「パパ。」

呼びかけに応じないのはいつもの事だが、その確率は最近は低くなってきている。

物心ついた時から数えてみると、最近背中に呼びかけると振り返ってくれる回数が大きい。普通は小さい頃にかまって大きくなるにつれて鬱陶しがるのが普通なのではないかと思うが、父にそんなモノを求めても仕方が無い。

無言で顔だけ振り返った父親を見上げて口を開く。

「ママは?」

「知らん。」

「今日、仕事じゃないよね?」

「気で探れば分かるだろう。」

「したけど、家に居ないんだよ。」

「範囲を広げて探せ。」

的確であり投げやりな言葉を残して廊下を歩いて行ってしまった。

範囲を広げろと言っても、まだまだ幼い自分と、数多の死闘を繰り広げた父親とでは大きな差がある。だからこそ探してほしいと思ったのに。

ポケットから取り出したプリントを見て、どうしたものかと頭を掻いた。

どうでもいい無いようなのだが、親のサインがいるもので、出さなかったら出さなかったで学校から家へ電話があり、どうしてママに渡さなかったの!?と言われるに違いない。

「・・・あ、そうだ。パパでもいいんだ。」

入学してからプリント物はずっと母親に見てもらっていたため、先入観があった。先生も「お父さんかお母さんにサインしてもらってねー」と言っていた。

重力室へ歩いて行った父の背を追いかけるように廊下を走る。リビングにある筆立てからボールペンを一本抜いて外へ出る。

静かな電気モーターが動く音が聞こえるが、父の気はまったく揺らいでいない。時間も経っていないしきっと今入ったに違いない。

鍵がかかっているドアの前に立ち、ノックしようと手を振り上げたが中まで伝わらない事に気がついた。

「・・・パ、パパー!」

アイツ、私の声が煩いからって父さんに防音加工させたのよ!もう!と、母が昔を思い出して憤慨していたのを覚えている。そしてそのまま父に掴みかかり、煩いとはどういう事なのよ!といきなりキレた母に父が呆れたように溜息を吐いていたのを思い出す。

けどいきなり外から緊急停止ボタンを押したとしても、父は不機嫌になってしまう。

「今度は何だ。」

「あ、」

気を探れと言ったのは父だった。

まだ息も切れていない。額に汗は滲んでいない。

「あ、えっと・・・」

心の準備が出来ていなかった。手に握るプリントがぐしゃ、と音を立てた。

「何だ」

父の視線がプリントとペンに向けられ、慌てて父へ両拳を突き出すように押し付けた。

「こ、これにサイン、してほしいんだ・・・!」

迅速に、俊敏に、ごちゃごちゃと遠まわしにすると怒られる。

ストレートな言葉で言えば、父が怒ることはあまりない。

無言の空気の中、広い庭に涼しげな風が一つ吹いた時、父の手がプリントとペンを奪った。

そして無言のまま、さらさらとペンを走らせる父を見上げ、ぽかんと口を開けてしまった。

「これでいいのか。」

何と言うか、先入観以前の問題で、行動を起こす事をしなかったのは父を一人の人間として見た時、孫悟空とはまったく違う父親という立場であって、つまりはどう転んでもあのような楽観的な人間になれる人では無いわけで。

とにかく、これからは父親に頼るという事をしてみようと思う。一般的なラインで。

「あ、ありがとう・・・」

「・・・フン」

愛想が無い父親がまた重力室へ入っていった。

胸の奥からこみ上げる熱いものに揺さぶられそうになりながらも、暫く閉まったままの重力室の扉を見つめ続けた。

プリントに書かれた文字は初めてみた綺麗な父の字がそこにあった。

 

 

何が書きたかったかというと・・・

ベジとトラですよ。ええ、もうそれ以外に何も無いからこんな事になっているのです・・・・うぅ!!(逃亡

 

固い。何もかもが固いっ

 

 

 

 

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