不穏な影とは正反対に、ルッスーリアとハルはお茶会を楽しんでいた。
淡い白のティーカップ、ふわふわのレースの紙の上に、申し訳程度のクッキーがこれまた白いお皿の上にのっている。
「はひー・・・もう、天才ですよ・・・ルッスーリアさんっ」
「ハルってば、言い過ぎよー!おほほほほほほっ」
満更でもないように高々と笑うルッスーリアと、うっとりと味を噛み締めているハル。毎日一日一回はこれが見れる。
動物園じゃないが、ヴァリアーの隊員は見ている。談話室の窓から。
最近は暖かいので、クーラーや暖房なんてわざわざ入れなくても窓を開けたら丁度いいですよー。と言われたのであけている。
「ったくさぁ、あのオカマ調子乗ってるよね。オカマのくせにさ」
「あ゛あ゛?」
椅子の背もたれに腕を組みながら、暇をもてあましていたスクアーロがすかさず相槌を打つ。
「いっつもハルと一緒でさー。ムカツク」
「アホか。カマだから出来んだろ。俺達が同じ事してたらボスに消されるぞぉ?」
「・・・・でも、あいつ男じゃんっ!何でボスほっとくんだろ。信じらんねー。」
「アイツはオカマだからだろぉ?」
「でも男じゃん。」
「・・・・・・」
「いざとなればハルを襲えるわけだし。」
「・・・・・まぁ、そうだがなぁ・・・・だが、ハルより俺達の方がやべーだろ。」
「・・・・あー、ボスあの変態殺してくんないかなー。」
「・・・・・・」
そんな事を話しているとは露知らず、そのボスは自室から睨むようにその二人を見ていた。談笑している二人のうち一人を凝視している。
殺気を送ってもびくりともしない。何故こうも図々しくなったのだろうか。我が部下は。
手に持っていたグラスを握りつぶしてしまうくらいに憎らしかった。
あらあら、ボスってば、嫉妬してるのねぇ。殺気がばんばんくるわぁ。別に嬉しいわけじゃないけど、意識されてるって思うとドキドキしちゃうわっ
まぁ、本当の目的はハルなんだろうけど。分かってるわよ?もちろん。
そんな二人を見るのが私の楽しみなんだし。でもねぇ、ちょっとちゃちゃ入れしちゃいたくなるときもあるじゃない?
一直線の道よりもうねうね曲がっている道とか、一種類より二種類っていうか。とにかく新鮮さを与えたいわけ。
嫉妬するボスも見てみたいし、そんなボスなんてこれっぽっちも知らないハルとか。
素敵よねぇ。本当。
「ルッスーリアさん?」
「ん?何?」
「はひっ、酷いです。ハルの話聞いてなかったんですか?」
「うん、ごめんね?・・・なんだったかしら?」
「ですから・・・その、ボスは本当にハルの事好きなんでしょうか?」
「・・・ん?」
「時々、不安になるんです。あのボスがハルを好きだなんて、嘘みたいで、ありえなくて・・・それにハル、色気なんてないし・・・ハルのいいところなんて何も無いですし・・・」
そうそう、こういう何にも分かってないハルとか。ねぇ。
純粋無垢というか、自分に問題があるんじゃないかとか。そんなのまったく無いのに。ボスがべた惚れしているハルにそんな心配は無用だというのに。
「そんな事ないわよ!ボスはハルにメロメロなんだからっ」
「はひっ!そんな事無いですよっ・・・ボスは、そこまで・・・」
ごにょごにょと口ごもる。
「ハルはボスの事好きなんでしょう?」
「もちろんです!」
「だったらボスもハルの事好きに決まってるじゃないのー」
「はひ・・・どんな理由ですか、それっ」
「恋に理屈なんてないのよー!おほほほほっ」
「そりゃ、そうですけど・・・何か、此処最近ボスの様子がおかしくて」
「え?」
「何か・・・変なんです・・・ぴりぴりしてるというか・・・仕事、何でしょうか?でも、あんまり仕事は無いです。いつもどおりなんですよ・・・」
「あらー」
そうなの?という風に返事をしてみたけど。本当は知ってるから白々しいかしら。と思ったんだけど、ハルはまったく不思議も違和感も無かったようで。
「何かあったんです・・・いやなことでもあったんでしょうか?」
それはね、多分今よ。いーま。ほら、ボスの部屋見てみなさいよー。すっごいわよ。嫉妬の塊よ?怒ってるわよー?でも殺気をハルにぶつけないように注意してるのよー?あー。もう楽しすぎるわぁっ!
「・・・・・ルッスーリアさん?」
「んー?・・・そうねぇ、とにかく、ハルが近くに居ればそれでいいと思うわ」
「・・・・・そうなんですか?」
そうよ!
「それがボスにとって一番いいのよ。」
「そうですか、ねぇ・・・」
「そうよ。絶対そうなんだから。」
私が納得したとしても、ハルにしてみれば何の事かさっぱりなんでしょうけど。ね。だからそんな不思議そうな顔して首かしげてこっち見てるんでしょう?
