餌付けされている。

それは前々から微かに分かっていた事だった。フォークに誘惑を刺して、口に突き出される。口を開けて中に入れてしまえば、誘惑のすべてが身体を支配して脳を痺れさせる。

だが、一度その誘惑を口にしてしまうと。直ぐに熱が冷める。

この一口が、どれだけ重いものか、どれだけ罪深いものなのか。ハルはよく知っている。知りすぎていた。

知ったときにはもう遅かった。すべて取り返しのつかないものになっていた。足元を見て絶叫した。洗面所にて、お風呂上り。肩に掛けているタオルはまったく重たくない。だから自分の体重とはまったく関係の無いものだ。

だが、そのタオルを投げ捨て、もう一度乗ってみる。多分。あのタオルは重いんだ。重すぎて重すぎて、ダンベルくらい重いのだ。

分けの分からない言い訳を心の中で咆哮して、一息吐き、乗った。

何も変わらなかった。また叫んだ。でも変わらない。その事実は揺るがす事を許さなかった。

甘い甘い、誘惑の香りを漂わせて、それと共にあるさらなる引き立て役の紅茶。応接室はヘンゼルとグレーテルのお菓子の家のようだった。

魔女ならぬ、悪魔が住んでいる応接室に、ハルは今日もふらふらと行くのだった。

 

 

悪魔が住んでいる並盛中を見上げた。校門の前で、鞄を片手に持ち、仁王立ちで見上げていた。

生徒は居ない。居たとしても変な眼で見られるだけだ。

応接室にいるだろう、雲雀恭弥は此処からは見れない。でも部屋の中からなら此処は丸見えだ。何だかそれはとても癪じゃないか。

ニヤニヤ笑っているのだろうか。あざ笑っているのだろうか。

今日こそ!今日こそは断るんです!

拳を作って決心していた。校門から出てくるのは、リーゼント。

「三浦さん。」

「草壁さん。」

「・・・・・・」

「・・・ハル、今日こそは、がんばります。」

「・・・・・・」

草壁は何も答えなかった。不穏な空気が漂う中。その空気で顔をゆがめたのか。それとも他の理由なのか。

ハルには分からなかった。草壁は背を向けて校内に戻った。ハルもそれを追いかけるように歩いた。

毎日これだ。

雲雀恭弥は草壁を迎えに来させている。それは、前来たときにツナが居たから、それについていって約束をすっぽかしてしまったからだろう。

だが、ハルと雲雀は付き合っているわけでもない。約束も、してはいない。

だからそれは不自然。不条理じゃないかと講義した。雲雀恭弥は頑として認めなかった。

次の日には草壁が借り出されていた。前は家まで来ていたが、ハルが並盛中まで来ると分かったら校庭からの迎えになった。

ハルは雲雀の考えが分からなかった。何故こんな事をするのだろう。別にいじめられているわけじゃない。暴力を震わされているわけでもない。雑用をしているわけでもない。ハルは、風紀を乱しているのだろう。と、自分で思っていた。

雲雀にとってみればいい存在じゃない。他校の生徒が侵入してきたら、フレンドリーにいらっしゃいませ。と歓迎するはずも無く。やっぱり、害なのだ。

だが、フレンドリーにいらっしゃいませ。と歓迎され、迎えが居て、ケーキを食べさせられ。帰る。

何故だろう。

太らさして後で食べようと言うのだろうか。

草壁の背中を見つめながら考えていた。一方の草壁は、まだ顔を歪ませていた。

今日こそ、やめてしまうのだろうか。断るのだろうか。もう来ません。と、言ってしまうのだろうか。

ハルからしてみれば当たり前の事だろう。迷惑極まりないと思う。家に押しかけられ、応接室に連行され、ケーキをバクバクと食べさせられている。

だが、三浦ハルはケーキが好きと言っていた。だからほんの少しだけでも不快感はないだろう。

買っているのは高級ケーキなのだし。味は違うだろう。おいしいのだろう。

だが、いつも来る時間帯にこなかった三浦ハル。苛々していた雲雀恭弥。それを震えてみていた自分。

さらに絶望的だったのが、三浦ハルが沢田綱吉の所に行ったと聞かれた時だった。

それを、あの委員長に報告するのは自分だ。副委員長なのだから、当たり前だと言えば当たり前だ。ぷるぷると震える手を押さえ込み、ノックする。

いつもより格段に低い声に背筋に悪寒が走った。

中に入って、報告した。

三浦ハルは、沢田綱吉と一緒に、帰った。と。

裏返ったりかすれたり噛んだり、そんな声でも聞こえ、理解したのだろう。委員長のドス黒いオーラの量が一気に噴出し、その後、応接室は戦場と化した

トンファーを出し、いろんな所を殴り壊し蹴飛ばし。

もうそれはとんでもない事になってしまった。後でもちろん沢田を噛み殺しに行った。

そんな事があった故、三浦ハルが委員長の前から消える事がとても怖い。

もう来ません。ハルはツナさんが好きなんです!

