雲雀は夢を見ていた。

虚ろで甘美など程遠いその夢の中心に立って、くるくると回っているポニーテールは三浦ハル。

ふわふわの雲が低空に漂う中、ひらひらとスカートを揺らしながら楽しそうにはしゃいでいた。

その様子を傍観するのは、多分夢を生み出した雲雀。

座ってその様子を見つめているのは、することがないからだ。

「プリンアラモード!ココア!ミルフィーユ!パフェ!ショートケーキ!マロンケーキ!!」

狂ったように叫ぶのは甘いものばかり。

ああ、三浦ハルだ。

雲雀恭弥の奥底で固められた三浦ハルのイメージはこんなものだ。

自分自身を客観視している事に何も違和感は無く、このまま夢に閉じ込められてもいいかもとぼーっとしてきた頃、

揺さぶられ、

鼓膜に乱暴に響く音、

眼をゆっくりと開ける。

 

 

 

僕には予知能力があったのかな。

そう夢うつつに思いながら、三浦ハルの前に並べられたデザートの種類を見ながらそう思う。

「はひ?どうしました、雲雀さん」

「・・・別に・・・」

「・・・ああ、そういう事ですか!寝起きには甘いものって言いますもんね!」

「言わない。」

「だって、物ほしそうな眼をしてますし・・・・」

フォークを口に含んだままそう言うハルの表情が、曇天から一つの陽射しが現れたように輝いた。

舌にじわりとしみこむ甘さに、眼をぎゅっと瞑って声にならない悲鳴を上げる。

額に手をあてて嘆息を漏らしても、ハルは何も気がつかなかった。

応接室のソファーで寝ていた雲雀は、ハルにたたき起こされていきなりデートしましょう!といわれてしまった。

寝起きで頭が回らなかった雲雀は、つい頷いてしまった。それが全ての原因だった。

一つ落ちたら二つ落ちてくるような。なだれのようなこの現状。

喜んだハルはお気に入りの喫茶店に行こうとぐいぐい引っ張り、嬉しさのあまりいつもより多く注文してしまった。

店員は雲雀恭弥の来店に怯えてはいるが、二人はそんなのまったく気にしてない。

「君はとても破天荒だよね。」

「はひ?」

口の周りにパフェの生クリームをつけて首をかしげる。その遺憾な様子にはぁ、と思いっきり溜息を吐くとぴくりと反応した。

「何ですか?」

「口・・・」

「・・・はひっ!?」

慌て口元に手で隠すハルが顔を背けると眼をはっとしたように眼が皿に開いた。

椅子から立ち上がり、ぶんぶんと笑顔で手を降る。

「ディーノさーん!」

ぴしり、と頭の中で音がした。

頭痛になる一歩手前の状況で、遠くから男の間延びした声が聞こえてくる。

直ぐにでもぼこぼこにしたいのだが、いかんせん少しだけの闘争心がディーノを視界に入れると萎えてしまう。

「ふげっ」

「ぐぎゃ!」

「ごふっ」

一人で自分を痛めつけるなんて器用なことをする。

Mなのかな。と常々思う。

道路に顎を擦り付けて熱を帯びているのか切り傷なのか、遠くから見るとそれは判断は出来ない状態だ。

やっぱりトンファーは取り出さないで正解だった。無駄なだけ。

「いやー。此処の道路でこぼこしてつまずいちまってさー!」

「ねぇ、それは並盛への侮辱かい?」

折角の優しさを無駄にした一言に、立ち上がり銀色に鈍く光るトンファーを取り出した。あわてるディーノが椅子に座り、店員に人懐っこい笑顔で注文する。

雲雀の時とは打って変わって頬を染めているあたりが人間の本質をよく表している。

「ディーノさんが一人でいるなんて危な・・・珍しいですね」

ハルもさすがにディーノのドジっぷりを知っているらしい。そしてそれが本人に自覚症状が無い事すら承知らしい。

