春の萌芽を待つ冬のように、ただ人間は恐ろしい寒さに耐えていた。

凍てつく冷たさは絡める指の熱さを苛烈に伝えられる。まさに愛を更に引き立てる季節だった。

それなのに嫌われる冬はなんと悲しいことか。

それ故に、ハルはただ手に力を込めた。同情など欲していないだろうし、それ以上にその感情を表す言葉を彼女は知らなかった。

あふれ出る感情の炎の波は引くことがなく、はしたなくこぼれおちる。

指先が冷たかった。だから今火傷するくらいに熱いのだ。

そっとハルは涙を流して、冬が過ぎ去るのを待ってほしいと願うばかりだった。

 

 

 

そっと眼を閉じると、睫毛がザンザスの顔にかかるのが分かった。毛の先すらも神経が生きているかのように感じる。そこから熱が伝わって、奥底に眠る泉を沸騰させてしまっているのだとハルは思った。

冷たいシーツが足に絡めとられるようにベッドに沈み、熱を奪いあう様に口をあける。

魚のように空気を求め、熱を忘れた指先はザンザスの手を撫でた。

「泣いちゃっても、嫌わないでくれますか?」

言葉にする事をあまり好かないザンザスにハルはあえて聞いてみた。それを答えてくれるも答えないもどちらにしても三浦ハルのイメージと立ち位置は変わらない。

それは自身ではなくただ、今が一番底にいるのだと思っているからだ。

「泣くな。面倒くせえ。」

「う・・・あ、はい・・・」

それでももう泣いている事はもちろん、ザンザスは知っている。ぺろりと涙を舐められたのだから絶対に分かっているはずだ。

ハルはそっとザンザスの首に手を絡ませて抱きつく。

ひっついていないとどんどんネガティブになってしまいそうになる。

今は生きるために必要な熱を奪う季節だから。

「ボス・・・もう、なんかハルもう駄目です・・・」

誰にでもある良く分からない重たい気分。何かが悪いわけじゃないけれど、しいて言うならハル自身が悪いのだけれど。

「好きです、大好きです・・・う、好きです・・・」

ハルが悪夢に侵されているようにそう繰り返し呟いた。泣き声でそう言われて悪い気はしないのだが子供のように泣かれては抱く気分ではない。

はぁ、とため息を吐いてハルの腰と後頭部に手を差し込んで起き上がらせ、胡坐をかいた足に乗せる。

「うー、ボス・・・!」

首に抱きついて足を腰に回す。慣れない手つきでハルの背中をさすったり叩いたりする。

男女の艶やかさは遥か彼方へ飛んで行ったように、ベッドの上では赤子の夜泣きにうんざりするような親の気持ちになりながら、ザンザスはハルの涙で濡れた頬にそっと自分の頬を重ね合わせた。

まるでキスをしているかのように温度が伝わり、ハルの鼻をすする音がだんだんと小さくなってきた。

「ハルはボスが大好きです。死ぬほど好きです。フォーリンラブです。だから・・・なんだか、その・・・」

言葉数が少なくなっていき、寝息が耳元で聞こえた時にはザンザスは迷わずハルをベッドに投げ捨てた。

「はひ、」

「ふざけんなよ。俺はテメェのお守役じゃねえんだ。」

「え・・・そりゃそうですよ。ハルがボスのお守役なんですから。」

眼を擦りながら当たり前の事を言うハルに、ザンザスはため息を吐いた。小さくあくびをしてまたベッドに顔を埋めて寝ようとしているハルの裾からそっと手を入れてみた。

ぴくり、と反応したがハルは拒否するわけではなかった。

あどけない横顔は確かに睡眠を欲しているようで、ゆったりと下りた瞼がとても幼さを感じる。

暖かい背中の肌に手を這わせる。わき腹に手を滑らせ、すっと眼を細めてその肉を思い切り握った。

「っっ!!!」

「起きろ。」

「あ、あ、あ!」

「このまま寝かせるわけねえだろうが。カス。」

「なっ、なななななな!何、何を!!」

「呂律も回らねえのか。」

もう片方の手をハルのむき出しの足に這わせて、今度は太股の肉をぎゅうっと握る。

「や、あの、起きましたから・・・起きましたから!」

「それならいい。」

「・・・起きました、よ?」

「ああ、ならいい。」

「・・・ボスの馬鹿ーー」

「殺すぞ。」

「ハルは今とっても情緒不安定なのですよ。」

枕を腕を伸ばしてとって、顔に埋めてそう言う。くぐもった声が聞こえるが、ザンザスはハルの耳元に顔を寄せるようにして覆いかぶさった。

「重いです・・・」

「眠るな。」

「大丈夫ですよ、もう、あんな屈辱的な事はされたくありませんから・・・」

背中を這いあがってくる手がホックをはずした。まるでマッサージをされているようにうつ伏せになっているハルが肩を揺らした。

何の障害も無くなった素肌に手を這わせて、前へ回り込むように滑らせて柔肌を堪能する。

「あ、」

「揉めねえ。」

「ん、いいんですよ・・・」

「俺が良くねぇんだよ。」

「ボスのえっちー」

「つまむぞ。」

「ごめんなさいっ」

そして会話が無くなり、ザンザスが暖かさに眼を細めている。ザンザスもザンザスで萎えてきたのか、ただハルの背中を撫でているだけで満足そうだった。

ずしり、と背中に乗っかっているザンザスに苦しさを感じながらも、ハルもまた瞼が重くなってきた。

眠ってしまえば情緒不安定も関係ない。

そっと瞼をおろせば何もない暗闇。背中を触っている手のひらの温度に安心してしまったハルは、最後に一筋の涙を流して深淵に意識を落とした。

 

 

 

 

情緒不安定な時もあるさ。だって女の子だもん!(ぇ