ちょろちょろと眼の前を行き来されるのはもうなれた。

だからその動きをじっと見るのはそんなにうろちょろされたら気が散って仕事が出来ないじゃないか。という意味では無い。

頬杖をついて暇そうにしている、と思ったのならそれは正解だ。でも、暇だからってボンゴレボス秘書権、風紀財閥の雑用係の彼女に手をかしてやろうなんて思わない。

沢田綱吉が遣した僕への繋がり。ほんの少しでも何かを献上したりしなければ、守護者という役割を降りられてしまうかもという危惧からだろう。

10年前から知っていた三浦ハル。髪を切ったり眼鏡をつけたりといろいろ変化はあったけれど、中身はまったく変わってない。今の僕の現状を視野に捉え、ムッとした表情を見せる。

「雲雀さん!暇なんでしたらハルのお手伝いしてください!」

 

 

 

腰に手を当てて机に座っている僕にうえからしかりつける。少し前かがみになっているその姿を見て一言思いついた言葉。

「何か女教師みたいだね。」

「何言ってんですか!」

あからさまに馬鹿にされたような言葉に更に怒りを露わにする三浦ハル。まるで嵐の後のように書類で散らかった部屋を整理整頓をしている。大切な書類からメモ用紙まで、いろんなものが散乱する中で、必要かそうでないかの権限は僕に託されている。

そして沢田綱吉からの要請。だからこそのこの余裕に三浦ハルは燻るように怒る。

「まったく、いっつもいっつもこんなに汚して・・・もっとちゃんとしてください!」

「僕はこんなのどうでもいいから。もっと他の楽しい事をする時間に費やした方が効率的でしょう?」

「ハルも同意権です!それは誰しも思っている事です。でも皆それを口を閉ざして黙ってるんですから!」

思ってることはちゃんと口に出さないといけないだろ。と、少しずれた着眼点で言ってやろうとしたら机に持っていた書類を全部乗っけてきた。

ふふん、と腕組みをして書類よりも更に上から見下ろしてくる。

「さぁ、この書類の仕分けをお願い出来ますか?雲雀恭弥さん。」

眼鏡の奥に光る瞳がどうしても僕の苛立ちを煽る。

「しないよ。」

「何でですか?」

「面倒臭いから。」

「・・・・いいかげんにしないと、怒りますよ!?」

昔聞いた単語を思い出し、懐かしむという行為はしないけれど、ああ、そうだったなって感じで思っただけ。

そこで少しだけ興味を抱いたから、雑用係を三浦ハルに指名したんだった。

昔の余韻に浸っている僕なんて知らないで、憤慨し続ける三浦ハル。

「ハルだって、今日は本当なら休日なんです!休みだったらお買い物したりケーキ食べたり、京子ちゃんや花ちゃんとおしゃべりしたり出来るはずなのに!」

怒り方は大人なのに、含蓄される言葉は全て子供のまま。

短いボブの髪を振り回しながら、さらさらと音を立てて乱れる。

拳を握って白い歯をギリギリと音を立てながら睨みつける。

「いいから雲雀さん、早く分けてください!」

「全部捨てといていいよ。」

「ツナさんが困るんです!」

「知らないよそんなの。君が適当にしといていいよ。」

「駄目ったら駄目なんです!」

「だって、早く帰りたいんでしょ?」

「だからといって適当にしてはいけません!」

「・・・面倒くさい女・・・」

「適当な人ですね。」

お互いに対立しあいながらも、最終的にはお互いのメリットになることはする。僕も書類を仕分けるし、三浦ハルもちゃんと書類を拾ったり掃除をしたりする。

僕達はこんな事したくないんだ。

基本的に次官は娯楽に使いたいのが人間の性。そんな基本的な事を頭の中で輪唱しながら、さっさと終わればいいと書類を捲る。

 

 

 

「・・・で?」

「いえ、で?と言われても、ハルはとりあえず今日は欠席しますって事を伝えます」

電話越しでそう言われ、そっちが勝手に献上してきた三浦ハルは欠席。学校みたいに思ってるんじゃないの?此処は一応裏社会だけど社会なわけで、一応社会人としての意識が無いんじゃないの?と毒づきたい。

