暑さ厳しい夏の夜。

ああ、とツナはあたりを見回した。

人込みの波。そして汗のにおい、人の気配。

「・・・・どうしよう・・・」

情けない声を出してはぁ、と溜息を吐いた。

「ハル、大丈夫かなぁ・・・・」

この人込みの中、あのポニーテール。帯に差し込まれた団扇を見つけようと視線を張り巡らせる。

神社の会談に座ると、人込みから吐き出された稚魚のようなツナはぱたぱたと、人の暑さにやられたようにうなだれた。

今も眼の前で行き来する人に、ハルを探していた。

折角のデートが台無しだ・・・

初めてでどうしていいか分からなくて、手をつなぐのもすっごい勇気がいるし。それに何よりハルのあの笑顔を見ていると緊張して何を離せばいいのか分からないし。

ツナさん、ハルすっごい楽しいです!誘ってくださってありがとうございます!と、りんご飴を持ったハルに言われて、有頂天になっていた。

もっと注意深くしていたらよかった。

人込みの波の中、ありったけの勇気を出して手を握ればよかった。非力だけど、繋がった手はとても心強いものだっただろうし。

小さい頃の記憶が蘇ってきた。自分から見ようと思って開けた記憶ではないが、無意識になだれ込む生温いような辛いような記憶。

小さい自分が今とは違う立場。でも、探しているのは変わっていなかった。大きな大人が高層ビルのように立ち並び、あまつ動いている姿は怖くてたまらなかった。

誰もが前を見て、隣に居る誰かに話しかけ、屋台に眼を光らせて、決して見下ろす事は無かった。見下ろすのならば靴紐が緩んだ、もしくは自分と同じ立場の小さな子を探す保護者などしか居ない。楽しいこの夏の夜の祭りを、こんなちんけな迷子を助ける為に費やそうという人間は居ない。

それが小さな自分にもひしひしと分かる世知辛い世の中。

すりむいた膝がとても痛かった。

涙がぽつりと、その膝の上に落ちるものだからなお痛かった。

膝を抱えて泣いていると、母が自分を見つけて安堵の息を漏らした。手を指し伸ばされ、涙を拭きながら握った。その瞬間に怒られた。

「もう!お母さんの手を離しちゃ駄目って言ったでしょ!?」

「ご・・・ごめんなさい・・・っ」

「・・・・まぁ、よかったわ。ツッ君が誘拐されて無くて」

ふわっと笑った顔は、もう怒りなど無くて、元の楽しい祭りを楽しもうという笑顔だった。

不安だった感情は薄れ、涙も薄れ、目尻は多分赤くなっていただろうけど、笑顔で返事して歩き出した。

頬杖をついて、それを思い出す、眼を閉じずに、行きかう人込みを見つめながら思い出した。

懐かしいなぁ。あんなに小さい頃の事をどうして覚えていられたんだろうか。どうせなら英語の単語とか漢字とか覚えたほうがいいのに。と、ふっと息を漏らす。

カンカンッ、と、境内を下りる音がした。この下駄で歩くような音は、この日以外に家庭教師がおじさんのコスプレをしていた時の下駄の音と良く似ていた。

ああ、そういえば、ハルも履いてたなぁ・・・

「ツナさん!」

「うわぁ!」

まさかの後ろから出現したハルに、そのまま階段の数段上に座っていたツナは顔面から落ちた。

そんなツナを心配そぶりを微かに見せたが、怒りを表す為にグッと我慢した。

「もう!ツナさんってば何処に行ってたんですか!?」

「なぁっ!迷子はお前だろー!?」

「違います!ハルはわたあめ買いに行くので待っててくださいね、って言ったじゃないですかー!」

「そんなの聞いて・・・・」

ふと思い出した射的の店。その二軒ほど隣にわたあめの店があったような・・・

そして、その射的のライフルに似た形を見てゾッと思い出したあの銃口の闇。そして金髪の鬼のような軍服を着た赤ん坊を連想させてしまった。

もしかして、その恐怖に身体を震わせている時に声を掛けられていたのだろうか。

それなら聞いていないだろう。あまりにも鮮明に思い出せてしまった故、恐怖もリアルに感じ取れた。

「・・・・あー・・・」

「・・・もう、いいですよ。さて、これから型抜きしましょう!」

片手にわたあめをまだ持ちながら、かんかんっと軽快な音を立てて階段を下りてきたハル。

差し出された手に面影を重ねて、迷わず手を握った。

「ツナさん離さないでくださいね?また迷子になっちゃハル、また警察に連絡しそうになっちゃいますから」

「ええ!?何でだよ!普通は放送かけてもらうだろー!」

「気が動転しちゃって・・・だって、ツナさん誘拐されやすそうなんですもん」

その言葉もまた面影を重ねた。

だが、今と昔は違う。男としてショックを受けて肩をがくり、と落とす。

そんなツナを無視して人込みの中にまた入ろうとするハルに引っ張られ、型抜きの店を捜し歩く事になる。

花火が打ち上げられる時間まであと10分。

 

 

 

季節感どうよ?え、微妙?だって暑いんですもの。

うーん。6月だから、もっと梅雨っぽいネタにしようと思ったのですが、この尋常じゃない汗の量をべたべたと感じているとこんな事に・・・

ツナハルはすっごい爽やかというか、ツナは引っ張っていくよりも引っ張られる感じがあったので。やっぱり王道を尊重して。

結構難しかったです。ツナハル。書いた事があまりないから・・・

 

リクエスト、ありがとうございましたーww