おいしーですねお酒って!」

「ふふ、ハルが大人の味を知る日が来るなんて・・・何だか娘と一緒にお酒を飲んでるようだわ」

「はひ、それってお父さんが言う台詞ですよ!ビアンキさん!」

ビアンキがこちらに気がつき、ふっと笑ってハルに視線を戻す。

サングラスをしているので眼がまったく見えないが、とりあえず何故勝ち誇っているの?と聞いてみたい。

「ねぇ、赤ん坊。六道骸はまだなの?」

お酒を片手に後ろに立ち、リボーンに話しかけている雲雀に思わずバッと見上げる。

「ん?ああ、今日はこれないかもしれねーな」

「・・・じゃあこの後に戦ってくれるのは君でいいかい?」

「? 一体なんの話してるんだ?」

山本が首をかしげながら問いかけると、ああ。とリボーンは言う。

「式に出て、この飲み会にも参加してくれたら六道骸と戦わしてやるって約束したんだ。」

「ええ!?ちょ、お前そんな事簡単に決めるなよ!」

「雲雀、俺じゃなくてツナにしてくれるか?」

「構わないよ。」

「ええ!?」

「ボスになったんだ、一発殴られて気合いれろ。」

ぽん、と肩に手を置かれ、口端を吊り上げる。帽子の影になった目元はとてもぎらぎらとしていて、ツナは言葉を詰らせた。

その様子に肩をわざとらしくすくめたリボーンは、ハルとビアンキの所に行った。

「どうだ?ハル、ワインも飲んでみるか?」

「え、ワインもあるんですか!?」

「持ってきたんだ、ビアンキもどうだ?」

「ええ、いただくわ」

ビアンキが少し頬を赤らめて頷くと、リボーンはスーツの内ポケットをごそごそと探って、出てきたワインのボトル。

「手品かよ!」

「細けー事は気にすんな。」

机の上に置いたその黒い鬢。ラベルは分けのわからない英語が書かれている。唯一確認できるのは数字だけ。

「世界に一本しかないらしいぞ。」

「とんでもないの持ってきたな!」

「ツナお前どうしたんだ。さっきからつっ込みばっかりしやがって。」

怪訝そうにリボーンがツナを見る。マフィアのボスになったから舞い上がってんのかと危惧するが、ツナが眉を寄せてワインを見つめる。

「・・・ハルに酒とか、勧めるなよな・・・」

「はひ・・・でもツナさん、マフィアになったからにはこういうちょっと悪い事もしなくては、ボスの妻にはなれませんから!」

「いや・・・そーじゃなくてさ・・・」

ガッツポーズをしてツナに笑いかけるハルに、どうしても空回りしているようにしか見えない。

その一生懸命さが長所だが、短所でもある。

綻びが出て壊れなければいいんだけど・・・

「よし!皆さん飲みましょう!ほらほら獄寺さんも山本さんも・・・雲雀さんもほら、どーぞ!」

リボーンが持ってきたグラスは全員分で、元から全員に配る気だったのかと珍しい気遣いにツナが呆けていた。

だが、黒い笑みがツナに向き、少し濡れている唇を開いてなんともまぁ勝手なことを・・・!と、ツナが諦めに似た怒りを覚える。

「ボンゴレ式飲み比べ大会を開催するぞ。」

 

 

 

残念ながら、ランボはまだ10歳なのでこういうアルコールの匂いが充満する場所はいくらなんでも早いだろとツナが押しとめたのが今になってようやくよかったと思えてきた。

六道骸はまだ来ておらず、もうこのままこなくてもいいとツナは心の中で叫んでいた。

リボーンのポケットからはどんどんワインのボトルが出され、数十本も机の上に並べられた。

「まぁ、ワインじゃなくてもいいんだがな。」

「酒じゃなくてもいいんじゃないのか!?」

「マフィアには酒だ・・・いくらなんでも緑茶で飲み比べなんて無理だろ。」

確かに、リボーンが緑茶を飲んでいる姿を想像すると違和感バリバリだ。でもそれは勝手なイメージのせいであって、此処にいる未成年の俺達が飲む必要性はまったくないじゃないか!

