誰かが怒られている声が聞こえる。
怒っている、怒鳴っている人間なら簡単に分かる。
いつもいつも濁点ばっかりつけて、喉を潰せ潰せと毎日思っているのに中々うまくいかないものだ。と夜寝る前ベッドの中で呟いてみたりした事があったように思えるのは、多分言ってない事なのだろうと思う。
曲がり角から顔をこっそりと覗かせる。蛙の被り物なんてもうどうでもいいですー。
蛙のせいで見つかったら見つかったで苛つくが、慣れなくては一生この蛙と付き合ってなど居られないだろう。
まぁ、いつかは外すつもりですけどー。
とにかく、どこかの家政婦みたいなそんな感じで覗いてみる。壁から完璧に蛙の片目がミーと同じように出ていて。
ムカツクったら無いですねー。お前生きてんのかって感じですー。
さて、家庭の事情じゃなく、職場の正直どうでもいい事情を見てみましょうー
「う゛お゛ぉぉい!だから、いつもいつも言ってんだろぉがぁ!報告書はさっさと出しやがれぇ!!」
手をこっちによこせと動かしながら、嫌味ったらしくそう叫ぶ。
ぎゃんぎゃん吼える鮫の前にはハルセンパイと似非王子がいた。どうしているのだろうか。
そして、どうしてハルセンパイが申し訳なさそうに頭を下げているのか。
そんなハルセンパイなんて見てないかのように頭に腕を組んで、片足をぶらぶらと揺らし、口笛を吹くんじゃないかと思うくらい唇を尖らせている堕王子。
「知らねーし。そんなの」
「知らないですむかぁ!俺がボスに怒られんだぞぉ!」
「それこそ知らねーし」
「んだとコルァ!!」
「はひ!す、すみません!すみません!」
怒り奮闘のスクアーロ作戦隊長にぺこぺこと頭を下げるセンパイ。早い。残像が見えるほど
「何でハルが謝ってんの。謝るのこいつだろ」
「違うだろぉがぁ!!」
ああ、もう、火に油を注いで。
可愛そうなハルセンパイ。どうしてあんな王子と一緒に居るのか・・・いや、運悪く居合わせてしまったんですねー。
何てかわいそうな・・・不憫ですー
「次からはちゃんと書類を出すように言いますので!」
すみません!とまた頭を下げるセンパイ。鬼のスクアーロ作戦隊長は、このヴァリアーで生きてきて、やっと出会えた素直に頭を下げて謝罪する仲間を見て、怒りを抑えていった。
「チッ・・・次は無ぇからなぁ・・・!」
堕王子を睨みつけるが、堕王子は目が悪いのか頭が悪いのかそっぽを向いて知らん振りをしていた。
そんな態度になれたスクアーロさくせんちょーはムダに長い髪をはためかせて去っていく。
居なくなったのを前髪で隠れた眼で確認した、ミーの消えてほしい人ナンバー1に輝くベルフェゴール駄王子は文句を垂れ流す。
「つーかさぁ。報告書なんて意味なくね?死んだ奴がどーのこーのって、面倒くせぇだけじゃん?死んだのは死んだんだし、それ以上に何を望むんだっつーの」
「はひ!ベルさん、報告書というのは大切なんですよ!」
「何処がー」
「だって、上層部の人・・・まぁ、ボスでいいです。ボスはベルさんが仕事をした所を見てないんですから、どんな方法でしとめたかとか、ちゃんと知らなきゃ駄目なんですよ」
人差し指を立ててそう講義するハルセンパイ。身長差で堕王子に上目遣い、そして顔を近づけて話している。
畜生。あのクソ王子めが。ニヤニヤしてるんじゃないですよー。
「へぇー・・・でも、俺王子だし、わかんねーわ。やっぱり」
「なっ・・・だからですねぇ!」
ちょっとちょっと。見え見えなんですよ、単細胞王子。
ずっと顔近づけてほしいとか思ってるんでしょ。ミーだったらそう考えるので直ぐに分かりますよー。
これ以上見守っていたら、堕王子菌がハルセンパイに移ってしまう・・・
「なーにやってるんですかー。ベルセンパイ」
「はひ。」
「チッ」
その舌打ちはミーの考えにイエスと答えたと受け取ります。
こっちもお返しとして舌打ちをしてやりました。
「フランちゃん、任務から帰ってたんですか?」
「イエス。さっき帰ってきましたー。ほら、報告書ださなきゃですしねー」
うまい具合に報告書を出す途中だったのが幸運だった。正直面倒くさいと堕王子と同じ事を考えていたのだが、ラッキーでしたー。
ぴらぴらと数枚の紙切れを揺らすと、ぱっと笑顔を作ったハルセンパイ。太陽よりも眩しいです。
そして罰の悪そうな顔をしている堕王子。明らかにテンメ・・・と、お門違いな殺気を送られてきます。返品します。
「ほら、ベルさん!フランちゃんだってこうやってちゃーんと出してるんですから、ね?センパイならちゃんと出しましょうよ!」
「は、ヤだし」
「はひ!」
耳をほじりながらそう言う駄王子。
餓鬼じゃないんですから。と、意味を込めて鼻で笑う。
カチンときたらしい。
「とりあえずー。センパイ早く書類出したらどうなんですかー?知ってるんですよー?今まで書類溜まってるんでしょー?」
「そ、そうなんですか!?」
「イエス。何故かベルセンパイとは任務が一緒の時が何故か多いんですよねー。その時にはミーに押し付けてましたけど・・・一人の任務も結構ありましたからー?」
ニヤニヤとしてるであろう顔を隠しもせずにベルセンパイに向ける。
今はこちらが押している。さぁ、今までの恨みを晴らすときが来たようですねー
「ねぇ、ハルセンパイ。ボスに直接言って説教とかしたほうがいいんじゃないですか?」
「そうですね・・・それがいいですね!」
「でしょう?ボスだってベルセンパイがちゃんと報告書を持ってくる事を望んでいるはずです。パパンは子供を叱るのは当たり前ですしー」
「はひ!ぱ、パパン・・・・!!」
あ、これは少しまずかったですかね?