ハルと雲雀の気遣いの言葉の意味など知らず、笑顔で社交的に言う。

「いやー、たまには一人で歩きたい時もあるんだが、どうしてかいっつもこけたりするんだよなぁー・・・なんでなんだろう」

「・・・・・・・」

「・・・きっとロマーリオさん達はディーノさんにとってのラッキーヒューマンなんですよ!」

「あー!それ俺も思ってたんだ!絶対ロマーリオ達には何かあるってさ・・・そーか。やっぱりそうなのか・・・」

腕組をして頷くディーノに冷ややかな視線を送る雲雀。ハルの苦し紛れのフォローにもこの冷たい視線を送りたかったのだが、ディーノがすべてもっていった。

「・・・ねぇ、貴方もう帰ってよ。」

「あー、そうだな。デートの邪魔しちゃ悪いしな・・・・それに恭弥もハルと二人っきりに―――」

最後の言葉を紡ぐ前に、その顔の中心にある鼻を潰す勢いで殴った。

鈍重な音が当たりに響き、更に頭から倒れるディーノの音がメインディッシュとなって終わり。

まるで慇懃な行為のように雲雀は自分のトンファーをしまう。一連の行動の瞠目しているハルは、糸が切れたかのように椅子から立ち上がる。

「な、ななななななんてことをひばりさっ・・・・!」

「なんて事をしたつもりは無いよ。」

いけしゃあしゃあと言い放つ雲雀にまた口を動かすのに忙しいハルの変わりにに、むくりと起き上がったディーノに視線を向ける。

「いってぇ・・・まったく容赦ねーな、恭弥は」

へらへらと笑っている様子は、ハルの怒りが無意味だと言っているような爽やかな笑顔だった。

場違いな声に思わず振り返り、殴られた鼻よりもコンクリートに打ち付けられた後頭部を撫でている。

「・・・あの、大丈夫、なんですか・・・?」

「ん?ああ、大丈夫だって!こんなの日常茶飯事だ」

ゆらりと立ち上がり、へらっと笑い手をふりながら歩いていった。曲がり角を曲がるまで三回も転んでいたが。

嵐が過ぎ去ったかのように、喧騒の中でぽつんと孤立した場所。

ハルは椅子に座りなおして机の上にあるケーキにフォークを伸ばす。

はむっ、と頬張る姿は小動物のようだった。

「んぅー・・・やっぱりデリシャスですぅ・・・」

「・・・そう。」

机をかんかんと指を叩いてハルを急かす。だがハルは自分の世界に入り込み何も聞こえてなどいない。

一人で楽しんでいる姿を、傍観する雲雀は怯えつつ距離をとりながら歩いている店員を呼んだ。そして怯えながらオーダーを聞く店員に珈琲一つと言うと、小走りで去っていった。

頬杖をついて、持て余している暇をどうしようかと模索する。

珈琲なんて頼まなくてもこのまま帰ればいいだけの事。

ゆっくりと立ち上がり、このまま帰ってしまおうと思ったら、

「はひ?雲雀さん何処行くんですか?」

「・・・・別に。」

「? お手洗いですか?もう直ぐ珈琲くると思いますよ?」

「・・・・・・・・・・・。」

口の端に生クリームをつけて、甘い匂いを振りまく三浦ハル。

もぐもぐと租借しながら、純粋な瞳で見つめてくる。

結構気がついているんだと思い椅子に座ると、カフェインの匂いが鼻を擽った。

 

 

 

 

一番簡単そうで一番難しかったです・・・!!

こういう・・・なんていうか、普通のカップルみたいな感じの事が苦手で・・・っていうかデートが苦手かもしれない(ぇ

私もうデートとかそういうのふっとばしていちゃいちゃさせてますからね。駄目だね。最低だね。(←

っていうかこれはデートかい?

もっといいものを書けたら・・・!

心の中で燃えてます。

 

 

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