「ヒバリ、お前飲めるか?」

「のめるよ。」

「ハル、このワインおいしいのよ。」

「はひ、それは楽しみですー!」

「よし!この中で一位になり、10代目の右腕として・・・!」

「ワインかー!初めて飲むから楽しみだな!」

全員がツナの肩にどんどん重しを乗せているように思えてならない。

肩がどんどん重くなり、地面に埋まってしまうんじゃないかと思えるくらいに不安要素がどんどん放出させられている。

この竹寿司、きっと不幸が続いて閉店してしまうに違いない。

「大まかな説明は・・・最後まで倒れなかった奴が勝者だ。」

「一番最悪の事態だろそれ!」

「よし、全員注げ」

「俺の話を聞けよー!!」

どぽどぽと注がれるワイングラス。ハルが率先して注いでいるのを見ると胸が痛い。

ハルが楽しそうにツナに差し出したグラスには、深い赤色の液体が波紋を広げていた。

それぞれいろんな思いを抱えてグラスを持ち、ハルがツナに視線を向ける。

超直感というものなのか、それとも違うものなのか分からないが、分かった。

重い腕を上げて、力なく

「か・・・完敗・・・」

ついニュアンスを間違えてしまった。

だが、全員そんな事よりも眼の前のアルコールらしく、誰もつっこまずに嚥下をした。ごくごくと喉が鳴る音と、空っぽになったグラスが並んだ。

口を男前に拭うハルは、おいしいとばかりに眼を輝かせる。

獄寺と山本は余裕の表情を見せ、雲雀はじっとグラスを見つめていた。

「ビアンキさん!これおいしいですね!」

未だゆっくりと味わっているビアンキとリボーン。ワイングラスをゆっくりと動かし、液体を揺らすビアンキ。

「でしょう?」

たしかに早飲み対決じゃないけど、もうちょっと緊張感をもってくれてもいいんじゃないかと思う。やっと二人が飲み終わり、今度はリボーンは焼酎を取り出した。もちろんポケットの中から。

「グラスに合わないんじゃないですか?」

「飲めりゃ同じだ。」

ハルの最初の疑問はまったくどうでもいいものだった。

はぁ、と重い溜息を吐いたら獄寺に心配され、あまり溜息を吐くのは制限しようと決めた。リボーンが男前に片手でどぼどぼと注ぐ様をただただ見つめて、そういえば自分も簡単にアルコール摂取を受け入れるあたり、マフィアに汚染されているなとしみじみ思う。

「第2回戦開始だ」

 

 

 

