ぴちゃん。
その音は髪から湯船に雫が落ちた音だった。どちらもお互い固まったままで、動けなかった。雲雀の服が水分を含んでずしりと重い。
肩に置かれている手がぴくりとも動かない。
ああ、やっぱりおかしいのだ。この状況は固まってしまうほどありえない。
檜の風呂だ。とてもいい香りがする。日本の匂い。
そんな檜の風呂に二人で入っているという事。とてもおかしい事だ。そう、彼は服を着ているのだから。服を着て風呂に入るなんてそれはおかしい事。
でも眼の前で左肩に手を置いてこちらを向いている彼女は服を着ていないそれもとてもおかしい事だ。
ぽたり、とまた彼女の前髪から雫が落ちた。
「・・・・恭弥さん。どうしたんですか・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・・あの、とにかく、服、濡れてますけど・・・」
「・・・・・・」
「多分、あと、五分で終わると思うので・・・ですね」
どうします?上がります?
「・・・此処は何処?」
「お風呂場です。」
「ふざけてるの」
「ふざけてません。」
「・・・それよりも、君、何で髪切ったの」
「・・・・・・・えーと。それは・・・・話せば長くなるから話しませんが」
話さないのか。
「・・・・すみません。ちょっと、タオル、取ってきます。」
さすがに裸は恥ずかしいですし。恭弥さんだけ服着てるのずるいですし。
「・・・・・・」
「というより、やっぱり上がりましょうか」
「・・・・そうだね。」
本当だ。普通なら出るのに。何故でなかったんだ僕。
二人一緒に上がったおかげで、少し温くなったお湯がまとわり付いて重かった。
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「・・・そうでしたね、恭弥さんは恭弥さんでしたね・・・昔からそうでした・・・」
「・・・・ねぇ。」
「・・・・・なんですか」
「君と僕は風呂に入っていたんだよね?」
「それは恭弥さんも体験したはずですけど?」
「だったら別にいいじゃない。」
「・・・よくありません!ハルは、ずっと、ずっと乙女なんです!!」
何故ここまで怒られなければいけないのだろうか。いいじゃないか、別に。というよりも、脱衣所というのはそのためにあるもので、それを活用しないでどうするのだ。
10年後の自分のらしき浴衣を着て長い和風の廊下を歩いていた。やはり10年は長いらしい。今の自分よりも大きかった事に多少のショックと驚きがあった。
そうして廊下を歩いていると不貞腐れているはずのハルがちらちらとこちらを見てくる。
「・・・・あの。」
「何」
「・・・・・ひばり、さん。」
「だから何」
「・・・・・ぎゅってしてもいいですか?」
「・・・・・・は?」
思わず廊下で止まった。
「う・・・あの・・・だって・・・」
雲雀さん。ハルと身長があまり変わらないんですもん。
「・・・・それは喧嘩を売っていると解釈してもいいの?」
「はひ!違います!ただぎゅってしたいだけなんです!こんな機会、あるものじゃありませんし!」
中学生ですよ!?青春真っ只中ですよ!?若かりし頃の雲雀さんですよ!?
「・・・・勝手にすれば。」
「はひっ!」
そういって背筋を伸ばして、お互いに向き合うようになった。
「・・・・ねぇ。」
「はひ・・・」
「しないの?」
「・・・・な、何だか、信じられないくらいドキドキしちゃって・・・」
「・・・・・しないなら行くよ。」
「はひ!ヤですよ、それは!」
そう叫んでも尚、やはり抵抗感があるらしく、手を少し差し伸べて止まっている。
「早くしないと噛み殺すよ。」
「なっ!中学生の恭弥さんはハルにまでそんな事言ってましたか!?」
「・・・・・・」
どうやら10年後の僕は信じられないほどに彼女に甘くなってしまったようだ。
「うー・・・えい!です」
飛びながら抱きついてきたハルに一瞬倒れそうになった雲雀だが、何とか踏ん張る。
猪突猛進なハルは何の前触れも無く来るものだからいつもこんな感じだ。
10年後も何も変わらないんだ。としみじみと感じた。
「あー・・・丸い頭ですー」
頭を撫でてそう言うハルにムッと来るのが雲雀。だがそれは抑えた。
「・・・・きょーやさん。ハルとずっと一緒に居てくださいね。」
「・・・・・」
「ハル、我侭とか言っちゃうときもありますし、迷惑かけちゃうかもしれません。」
「・・・・・」
「でも、ハル。きょーやさんの事大好きなんです。」
「・・・・・」
「それは今も昔も変わってません。」
「・・・・・」
「・・・・だから、」
ボンッ
「・・・・はひ、いつもの雲雀さん。」
「・・・・・・」
「よかったですー・・・びっくりしちゃいました。いきなり裸の大きな雲雀さんが現れて・・・大変でした。」
「・・・・・・」
「・・・・・・あの、すみませんでした・・・平手打ちしちゃって・・・」
「・・・・・・」
「・・・だって!いきなり裸だなんて!そんな破廉恥な事・・・・・雲雀さん?」
「・・・・髪、長い。」
「はひ?」
「・・・・・・・・戻ってきたのか。」
「どうしたんですか?」
「ハル。」
「はひ?」
「君10年後には胸結構大きくなってた。」
「・・・・・・はひ!?」
プリズムライン
檜の香りがまだ残ってる。
あとがき
すみません。ちょ、本当すみません・・・
何から謝ればいいのか分からないくらいすみません・・・
いろいろと考えたのですが、もう、こんなのしか思いつきませんでした・・・・・・・・(汗
あと補足として、ハルが恭弥さんと雲雀さんとなんか交互に呼んでいますが、あれは10年後と10年前を分けて呼ぼうとしていたんだけど。いろいろとあってごちゃごちゃになってしまったという。
そういう事ですw