波は無く、ただの四角い箱の中に水が入っているだけ。
彼は頬杖をついてそれを見ている。それは彼女がそこに居るから。そして、その彼女は空を見つめている。彼の視線は気がついているのか気がついていないのか。
彼女が居る事で、少し水面が揺れている。水面に移った彼の顔も揺れた。
「・・・・このまま、太陽を見てたら、動くのが、分かりますかね?」
「・・・・さぁ」
「・・・ハル、太陽が動く所、見た事なくて」
「うん。僕も」
「・・・見てみたい、です」
「・・・・・ふやけるよ。」
「・・・・・」
輝く太陽のせいで、水は少しぬるい。そんな太陽をずっと見つめ続けている。少し虚ろな眼をしても、彼女はずっと見ている。
髪が水の中にさまよっている。彼はそれを見つめていた。頬に汗が流れて、顎に行き着き、落ちる。
煩い蝉が鳴き続ける。ほんの少ししか生きられない為か、ずっと鳴き続ける。彼はそんな蝉が嫌いじゃ無かった。それは蝉の死ぬ間際のあの断末魔の鳴き声、あれが好きなだけ。それ以外はただの煩い虫、としか認識していない。
そんな耳に残る蝉の鳴き声を右から左に流しながら、彼女を見つめている。何も考えず、ただぼーっとしていた。
「・・・・・あの、さ」
「・・・なんですかー」
「・・・別に、太陽が動くわけじゃなくて、地球が動いてるんだから、ね」
「・・・・・そんなの・・・し、知ってます・・・よ!」
「・・・・・忘れていたのか、それとも、知らなかったのか・・・・どっち?」
「・・・・別に、どっちでも・・・」
「よくないよね?」
「・・・・・半分、忘れてて、半分、知りませんでした」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・・・ふーん」
彼が興味なさそうに返事をする。二人とも何だか疲れてるようだ。彼女は太陽から視線をはずさず
「・・・雲雀さん、ハル、もう、上がります」
「うん。それがいい」
「・・・・」
ぷかりと仰向けに浮かんでいた彼女は水中に体を沈めた。
沈めた。
「・・・・・・・・・・」
浮いてきた。
「ッゴホッ!ッ・・・!」
「・・・・な・・・・」
「たすっ・・・!げほっ!」
「何やって・・・!」
彼は飛び込んだ。水面が更に揺れた。
「・・・・雲雀さん・・・すみませんでした・・・本当・・・」
「・・・・・・」
「ずっと太陽ばっかりみてて、眼の前が、真っ白で・・・上も下も分からなくなっちゃって・・・」
「・・・・・・」
「混乱、しちゃって・・・・あの、ありがとうございます」
「・・・・・・」
二人が座っている所は水溜りが出来ていた。髪からはぽたぽたと、やむ事の無い雨のように感じる。彼は俯いたまま何も言わない。
「・・・・あ、の・・・」
「・・・・・・・」
ドンッ
「え・・・」
バシャァン!
彼女はまた水の中に逆戻り。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・あの、何をどういえばいいのでしょうか・・・?」
「・・・・・・」
「・・・えーと。雲雀、さん?」
貴方、今、突き飛ばしました?
「うん。」
やっと彼が口を開いた。
「・・・・・・・えーと。何ででしょうか?」
「突き飛ばしたくなったから」
「・・・・・・・」
「それ以外、何か必要かい?」
「・・・・・・いえ、いりません・・・」
濡れた髪から覗く眼が、今なら眼が合うだけで殺人が出来てしまいそうで、彼女は目線をはずして言った。
「・・・・・・で」
「はい?」
「何で太陽なんか見てたの?」
「・・・何で、熱いのかなー?とか、何で、動いているのかなー?とか、思っちゃったり、して、ですね。」
「・・・・・・」
「あと、太陽は、本当に、燃えてるのでしょうか?とか、考えたりしたんですけど」
「・・・・・・」
「公園で見てたら、倒れちゃってですね」
「・・・・・・」
「部屋から、見ても、窓越しで、やっぱり、生で見たいじゃないですか」
「・・・・・・」
「考えて、考えて、プールなら、って。思ってですね」
「・・・・・・」
「でも、市民プールは、いろんな人がいて、じっと、そこで見てても迷惑ですし」
「・・・・・・」
「・・・だから、雲雀さんに、お願いして・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・え、と。雲雀さん?」
「・・・・・・」
バタッ
「・・・ひっ・・・・雲雀さんっ!?」
その後、彼女が風紀福委員長を呼びに行き、病院に直行。着替えて病院に行って医師から出た言葉は
「脱水症状と日射病ですね。」
だった。
静かな病室の中で、彼女と彼は居た。彼はベッドの上で上半身を起こしていた。彼女はその横にパイプ椅子に座っていた。
「・・・・ひっ・・・うぅ・・・」
「・・・・」
「ふぇ・・・ひっ・・・ばりさっ・・・ごめんなさいぃっ・・・・!」
「・・・・・・」
「死んじゃ嫌ですぅ!!」
「君、眼科行ってきなよ」
「はひっ!?」
「・・・・落ち着いた?」
「はい・・・」
ハンカチで眼を拭きながら頷く。
「・・・・で、太陽は動いてた?」
「・・・・分かりません」
「・・・・まぁ、そうなんだけど」
地球が動いてるわけで、太陽が動いてるわけじゃないから
「太陽よりも雲雀さんですし・・・・雲雀さん。お付き合いありがとうございます」
膝に手を当てて頭を下げる。彼はそれを黙ってみているだけだった
「で、考えたんですけど、今度は夜プールに行って月を観察しようと思うんですが・・・」
「帰れ。」
彼が冷たく言い放った
世界は誰の為に廻っているのだろう
それでも僕は付き合ってしまうのだろうけど
あとがき
プールネタとか好きなんですけど、雲雀さんがプールとかありえなくてですね。何だかこうなっちゃいました。はい。突発です。はい。
貸切にして、雲雀さんとハルだけでいるとか。そんなのが好きです。はい。
あと、ハルの水着姿とか、他の男に見せたくなくて、貸切にする、とか、独占欲とか。そんなの最高じゃないですか。
ハルを愛しすぎてる雲雀さんとか、もう、最高でしかたがありませんよね。ということで。
でも、突っ込む所は突っ込む雲雀さん。甘やかすだけじゃありませんよ。という結果がコレでございました。
蝉の断末魔の鳴き声のネタ。あれ。雲雀さんなら絶対好きだよな。こーゆーの。とか思ってしまいまして・・・微かに好きだといいよ。
雲雀さんは何だか無意識に好きなものがあると思う。その例がハル、とか。全然気がつかなくて、ある日、急に気がついて、少し混乱して、で、結果。手に入れよう。とか思って、いろいろとしたり。
・・・・あとがき、めっちゃ長くなっちゃったよ。これあとがきじゃないよね。ヒバハル談義だよね。
注意しなきゃ、もう、これ、毎回ヒバハル談義ばっかりになっちゃうよ・・・