「何で来ないの。書類がとんでもない事になってるのに。」

「いや・・・それが俺もちょっと困ってて・・・せっかく口説こうって思ったのに。」

「・・・何それ。」

三浦ハルは沢田綱吉の事が好きだった歴史があったと思う。

こっちに来る時にスパイなんじゃないかと思って草壁に調べさせたらどうでもいい事が浮上してきた。

まぁ、その情報があるからこそ沢田綱吉の仲間という事が色濃く分かったのだけれど。

今の三浦ハルの感情は知らないけれど、昔好きだった男に言い寄られれば直ぐにころっといっちゃうんじゃないのかと想像する。簡単そうに見える三浦ハル。

「そんな私情はどうでもいいけど、とりあえず最初にやるって言ったのはそっちだよね。」

「・・・それは悪いと思ってますよ・・・俺のせいですし・・・」

「・・・ふぅーん。」

「代わりの者を向わせます・・・えっと、スケジュール帳・・・・・」

電話の向こう側でごそごそとしている沢田綱吉。直ぐに見つけて手帳を開いて見て言うだけなのに、どうしてこんなにも時間がかかるんだと苛々していたら。

「・・・・すみません、スケジュール帳ハルが持ってるんでした・・・」

申し訳無さそうに、そして絶望したように呟いた。

これは早急に三浦ハルと連絡を取る必要がある。はぁ、と溜息を吐いて譲歩の言葉を言う。

「もういいよ。とにかく三浦ハルを引っ張り出して此処につれてきてきれたらいいよ」

「・・・・いえ、それがですね・・・行方不明・・・っていうか、そこまで大事じゃないんですけど・・・」

「・・・はぁ?」

「・・・えっと、俺の彼女を振ったら怒られて、行方不明になりました。」

淡々と言われて、頭の中で状況を出来る範囲で整理する。整理したところで今の心境が揺れ動くとはまったく思わないけれど。

「本当私情だね。」

「はい・・・すみません、ヒバリさん・・・」

電話越しだからなのか、昔よりも僕にびくつかなくなったような沢田綱吉。無言で携帯電話の通話を切って、アドレス帳に無理矢理登録された番号にボタンを押す。

プルルルル、プルルルル、と音が聞こえる。何となく出なければいいけど。と思っている自分とこの行動の矛盾が垣間見れる。

でもブツ、と音がした。

「はい、もしもし。」

「何してるの君。」

「・・・あー、すみません。ちょっと今日風邪を引いちゃいまして・・・」

沢田綱吉が理由を話してないと思ったのか、言い訳を取り繕って僕から逃れようとしている。

「電話があったよ、沢田綱吉から。」

その一言を放つと、向こうではしばらくの沈黙。

「勝手に休むなんていい度胸してるね。」

「・・・それは、すみません・・・でも、ハルも負けられないんです。」

「くだらない。」

「確かにそうですね。」

反論するかと思ったのに、違う反応が返ってきて少し眼を細める。

「でも、ツナさんに負けるわけにはいかないんです。ハルのプライドにかけても。」

絶対に、駄目なんです。そう決意をした声で言われても、僕にはなんとも思わないし関係の無い事。

「そう。」

その一言が限界だった。その決意を証して、はいわかりましたじゃすむ分けない。

「けれど、それだけで仕事を休んでいい理由にはならないよね」

「う・・・」

「負けようが勝とうがどっちでもいいから早く此処に来て書類整理してよ。」

「・・・む、無理ですよ・・だって、今日本に居るんですから・・・・」

「・・・・・・・」

僕もふと、帰りたくなる故郷の場所。大好きな並盛に帰って、そこでやっぱり秩序として君臨し続けたいという気持ちはある。それは日々垣間見るかのように現れる。

だが、仕事やら今もこの散らかった書類やらを片付けなければならないから、帰る事も出来ないのに。

それがあんな馬鹿みたいな女が簡単にしたかと思うと苛々する。

真面目に誰かの下につくなんてやっぱりやめよう。赤ん坊と戦えるなんてにんじんをぶら下げられても、噛み付いて食べれなければ意味が無い。

「・・・・そう。」

「・・・で、でも帰ったらやります!残業しますから!」

「いいよ。そんなの」

「・・・怒って、らっしゃるのですか・・・?」

「ううん。もうやめる。仕事。」

「・・・・・・はい!?」

電波が悪いかのような返事が返ってきた。

「何かもういいや。僕も日本に行く。」

「え、え、え・・・!」

「何?何か問題でもあるの?」

「・・・いえ、別に無い・・・です、けど・・・」

「だったらいいでしょ」

「・・・・・あの」

「何」

 

「・・・ハル、帰ります・・・」

 

 

 

此処で帰って止めなくちゃ、ツナさんに迷惑がかかっちゃう!とか思ってるハル。

でも雲雀さんは本気でもう辞めようとか思ってるから意味ないw

 

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