「いいですね!お父さんですかー!ぴったりじゃないですか!」
「「いや、それは無い。」」
つい堕王子と息がぴったり合ってしまった。
無い無いと胸の所で振っている手の動きもまったく一緒。気持ち悪いったら無いですね。と、視線で送ってみる。
真似すんじゃねーよ。と視線で送られてきた。お互いにそれ以上視線でも言葉でも会話をする事無くハルセンパイに目を向ける。
「それじゃあ、ミーも報告書とどけまるんで、一緒に行きませんかー?」
「はい!それじゃあベルさん、行きましょう!」
「誰が説教されるの分かってんのに行くわけ?」
「な!説教じゃないです!愛の鞭ですよ!」
「ボスの場合愛が微塵も無いから。鞭だけなんだよな」
「はひ?鞭はディーノさんですよ?」
「そーじゃねーし」
「まぁいいです。行きましょうー?センパイ」
手を差し出すと、にっこりと笑ってはい。と何の躊躇いも無く手を差し出してきた。
すべすべで柔らかい手に一瞬何処かに飛んでしまいそうになったが、その手を引いて愛の逃避行ー。なんて事にはもちろん無かったですけど、とにかくあの堕王子から引き離さなければ。
「・・・って、おい。そっちボスの部屋じゃねーじゃん!」
安心した顔をしているのだが、何処か不満げな堕王子センパイの声が耳のいいミーに微かに届いた。
それにしても、ハルセンパイ、これじゃあ本当に誘拐されますよー?
「はれ?ボスの部屋は・・・?」
堕王子の場所から走って走って行き着いたミーの部屋。その中にこれまた自然に入って、ミーが鍵をかけたことにも気が付かずに部屋を見渡してそう呟いた。
ハルセンパイは多分小学校低学年からやり直した方がいいと提案しますー。特に不審者とかそういう教育を重点的に。
「此処で作戦会議ですー。あのボスが快くミー達の思惑に乗ってくれる程お人よしじゃないですからー」
「はひ、ボスは優しいですよ?」
「ボスはボスで忙しいでしょうからねー」
「あ、そうですねー」
答えになっていないのに、それにうんうんと頷く。
・・・センパイ、貴方は・・・
軽く懊悩してきた。蛙の被り物をバンバン叩いて頭に振動を送る。
「はひ?どうしたんですか?フランちゃん」
「ああ、頭が痒くなったものですからー」
「それならハルが掻いてあげましょうか?」
「へ?」
電気を付けた時にそういわれ、直ぐ近くに居たハルセンパイが被り物の下に手を差し込んで触る。
別に、それだったらミー自身でも出来るんじゃ・・・
「どこら辺ですかー?」
だけど、地肌を這い回るセンパイの手にはそんな言葉なんて無粋の他何者でもなくて
「あー。もっと右ですー。右ー」
「此処ですか?」
「あうー」
犬や猫の気持ちがよく分かる。
撫でられるというか、触られると声を出したくなるものだ。嬉しくて。
右耳の辺りにハルセンパイの手があって、どうせなら耳を触ってほしい。
しかも、掻いているつもりなんでしょうけど、それは優しすぎますよ。撫でているような、指先で撫でられて、かえって痒くなりそう。
これがスクアーロセンパイなら「テメェ!もっと強く掻けぇ!弱ぇぞぉ!!」とかなんとか叫びそうですねー
「気持ちいいですか?」
言葉のチョイスはどうなんですかねー。
頭を撫でられて・・・掻かれているのだから、ハルセンパイとの距離が縮まっているのは当然の事。
このまま顔を近づければそのままキスできる距離。
「・・・耳も、痒いですー」
開いた口から出たその言葉に、どう出るのかと見守る。
「そうですかー。此処ですか?」
「・・・・・・」
「・・・・?」
「・・・・・・」
「・・・違うところ、ですか?此処?」
「・・・・・・」
「・・・・フランちゃん?」
応答が無いですよー。と、眼の前で手を振られる。でもそれは耳に触っていた手じゃない手。今まだ耳に触れられている。動いていない指。
ミーが固まったのが驚いたのか、指の動きが停止。
「・・・ハルセンパイ・・・」
どうしよう。本当にどうしよう。
「何ですか?」
心配そうに聞き返してくるセンパイ。
「ボスの所に、行きましょうか?」
「はひ?・・・そうですね」
今さっき来たばかりなのに、と疑問が浮かんだのでしょうけど、直ぐに消えてしまったらしい。
「ベルさんの事、頼まなきゃですしね!」
「それもありますけど、」
ハルセンパイを小学校低学年からやり直しをさせてもらおうと頼みます。
そう言うと、ハルセンパイは笑って促した。何言ってるんですかー。フランちゃんってば!さぁ、行きましょう!
レッツゴー!と叫んで部屋を出て行ったハルセンパイ。鍵がかかっていたことにも何ら不思議は無かったらしい。
本気なんですけどねー。
ボスの所で堕王子の事について言った後、本当にそれをボスに言った時のハルセンパイの顔ったら。
かわいすぎでしょう、ハルセンパイ。
フランのキャラが分からない。フランの身長が分からない。
フラハルはどうして他キャラがめちゃくちゃ出るのか不思議でならない。