最初に脱落したのは雲雀だった。

ツナは驚き、獄寺も驚いた。だがリボーンと山本は平然とそれを受け入れ、ビアンキは軽く笑っていた。

ハルは大丈夫ですか?と聞いたが、気絶するように寝ていたので簡単にリタイアだと見て取れた。

8杯目で獄寺が落ちて、次は山本だった。そして10杯目で俺はリタイアを宣言すると、リボーンとビアンキに軟弱男と罵られた。

「・・・よし、次はウォッカにしてみるか。」

「それはいくらなんでも無理だろ!」

ちらり、とハルの顔を見るが、とても平然とした表情だ。

雲雀はともかく、あの獄寺と山本が脱落した今はとても平常じゃない状態だ。ツナですら10杯まで行ったら頭がぐらぐらしている。

だが、この中にストッパーは自分しか居ないという強靭な自尊心に似たものが、今のツナを保っている。

理性が悲鳴を上げないうちにお開きにしたいのが本音だが、

「はひー!それっておいしいんですか!?」

「ええ、結構きついけど・・・大人の味よ」

「何だか、ハル今夜とても大人の階段を上ったような気がしますー!」

ハルのそのハイテンションは昼も夜もまったく変化が無いので酔っているのか酔っていないのかの確認が出来ない。

ツナ自身が酔っているせいでもあるが。

グラスに注がれた液体を見て、匂いを嗅ぐという余裕を見せるハルはこの短時間で確かに大人の階段を上っているんだと思う。二段飛ばしで。

「よし、それじゃあ第25回戦開始だ」

ありえない数字を述べたリボーンの頬は僅かに紅潮している。

ごくっ、と一口飲んだときに変化は現れた。ビアンキだ。

眼をカッ、と見開き、しばらくすると後ろに倒れた。

「ビ、ビアンキ!?」

「いきなりのアルコール度数の上昇についていけなくなったな・・・」

倒れたビアンキの顔を見ると、眼を閉じてまるで死んでしまったようだった。だが、息をしているのを確認するとほっ、と安堵の息を吐いた。

リボーンの言葉は、自分自身に言っているような気がする。眉を歪めて、ちびちびと飲むリボーンの顔はとても苦しそうだ。苦汁を舐めているような。

「う・・・気持ち悪ぃ・・・」

獄寺のうめき声に、ミネラルウォーターを勝手に冷蔵庫から拝借して飲ませる。

酒に酔った時には水だと相場は決まっていたのだが、今まで気がつかなかったのはやはりアルコールの脅威だ。

ツナも水を飲んでいると、山本も眼を覚まし始めた。

「あー・・・やべ、俺寝てたのか・・・?」

「う、うん・・・あ、水これ・・・」

「さんきゅー」

人数分持ってきたペットボトルの一つを山本に渡すと、受け取る手が虚空を引っかくように空振り。

「お・・・?あれ・・・ははっ、ちょっと待てよツナ・・・悪戯はよそーぜ?」

「え・・・いや、俺普通にじっとしてるけど・・・」

困ったように言うと、そうなのかー。あはは。と笑う山本。まったくもっていけない。

獄寺がむくりと起き上がり、額を押さえてツナを見つめる。

「く・・・情けない所をお見せして・・・」

「いや、いいよいいよ・・・・あ、そういえばあの二人は・・・」

後ろを振り向くと今度はワインをお互いに注いでいる現場だった。リボーンの表情は最後に目撃した時よりも赤くなり、眼が虚ろになっていた。

「よし・・・第にじゅう・・・・なんだったか・・・?」

「第30回戦ですよ、リボーンちゃん!」

「ああ・・・開始だ」

あのいつも冷静で余裕綽々のリボーンがあんなになっている。

なぜか恐怖で顔が引きつってしまった。山本も獄寺も30という数字を聞いて顔の色が変わった。

「も、もう30も!?」

「・・・うわー、ハルすっげー・・・」

山本がぽつりと、冷や汗を流しながら呟いた。

ごぎゅごぎゅと飲む姿はまるでジュースを飲んでいるかのよう。その表情はとても楽しそうでまったく自分を見失っていない所が凄い。

リボーンはちびちびと、だけど常人ではありえない数を飲んでいるから当然の原理なんだけど。

「ぷはー!おいしーですね!お父さんっていっつもこんな美味しいの飲んでたんですねー・・・羨ましいですー」

「・・・これは、こうきゅう・・・だからな・・・」

「そうでしたね。ハルお酒大好きになりました!」

にっこりと、笑顔でそう言い放つハルを見たリボーンは、薄らと、フッと口元を緩めてそのまま後ろに倒れた。

ワインが零れ、全員をノックアウトしたハルはリボーンに駆け寄り、

「大丈夫ですか!?リボーンちゃん!・・・はひ!まさか毒でも盛られてたんじゃ・・・!?」

 

今日、俺の彼女が酒豪だと知りました。

 

 

 

とりあえず、皆様急なアルコール摂取はお気をつけくださいませ!!

こんなの絶対してはいけませんからね!駄目ですよ!

そしてお酒は成人してからですよ!

 

そんな注意点の多いものになってしまいました・・・

しかもグダグダでツナハルでもないし・・・!

ここらで切らなくちゃずるずると長くなりそうだったので・・・

本当駄作ですみませんでした!! orz

 

 

title 酸性キャンディー