と、本人の前で言ってみたら、一体どうなってしまうのだろうか。

考えるだけでおぞましい

「・・・・三浦さん」

「はひ。」

振り返って、階段の数段下の三浦ハルを見る。見上げて驚いた顔をしている。もしかして、彼女も考え事をしていたのだろうか

「・・・委員長は、人と馴れ合いません。」

「・・・・」

「でも、貴方とは馴れ合ってます」

「・・・・・」

「・・・・・それだけ、です。すみません。」

また階段を上る。自分から言う事じゃない。委員長から言わねば意味が無い。

色恋沙汰には無縁の人間だからか、よく分からない。でも、とにかく本人同士が話し合わなければいけない。本当の事なのに、他人から知ってしまったら、何処か曖昧でいい加減になりそうだ。

「・・・草壁さん」

「はい。」

「この階ですよ?」

「・・・・・」

まだ上がろうとしていた足を戻して降りた。情けない。

 

 

察した。

いつもと違う。と。

雲雀恭弥は今日もまた、ケーキと紅茶を用意して三浦ハルを待っていた。ソファーに腰を下ろして腕を組みながら。そんな雲雀恭弥が、三浦ハルを人目見たときに瞬時に分かった。

明らかにいつもより険しい顔をしている。力が入っている。

今日こそは、今日こそは言ってやる。という感じ。何となく分かる。

でも、それは許されない事だ。

「ハル。」

「・・・・雲雀さん、ハルはですね」

「おいで」

「昨日体重計に乗って吃驚です。アンビリーバボーです。」

かみ合わない。

「ハル。」

「もうとんでもないことになってました。一ヶ月に一度にたくさん食べると言うハルのスタンスを崩され、雲雀さんに餌付けまがいの事をされている今。」

「・・・・・。」

立ち上がる。

「ハルのお腹周りはとんでもない事に・・・むぐっ」

一口サイズに差しているフォークを口に突き刺す。ぐいぐいと押していると諦めたように口を開き。含み。食べる。

雲雀はこの食べている顔が好きだった。もぐもぐと口を動かしている姿は本当に小動物。リスのようだった。

人々がペットを愛玩する理由が最近分かってきたのはこのおかげ。

ごきゅ。と、いい音をして押し込んだハルがまた眼に炎を灯して

「ですから!ハル、決別します!ケーキと雲雀さんに!」

「・・・・・・・・は?」

「・・・ですから、決別します!愚かな自分と!」

「・・・・・何言ってんの?」

「はひ?」

「僕から逃げるって?」

「逃げるというより、決別です」

「同じだよ。」

鋭い眼で捉える。ハルはびくっと震えて、固まって、震えている。その姿にさえすべてが愛しいと思えるのは何故なのか。狂愛なのかもしれない。

「駄目だよ。逃げるなんて。」

「何でですか!」

「僕が許さないから。」

「何ですかそれっ・・・・え・・・」

ぎゅうっ。と、抱きしめる。ああ、やっぱり小さいな。と思いながら

「は・・・はははひっ!!」

「・・・・・・・」

あまりにも変な声を出して腕の中で慌てるハルを見下ろす。ふわっと香る何かのシャンプーの匂い。

近くに来たら、微かにしか分からなかったのに。

頭に鼻をくっつけて吸い込む。

「・・・いいにおい」

「なぁっ!?」

まわしていた腕の片方を首に持って行き、撫でる。項から背中の少しのライン。そして耳の下あたり。

すべすべ。

触っているとぷるぷると震えているのが分かった。

「なっ・・・ななっ・・・」

何か、本当

「かわいい。」

「はひぃ!?・・・ひっ、雲雀さん・・・だ・・・大丈夫ですか!?」

「何が?」

「だって・・・だってだってだって!おかしいですよ・・・!」

「そう?」

開き直ると言う行為はあまりにも楽しいとしみじみと思う。楽しいと言うか、楽というか。とにかく痞えていたものが無くなった感じ。

「そう?って・・・」

「それよりも。」

「はい?」

「離れないよね?」

「・・・・ああ・・・・って、だから何でですか?」

「嫌だから。」

「だから、その嫌って・・・なぁ!!」

また振り出しに戻ってしまったので、もうどうでもよくなってハルの前髪を食べていた。

「おいしくない。」

「でしょうね・・・じゃなくて!ああもう!」

ぐいぐいと顔を離させる。しかも、そのままついでに腕の中から離れて行った。

軽く舌打ちすると、少し怯んだ。でも

「・・・・とにかくですね!ハルは、ケーキは食べないんですからね!?」

明日来ます!でも食べません!それでいいですよね!?以上です!

そう叫んで逃げ行った。

 

階段を下りているハルとすれ違った草壁は、焦りながら応接室に行った。

ああ、駄目だったのか。言ってしまったのだろうか。怒っているのだろうか。それとも委員長が何かしてしまったのか。

三浦ハルの顔が真っ赤だったから。

開けっ放しのドアに気づき、慌てて歩みを緩め。覗く。

其処にはいつもどおりの委員長が何か考えていた。その姿にほっと一息。だが、覗いていると言う事に気が付いてしまったら。何をされるか分からない。

触らぬ神に祟り無し。だ。

 

一人残された応接室で考えた。しばらく考えた。

「明日は、ねこじゃらしでも用意しておこうかな。」

と呟いた。うん。それがいい。と、また呟いた。

 

 

あとがき

もうね。謝るしかないです・・・

 

何が書きたかったのか・・・本当。もう、何が書きたかったんでしょうか!?(聞くな

もうさぁ。最後さぁ。どうしようかとかぁ。スランプでぇ。前半はテンションで行けたけどぉ。(誰なんだよ。

・・・無理だった・・・・orz  orz

甘甘じゃないし!

あー。もう何か・・・やるせない・・・

 


title MasQueRade