ハルの顔を見て、少し思い出す。
ウイスキーを割った後、瓶やらグラスやらその他もろもろ。とにかくアルコールの匂いがきつかった。
高級な赤のカーペットの上に染みが転々と、もう全部濡らしてしまっていた。
そんな光景を、当たり前のように見れるようになったのは仕方の無い事だと思うのよ。だって、昔も、これからもこんな事で動揺してちゃ、慣れなきゃヴァリアーの幹部にはなれないのよ。
ボスはまったく動かず、ずっと殺気を放っている。
これには少し動揺しちゃったけど。
「なぁに?ボス」
いつもの調子で言えた。
「・・・・テメェ、どういうつもりだ?」
「はい?」
「ハルにべたべたとくっつきやがって」
「ああ・・・・それはですね」
「るせぇ」
手近に会ったウイスキーの瓶、あ。あれは確かこの間スクアーロが買ってきたやつじゃない?
その瓶を私に向かって投げた。もちろんよけた。
ガシャンッと音が響いて、またカーペットに新しい染みを作った。
「・・・ボス、私は女よ?」
「オカマだろうが」
「違うのー!女よ!・・・まぁ、百歩譲って?オカマだったとしても、心だけは女の子なの、乙女なの。」
「・・・・・・」
怪訝そうな、軽蔑するような眼で見つめられるけどいつもの事だからスルーよ
「乙女なのに、クッキーを焼いて食べてくれる人なんて居ないでしょ?しかも女の子なんてまったく気配も無いし。だから寂しかったのよ。無理矢理スクちゃんやベルちゃんを付き合ってもらっても、殆どが殺伐とした感じになっちゃって・・・耐えられなかったのよ。でもね、ハルが来てからは変わったのよー?もうね、お姉さんみたいな・・・妹が出来た気がして・・・だからね。ボス」
少し、饒舌すぎたかしら。でも、此処までボスが聞いてくれるとは思わなかった。また瓶を投げられるんじゃないかと警戒していたのに。これもハルの影響だろうけど。
「いくらボスといえど、ハルはそう簡単に譲らないわよー?」
おほほほっ。
高らかに笑って、切れて殺されないうちに部屋から脱出した。廊下を走っていると後ろからドガーン!と大きな爆発音が響いた。
爆発の熱風が背中を押してくれた
そんな事があってから、ボスから私への警戒はさらに酷くなって、は、無かった。窓からこっちを監視ばっかりして、まぁ、殺気は飛ばされているけど。
うふふ、そんなのへっちゃらよー!
「ハルからキスとかしちゃったらだいじょーぶよっ」
「はひ!?」
「それか、ハルから夜のお誘いとか・・・」
「なっ・・・なななななななっ!!!」
「あらー?そんなにどもる事ないじゃなーい」
「だ・・・だだだって・・・!」
「大丈夫よー。ボスだって理性ぷっつんいって殺しはしないわ」
「なあっ!?」
真っ赤になって涙眼で、あわあわとどうしていいのか分からないようで、顔を覆って机にうつぶせた。
「・・・そんな、破廉恥な事・・・できませんっ・・・」
「あらあら・・・ごめんなさいねー?冗談だったのよー?」
「うー・・・」
羞恥で顔を上げられないようで、髪の間から見れる真っ赤な耳がかわいくて
「ハルってば、ピュアねぇー」
と呟いた。
「っ・・・」
背中にいきなり刺さるような殺気が一気に送り込まれた。
ああ、駄目だわ。そろそろ私殺されるかも。
「ハル、ハール!」
「はひ・・・?」
「じゃあ、ボスの所行きましょうか?」
「・・・・・はひ!?」
「誘いにー」
「え・・・ええ!?じょ、冗談なのでしょう・・・?」
「んー・・・やっぱり、本気って事でっ」
「え・・・えええええ!?」
叫ぶハルの腕を取って無理矢理屋敷の中に入る。あ。これじゃあボスから見えなくなって更に怒り倍増かしら。
でも、直ぐにボスの部屋に行ったら関係ないわね。生贄を差し出せばボスの怒りも静まるでしょうし。
「はっ・・・ひいいいい!」
生贄なんていってごめんなさいねー。ハル
でも、ボスにはやっぱりハルが一番だから。
殺気ただようボスの部屋の前にきたら、ちょーっとだけ身体が震えちゃったわっ
いきなりドアを開けてハルを投げて、そのまま閉じてダッシュ。
「ごめんなさぁい!ハルーー!がんばってねぇ!」
ドア越しにハルの叫び声が聞こえた気がするけど。ダッシュしているうちに聞こえなくなったから気にしないわっ
翌日からボスからの殺気が少し減った気がする。もしかして、いや、もしかしなくてもハルがやってくれたのかしら。
「ハール」
「はひっ・・・」
ぽん、と肩を叩くと異様に反応される。そりゃそうだと思うけど。少し悲しいわぁ。
「ルッ・・・スーリアさん・・・」
「昨日はごめんなさいねー?」
「あ、いえ・・・なんか、ボスが殺気を飛ばしてたらしいですし」
「あら」
ボスから聞いたのかしら?それともベルちゃんあたりかしら。まぁ、それは置いといてっ
「で、昨日はどうだったの?あの後っ」
「・・・・・・」
ハルは真っ赤になったり真っ青になったりを繰り返して
「・・・激しかったです・・・いろいろ・・・」
まぁ、爆弾発言ですこと。
あとがき
ルッスーリアが分からない。
ボスも分からない。
私がわからない。
つーかこれはザンハルじゃなくないか!?と思ったのは、多分正しいと私は思います。(←
もうわけわかめです。すみません・・・ orz orz
title 泣殻